第1話
アスタロトは焦る気持ちをどうにか落ち着かせようとしていた。
だが、実際に憧れのウリエルを目の前にしてしまうと上手く言えるかどうか。
普段「デートしよ!」なんて軽く言えるくせに、「なんて俺は情けないんだ」と独りごちるアスタロト。
「今日は来ないか……」
柱にもたれかかって何気なく淡いコバルトブルーの天空を見上げると、そこへ一つの光が近づいてきた。
「!」
するとそれは強烈な黄金の目映い光となり、ゆっくりとアスタロトの頭上に舞い降りて来る。
その聖なる光はまさしく四大天使の一人、ウリエルの輝きだった。
「神の光」「神の炎」、また、「太陽と炎を司る者」とも呼ばれるだけあって、オレンジがかった黄金の翼は本当に美しかった。
彼女はルシフェルの部屋へと続く廊下に降り立つと、輝く翼をさっと消した。
白い素足には、可愛らしい翼モチーフの付いたゴールドのアンクレットが輝いている。
ウリエルは報告書である大きな巻物を抱え歩こうとしたが、柱の陰に誰かがいる事に気づいた。
「アスタロト?」
「や、やあ……ウリエル」
アスタロトは恐る恐る彼女に近づいた。
ウリエルは彼がいつもの「ウリちゃん、デートしよ!」と言うと思い、警戒し後退った。
「あ、あのさ……ウリちゃん……」
彼は緊張しすぎたのか、つい声がひっくり返ってしまった。
いつもと様子の違う彼に、ウリエルは訝しんだ。
「……何よ?」
アスタロトはパートナーを申し込もうとしたが、いざ本人を前にすると、なかなか言い出せなかった。
それどころか、彼女の美しさにボー……っと見惚れてしまう始末であった。
(ああ、ウリエル……今日もなんて美しいんだ)
透き通った白い肌。宝石のような翠色の瞳からは聡明さが伺える。胸のあたりまで伸びた艶やかな金色の髪が、軽くウェーブがかかり静かに揺れていた。
薔薇色の唇が可愛らしい。小柄で華奢なのに、意外と胸が……。
――――ああ、巻物のせいで隠されてやがる!
以前アスタロトはウリエルの美しい胸の谷間を見つめ過ぎて、彼女から顔面にグーパンチを食らった事があった。
「ねえ、ちょっと大丈夫? おーい!」
ウリエルは彼の目の前で指を何回か鳴らした。
我に返ったアスタロトは「あ、あの……今年の舞踏会の事なんだけど」と、何とかきりだした。
「舞踏会って……まだ先の事じゃない」
ウリエルは呆れた。
すると彼はいきなりひざまずき、「ウリエル! 俺……ぼ、僕のダンスパートナーになって下さい!」と頭を下げた。
「別にいいけど」
(そうだよな……やっぱ無理だよな。……って、えっ? えっ?)
「今なんて?」
「いいわよ、パートナーになってあげても」
(ウソだろ……?)
「ほ、ホントに? まじで?」
「ええ、”まじで”よ」
(人間がよく言う夢のようだとは、こういう事なんだろうな)
「いやったーーーーっ!!」
アスタロトは思わず、拳を力強く天へ向け突き上げ叫んだ。
(ウソじゃないよな? うん! 天使は嘘つかないもんな! 神に誓うし)
「あの、もういい? 私忙しいんだけど」
「へ? あ、ああ……ごめん」
ルシフェルの部屋へ向かう為、ウリエルはさっさとその場でへたり込むアスタロトの横を通って行った。
甘く良い香りが彼の鼻をくすぐった。
ウリエルの後ろ姿を見つめるアスタロトは我に返り「あ、やべ! ルシフェルに見つかる」と呟くと、急いでその場を去って行った。




