第19話
天界に裏切り者がいるかもしれない――――。
ウリエルはショックを隠しきれないようだった。それでも、これからの地獄管理界を含め天界全体の為、早急に解決しなければと願った。
そして「アスタロト、私が管理していた元地獄界の調査結果を教えて」と、”双頭のカラス”のイラストに指でなぞりながら言った。
そこでアスタロトは、元地獄界で抱いた疑問や、鍵に関する事を彼女に報告したのだった。
「あの鍵は、私でなければ持ち出せない事になっていたの。それをフックごと破壊して盗むなんて!」
自分の手から離れたとはいえ、支配していたテリトリーを荒らす不届き者に、ウリエルは怒りを感じていた。
(はっ! これじゃあルシフェル様やベリアルと同じじゃない……)
自分でも驚くほどの激しい怒りに、彼女は苦笑した。
そんなウリエルを見てアスタロトは「絶対解決しような。いや、出来るさ!」と、励ました。
そして「君の知ってるマモン像って、どんな奴だったの?」と聞いた。
「あいつは……マモンがまだ天使だった頃、私にしつこく錬金術について聞いてきたわ。もちろん、そんなの無視してやったけど。けど、彼は諦めなかったわ」
「その執着心がまだ継続しているとしたら……」
「兄だか弟に、何らかの方法で連絡取り合ってるかもね」と、リリスが続ける。
「これはまだ推測の域を出ないけど、調べてみる価値あるな。取り敢えず俺はルシフェル様に報告してみるよ」
「頼んだわ。私もミカエル様に伝えてみるわ」
ウリエルは美しい翠色の瞳をアスタロトに向け言った。彼はこんな時に、ドキドキしてしまった。
「あ、そうそう。それとルシフェル様達が、いずれカマエルと部下達から何か聞き出すそうよ」
「それはいいね!」
思わず声が大きくなるアスタロトだった。
そして彼らは、今後知り得た情報は欠かさず連絡を取り合う事にした。勿論、お互い気を付けるよう注意も忘れなかった。
やがてウリエルとアスタロトは帰る事となったが、その際ウリエルは「ベルゼブブ様が(地上から)帰って来てらっしゃるみたいね。後でご挨拶に行かなきゃ」とアスタロトに言った。
「えっ? そうなの?」
アスタロトは嫌な予感がした。
(あんのエロじじい! 隙あらばウリちゃんの胸ばかし見やがって! 冗談じゃねえ!)
「あ、俺もついて行くよ」
「え~? 別にいいわよ」
「いや、絶対ついて行く!」
この二人のやり取りを、眩しそうにリリスは眺めていた。
「じゃあリリちゃん、また後でね」
ウリエルとリリスは、お互い抱擁し合った。
「あ、あの……リリス、ありがとな。ビールもごちそうさん」
アスタロトはぎこちなくも、リリスにお礼を言った。
そしてウリエルは黄金の翼で、アスタロトは黒い霧となって花園を離れたのだった。




