第23話
ルシフェルの下へ犯人を突き出したアスタロトは「ルシフェル様! こいつが犯人ですよ。こいつ、何を探していたと思います?」と言い、苦しげに呻いている天使を睨み付けた。
「ドイル! 貴様いったいあそこで何をやっていたんだ?」
カマエルは部下に駆け寄り、胸ぐらを掴んだ。そのはずみで、ドイルが抱えていた薄汚い何かが床に落ちた。
「これは……?」
カマエルは思わず身を引いた。
「それはマモンの翼だよ。奴が天使だった頃の物さ。奴はあの地獄界にいた時から、大事そうに隠していたみたいだな」
アスタロトは言い、そして「それをお前が人間界へ持って行くよう、兄であるマモンから言われ続けていたんだろ?」と、床に落ちていた灰色の翼を拾い上げ、それをルシフェルに渡した。
「これを最終的にどうするつもりだったんだ?」
ルシフェルが忌々しげに言う。静かだが、地獄界の支配王として戦慄させるには十分だった。
ドイルが淡々と、そして弱々しく語った。
「わたしはマモンとは兄弟ですが、最初は違ったんです……。わたしはカマエル様の部下として役割を全うするつもりでした。本当です!」
しかし彼の頭の中には、いつからか誰かの声が響くようになってきたのだ。それは、地獄界に幽閉されていたマモンからの”メッセージ”。
何年も何年もかけて、弟であるドイルに伝え続けていたのだ。
『元地獄界から、俺の翼を見つけてくれ……。それがあれば、俺の城は完成だ!』
「兄は自分の翼でさえ金目にしようとしていたのです。そして、弟のわたしに、いつかそれを人間界に売り付けるよう言いました」
いつしかドイルの目からは涙が……。萎れ倒れている翼は、微かに震えていた。
「だから、あの古い地獄界へ何度も何度も探しに行きました。門の鍵はなんとかフックを壊し手に入れましたが、問題はあの中です。天使の身であるわたしには、使われなくなったとはいえ、あそこは息苦しく忌まわしい場所です」
(そんな場所でウリエルは大変な思いで任務を遂行していたんだ)
アスタロトは、このドイルという男に腹を立てた。
「任務中の合間に、何度もあそこへ通いました。そしてついに、兄の翼を見つけたのです。後はご覧の通りです……。本当に……本当に、申し訳ございませんでした!」
ドイルは床に額を擦り付け、許しを請うた。
「貴様、よくも今まで俺を騙していたな! 兄と同じクズ野郎だな!」
カマエルは部下に殴りかかろうとしたが、その時だった――――。
急に黒い炎と共に、ベリアル達が戻って来たのだ。
ドイルの兄、マモンを連れて。
惨めに縮こまったマモンは、ルシフェルの前に投げ出された。そして弟と同様許しを請うたのだった。
「ああ……我が愛しきルシフェル殿! どうかお許しを……。あなた様を騙すなんて毛頭ございません。全部この弟、ドイルがそそのかしたのです!」
「兄さん……そんな」
アスタロトは反吐が出そうだった。こんな糞野郎のせいで、どれだけ天界全体が振り回されたのか。
「天界や地獄管理界を混迷させた罪は大きい」
ルシフェルは手にしていたマモンの翼を握り潰し、灰と化した。
「ただ地獄界へ送り返すには惜しい……」
氷のような瞳が光る。ベルゼブブに至っては、すぐにでも処刑したそうに黒い杖を撫で回している。
アスタロトは、ある考えを伝えた。
「ルシフェル様、こいつら二人を同じ地獄界へ置くのは危険だと思います。ここは天界の裁判にかけるのはどうでしょう?」
「天界に委ねると?」
「はい! 最終的にメタトロン様か、サンダルフォン様に判断を委ねると思いますよ」
アスタロトはニヤリと笑った。
「そ、それだけは!」
マモンもドイルもその偉大なる名前を聞くと、すっかり顔を青くし震えだした。
「ふっ、それはいい考えだな、アスタロト」
ベリアルが目を細めた。
アスタロト自身も、我ながら良い考えだなと、胸を張りたくなった。
――――ウリエルなら、なんて言ってくれるかな?




