第26話
「アス、あなた顔が赤いわよ。大丈夫?」
「……」
ここは、リリスの屋敷のテラスにて――――。
アスタロトは、まともにウリエルの顔が見られなかった。顔を見れば、彼女の透けそうなランジェリー姿が重なる。正直言えば、もっと見たかったのだが。
そういえば……。
「また、あの桜が見える」
おかしいな、違う場所のはずなのに。またテラスから、正面に例の白い桜が見える。
「ねえウリエル、あの桜は――――」とアスタロトが言いかけた時「さあ、お茶しましょ」と、リリスがお茶を乗せたトレーを運んできた。
良い香りが漂ってきた。
(ハーブティーか……。ちょっと苦手なんだよな)
それでも彼は一口飲んでみた。
「あ、美味い!」
リリスが淹れてくれたハーブティーは、本当に美味しかった。コーヒー派の彼でも、これだけは格別だった。ウリエルも美味しそうに飲んでいる。すぼめた唇が、花びらのようで可愛らしかった。
(なんか、ガウン姿の美女二人に挟まれた男ってどうよ?)
アスタロトは嬉しいやら恥ずかしいやらで、どういう表情をして良いか困った。
「アスタロト、今回の事件の事だけど……。本当にありがとう」
「いや、俺は何も……。それよりリリス、君の本が役に立ったんだ。アスモデとも言っていたんだ。あのヒントが無かったら、俺達はまだ迷宮の中だっただろう、って」
アスタロトは、リリスにもう一度お礼を言った。
「アス、あたしはあの本を”見せただけ”よ。後は解決へ導いたのは、あなた方の力よ。いずれにせよ、あの本が無くても解決出来たと思うわ。あなたなら」
そう言うとリリスは、ゆっくりとハーブティーのカップに口を付けた。
「ねえアスタロト、ルシフェル様がおっしゃっていたわ。あなたは優秀だって。彼が他の方を褒める事って、滅多にないのよ」
ウリエルは前に乗り出し言った。その際、白い胸の谷間が見えそうで、慌てて彼は目をそらした。
「ルシフェル様が? へ、へえ~……珍しいな」
アスタロトは照れくさかった。
(でも、これは光栄に思ってもいいよな)
照れくささを紛らわす為、彼はアスモデとも話題にした、座天使のドラゴン無断借用事件(?)を、面白おかしく話した。
「えーっ! あなたそんな事したの?」
予想以上にウリエルからブーイングを食らってしまった。
「サイッテーーーっ!」
「あははっ!」
リリスは手を叩いて大笑いしている。
「いやいや、あれはホンっとサイコーだったんだって! ウリちゃん、今度一緒に乗ろうぜ!」
アスタロトは、つい彼女に言い寄ってしまった。
「いてっ!」
テーブルの下で、思い切りウリエルから蹴られた。
「ま、とりあえず乾杯しないか? 無事解決を祝って」
アスタロトは蹴られた膝をさすりながら、こう提案した。
「あんた散々アスモデと飲んだんでしょ?」
「うー……。ま、まあ、それはそれとしてさ、我々も祝おうぜ!」
「はあ~……」
ため息を吐きながらも「しゃあないな」と、リリスは彼の大好きなビールを取りに行った。
ウリエルはこれを見て、両手で口を覆いころころ笑っていた。




