第22話
カマエル達はルシフェルの部屋の前に来ていた。
カマエルもそうだが、部下達はかなりの緊張からか顔がこわばり、中には震えている者までいた。
今まさに、リヴァイアサンのドアノッカーに手を掛けようとした時だった。
重そうな扉から出て来たのはアスタロトだった。
「あっ! 貴様……いや、カマエル!」
驚いているアスタロトを押し退け、カマエルはすぐさま部屋へ入ると膝から崩れ落ち「ルシフェル様! 申し訳ございません! これを……これを」と言い、先程部下から渡されたフックの一部を、震える手で床に置いた。
「それは?」
アスタロトは素早く”それ”を拾い、ルシフェルの所へ持って行った。
「これ、鍵のフックの一部じゃないですか?」
「……これはどういう事だ? カマエル」
その時、黒い塊が猛然とカマエルに襲いかかった。
カマエルの喉元には、ベルゼブブの黒い杖が突きつけられていた。部下達はすっかり怯えきってしまっている。
「貴様か? 貴様がウリエルちゃんの鍵を盗んだのか!」
ベルゼブブの黄色い瞳が、蛇の如く光る。
「貴様の翼をもぎ取って、わしのコレクションにしようかの~」
ベルゼブブの口元に嫌らしい笑みが浮かぶ。
「ち、違います! わたしの部下が……部下の部屋から見つけたのです!」
「その部下は何処へ行った?」
ルシフェルの声が冷たく響く。
「行方不明です……。奴、ドイルは消えました」
「これで決まりましたね。奴が一連の犯人ですよ」
アスタロトはベリアルに囁いた。
「アスタロト、急げ! さっき言った場所へ行け」
「はい!」
アスタロトはあっという間に黒い霧となり、元地獄界へ向かったのだった。
「ベリアル殿よ、管理界の者総動員でマモンを探し出せ! 奴は深淵部へ潜り込んでいるかもしれん」
「わかりました」
「わしも行くぞ!」
ベリアルとベルゼブブは、黒い炎のとなり飛び立って行った。
「さて、お前の処分をどうするか、だな」
ルシフェルは床に膝と両手をつきうなだれているカマエルを、何故か嬉しそうな目で眺めていた。
部屋全体が一瞬で氷河に閉ざされてしまったようだった。
超巨大で広大な地獄界へ、雪崩のように数万という管理界に住まう者達が、マモンを探す為流れて行く。
「探せ! 奴を探し出せ!」
怒りに満ちた大河が、地獄を覆う。
アスタロトも犯人を追っていた。
地獄界の物をもし人間界へ持ち出してしまうと、大変な事になってしまう。これをかつてマモンがやってしまい、人間界が大混乱になってしまった事があるのだ。
犯人が同じ事をやろうとしていたら――――。
アスタロトは焦った。
そして彼は、元地獄界へ着いた。何か音がする。
そこには翼を隠そうともしない人影が……。
アスタロトは息を潜め、影に忍び寄っていった。
見るとその影は、例の鍵で古い地獄への門を開けようとしていた。そしてついに、その者は中へ。
アスタロトは確実な証拠を得る為、霧の姿のまま奴について行った。暗闇なら奴より断然有利だ。
背後に回り、奴の行動を見張る。
ぽっかりと開いた不気味な空洞の中を、翼の者は這いずり回る。やはり、何かを探しているようだ。
もはや”住人”のいない地獄の奥へと、影は進んで行く。すると奴は、ため息とも悲鳴ともつかない声を上げた。そして死に物狂いで、泥の塊を掻き分けて行く。
「あった……ついにあったよ、兄さん!」
アスタロトはそこで行動を開始した。勢いよく霧を広げ、犯人を包み込んだ。
「う、うわっ! なんだ!?」
翼の者はもがき苦しんだ。アスタロトはその者が手にしていた物を見た。それは、灰色にくすんで縮んだ翼だった。
アスタロトは、昔の記憶の中でその翼を覚えていた。
「それはマモンのだな? 貴様をルシフェル殿の下へ連れて行く! 覚悟するんだな!」
「だ、誰だ? は、放せ!」
「俺はアスタロトだよ」
「あ、アスタロト……!」
アスタロトは轟音と共に、あっという間に犯人を連れ去って行ったのだった。




