第21話
ここは死者達が必ず通るという天界の門。
天を貫く程の巨大な大正門を、凄まじい数の死者の魂が大河の如く流れて行く。
「カマエル様! カマエル様!」
その大正門の周辺を軍を率いて監視を続けるカマエルの下に、部下の一人が呼びに来た。
「ミカエル様が、お呼びになってます」
「ミカエル殿が? 俺に何の用だ?」
カマエルは不審に思いながらも「わかった、すぐ行く」と言い、その場を飛び去った。
そして――――。
ミカエルは、大天使層へと続く廊下にいた。カマエルに気づくと、虹色の美しい翼を煌めかせ、ゆっくりと近づいて来た。端正だが、その表情はかなり厳しい。
「カマエル殿、わたしが何故君を呼び出したのかわかっているね? 例の”鍵”の件だ」
カマエルはドキリとした。
「君の部下が、その鍵の”噂”を嗅ぎつけたらしいが?」
「あ……はい」
「それで、君達は管理界へ調査に乗り出したと」
「そうです……」
ミカエルは、そこで一息吐いて「ところで、君はどれだけ部下について把握しているのかね?」と尋ねた。
「はい?」
「ルシフェル殿はかなりお怒りのようだ。それはそうだ、よりによって長官の仕切る界隈を勝手に手を入れるとは……」
「しかし俺……いや、わたしは部下達を信用しております!」
これは本心だった。自分は間違ってはいない。
「そうか……。なら、君を信用しよう。いずれルシフェル殿から追及されると思うが、部下達を信ずるなら、それを通す事も上官として必要だ」
”君を信じる”というミカエルだったが、その青い瞳はカマエルに対し射貫くように鋭かった。
「ありがとうございます……」
「後でルシフェル殿の所へ行くように。もちろん、部下達も一緒に」
「わかりました」
カマエルは立ち去ろうとしたミカエルに、深々と頭を下げた、が、ミカエルは去り際、こう付け足す事を忘れなかった。
「ベルゼブブ殿が帰って来られてる。彼がいると、ちょっとやっかいだな……」
一方ルシフェルの部屋には、アスタロトが訪ねていた。そこにはベリアルとベルゼブブの姿も。
一連の事件について、リリス達との推理を交えてアスタロトは伝えていた。
「興味深いな……。人間の書いた書物に、そんな物があるとはな」
「長官の間」(兼尋問室)で、アスタロトを見据えルシフェルは言った。
「今すぐマモンの奴を、あの地獄から引きずり出し尋問してやろうぞ!」
ベルゼブブは興奮し始めている。
「奴を吐かすのじゃ! ルシフェル殿!」
ベリアルはそんな彼を制し「わたしが部下達と地獄界へ行き、奴を探し出しましょう」と、いつもの冷静さで言った。そして「あの地獄界はあまりにも広大すぎる。そこで考えたんだが、住民達も使ってはどうだろう? 怒りの捌け口にしてやったらどうだ?」と、提案した。
(ベリアルも相当だな……)
アスタロトは改めて、ここの上官達には”情け”というものは無いなと思った。
「アスタロト、お前はもう一度、元地獄界へ行きなさい。鍵を盗んだ当人が戻る可能性があるからな」
ベリアルは、アスタロトに命じた。
「わかりました!」
しかし、その頃カマエルはルシフェルの下へ向かう為、部下達を呼びつけたのだが。
「カマエル様! ドイルがいません!」
「何だって? よく探したのか?」
「はい! あの……奴の部屋を見ましたら、こんな物が」
「……これは?」
部下の一人の手には、例の鍵フックの一部が握られていたのだ。
それを見たカマエルは愕然とした。ミカエルの声が甦る。
『君はどれだけ部下について把握しているのかね?』
カマエルは覚悟した。ルシフェルに、”これ”を見せなければ……。
(ドイルの奴! いや、奴はいったい何者なんだ?)
そして、カマエルは他の部下達を連れ、ルシフェルの部屋へと向かった。その足取りは重かった。
それでも彼は、天界の監視を預かる者として、正義を果たさねばと強く誓うのだった。




