第25話
翌日アスタロトは、さっそくリリスが管理する天界の花園へと向かった。
「あいつんち、すぐ見つかるかなあ? 何せ何処に現れるかわからねえからな」
霧になってブツブツ言いながら探していると、意外にも彼女の美しい屋敷はすぐ見つかった。
戸口の前に降り立つと、一呼吸置いてからノックしてみた。
その少し前、リリスの屋敷の中では――――。
「ウリエル、今年も舞踏会の衣装は任せてね」
「もちろんよ! 私、リリちゃんのデザインすっごく楽しみにしてるんだから」
「今年のは、うんっと派手にいきましょ!」
楽しそうに笑い合う声が響く。
リリスは自分の寝室で、鏡台の前にウリエルを座らせ、彼女の髪を梳かしていた。美しくなめらかな黄金の髪が輝く。リリスは、この一時に一番の幸せを感じていた。
お互い冗談を言い合い、ふざけあい、そして愛情を感じて……。
その昔花園に来る前は絶対に得られなかったものを、彼女は手放したくなかった。そして、ウリエルを永遠守り続けようと誓った。
「ウリちゃん、あなた細いわりにおっぱい大きいわよね」
「んもう……バカ」
二人は先程まで眠りに就いていたのか、まだネグリジェ姿だった。ウリエルは時々鏡の前で変顔したりして、おどけてみせた。
「こらこら、せっかくの可愛い顔が台無しでしょ」
リリスが笑いながらたしなめる。ウリエルはペロッと小さく舌を出した。
彼女達もまたアスタロト達と同様、例の事件について話題にしていた。奇妙だったが、マモンの性格を考えると、あり得る事件だったのかも、と。
「でも、これで天界も管理界もひとまず安心よね」
「そうね!」
二人はリリスお手製の果実酒で祝杯を上げ、ガールズトークに花を咲かせていた。そして、夜の来ない花園で心地好い眠りに就いていたのだ。
彼女達が笑い合っていると「あら? 誰か来たわ」と、リリスは窓の外を見た。
「ああ……アスタロトだわ」
リリスはガウンを羽織ると、戸口へ向かった。
アスタロトがノックをし暫く待つと、深紅のガウンを羽織ったリリスが扉を開けた。
「あ……この間はどうも」
彼はリリスのガウン姿に、ちょっと身を引いた。
「あの、君にお礼を言いたくて」
「お礼? 何の事?」
「君が見せてくれたの人間界の本さ。あの本のおかげで解決出来たんだ。良いヒントになったよ」
「ああ、でもそれは――――」
「アスタロト?」
戸口に立っていたリリスの横から、ひょこっとウリエルが顔を出した。
「アス、私お泊まりしたのよ。それでね――――」
ウリエルは戸口から出て来て彼に近づいたが、その姿にアスタロトは驚いてしまった。
顔がたちまち真っ赤になり、頬が火を吹いたように熱くなる。
(う、ウリちゃん! それ、ベビードールじゃん!)
殆ど透けそうなネグリジェ姿――――しかもセクシーなランジェリー――――にアスタロトは、思わず両手で自分の顔を覆ってしまった。
「ちょっと、どうしたの? ねえ、アス!」
ウリエルは訳が分からないとでもいうように、彼の顔を覗き込んだ。そして、無理矢理その両手を外そうとした。
外されかけた手の隙間から、ウリエルのあどけない顔が覗く。
慌ててアスタロトは再び両手で顔を覆い、後ろを向いてしまった。
「勘弁してよ~! ウリエル~……。頼むから何か着てよ~!」
顔を覆ってるせいか、何を言っているのか分からない。
戸口でそのやり取りを見ていたリリスは、笑いを必死に堪えていた。
「え~? なあに? 何言ってるの?」
(う~……可愛い、可愛すぎる!)
ベビードール姿のウリエルを、本当は見たいのに。
いやいや、さすがにそれはマズいだろ!
「ほらほらウリエル、彼困ってるじゃない。ガウン着なさい」
リリスは薄ピンク色のガウンを彼女に着せてあげた。
(んったく……ヌード描いた時はあんなに嫌がったくせに。わけわかんねえよ!)
彼の頭の中は、暫くベビードール姿のウリエルがグルグル回っていた。
リリスのヤツ……絶対わざと着せたな!




