第20話
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リリスが管理する花園から戻って来たアスタロトとウリエルは、ベルゼブブのいる部屋へと向かった。
コバルトブルーの天空の下、ルシフェルの部屋へと向かう広い廊下の途中から右に入り、その突き当たりに彼の部屋はあった。
ちなみにアスタロトの部屋も、この廊下を通る。
向かう途中アスタロトは「ねえウリエル、今年もリリスは(舞踏会の)参加を認められなかったの?」と聞いた。
「ええ、ガブリエル様に聞いてみたんだけど、やはりダメだったみたいで……」
ウリエルの横顔が残念そうに曇る。
「ガブリエル様も上の者にお願いして下さったみたいなのよ。でも、彼女は天界の者でもないし、あなた方の仲間でもない。ましてや、かつて罪を犯してしまった者だから……」
「そうか……」
考えてみれば元々舞踏会は、本当に天界の者――――天使界の者達だけで行われていたのだ。
アスタロトのような地獄管理界の者達も参加出来るようになったのは、ごく最近の話しである。
アスタロトは何か慰めの言葉を続けようとしたが、何を言っても陳腐に終わりそうな感じがして、結局黙ってしまった。
そして二人は、ベルゼブブの部屋の前まで来た。ルシフェルのほどではないが、やはり大きな扉である。
人間界にある「地獄の門」に何となく似ていた。
アスタロトがノックをしようとすると、ちょうどその扉が開いた。
「おおっと! 失礼――――おや? なんだ、お前か」
「あ、ベルゼブブ様、お疲れ様でした。いつこっちへ?」
目の前に現れた彼は、まるで仙人のような風貌だ。”おでこ”には黒い二つの突起があり、本人曰わく「これは角だ!」と言い張るのだが、周りは「あれはただの”イボ”だよ」と陰で嘲笑していた。
つい最近まで、地上の何処かの森林の奥地に住んでいたはずだが……。
黒い杖をついて出て来たベルゼブブの目は、アスタロトを通り越して、後ろのウリエルへ。
「おやおや~! ウリエルちゃ~ん、元気だったかね?」
しゃがれたベルゼブブの声が、猫なで声に変わる。
(出たよ! エロじじい!)
「ご機嫌いかが? ベルゼブブ様。お元気そうでなによりで」
「おお……おお……相変わらずべっぴんさんじゃのう~。ほい、お前! これ持ってろ!」
ベルゼブブは持っていた杖をアスタロトに押し付け、ウリエルの手を取り握った。今にもヨダレを垂らさんばかりの彼に、アスタロトはイラついた。しかもウリエルより背が低いのをいい事に、胸をチラチラ見ている。
アスタロトは我慢ならず、二人に割って入った。
「ベルゼブブ様、あなたもすでに聞いてるはずだと思いますが――――」
「もうわかっとる! ”例の”鍵の事じゃろ? だからわしは帰って来たんじゃ」
今までデレデレと目をだらしなく下げていたベルゼブブだったが、一瞬で鋭い目つきになった。本来のベルゼブブの姿である。
アスタロトに持たせていた杖を奪い「どこの糞か知らんが、ウリエルちゃんの鍵を盗むとは、目玉をくり抜いてやるわい!」と、杖をブンブン振り回した。
「あ、糞はわしか! がははっ! ”糞蝿の王”だしな!」
人間が勝手に付けたあだ名を、彼は意外にも気に入っていた。
ベルゼブブは豪快に大笑いしたが、彼を怒らせるとルシフェルよりもたちが悪い事をアスタロトはよく知っていた。
地上の原因不明の病原体は、全て彼が起こしていると噂があるのだ。
「ベルゼブブ様、これから何処へ出掛けられるのです?」
ウリエルがそう尋ねると「ああ、ルシフェル殿の所へな」と、片目をつむった。
本人はウインクをしたつもりだった。
「彼らはカマエル達を尋問するつもりですよ」
「”尋問”とは少し違うわ、アスタロト」
ウリエルがたしなめる。
しかし、ベルゼブブはこの”尋問”という言葉に嬉しそうだった。
「そこはわしも是非参加せねばな! ひひっ」
何故かアスタロトは、このベルゼブブのひきつったような笑いにゾッとしたのだった。
その頃、天界では――――。




