第13話
実は”噂”の件は、会議中のウリエル達の間でも上がっていたのだ。こういった”噂”の出所が、もし天界内であれば由々しき問題だと、褐色の顔の奥で鋭い瞳を光らせるザドキエルはこう言い切った。
「でも、管理界の住民達は知らないようでしたわ。あの怒り方は、私には嘘が無いように見えたけど」
ウリエルはカマエルの強引な捜査に怒りを感じていた。
『そなたは前の地獄界を去る時、鍵はどうされたのかな?』
大長老ラジエルは口を動かさない。他の者達の意識下へ語りかける。
「私は……」
ウリエルにとっては、それは思い出したくもない苦々しい過去だった。
あの日――――。
「あの日私は任務の後、ルシフェル様に呼ばれました。もちろん、籠はちゃんと保管場所へ戻しておきましたわ」
”あの日”のルシフェルの冷淡な声が甦る。
『今日から地獄界の支配は、わたしに引き継がれた。いや、”我々”だな』
(我々って……どういう事?)
ウリエルは俯き、唇を噛んだ。そんな彼女をガブリエルは見つめていた。
実は彼女は、ウリエルが地獄界を管理する事となった経緯と、何故その地獄界を去らねばならなかったのか知っていたのだ。
そんな彼女の事を思うと、ガブリエルは胸が痛んだ。
そんな時――――。
「そう言えば、かつて人間界と天界でこそこそ嗅ぎ回っていた者がいましたな。いやしくも、その者は天使だったはず」
ザドキエルはラジエルにこう囁いた。
「マモンだ、奴は。天使ともあろう者が、なんと天界の品々を人間界へ持ち出そうとしたんだ、あいつは!」
ルシフェルが珍しく感情を露わに、忌々しそうに吐き捨てた。
「でも、マモンはその事件のせいで、何千年も前に地獄界へ幽閉されている。今回の事件と、何か関係があるのかな?」
ラファエルは資料である巻物を見ながら、疑問を口にした。急遽人間界の「国境なき医師団」から戻って来たばかりなのか、無精髭のままである。
「ラファエル殿、マモンは地獄へ幽閉されても、なんとそこで金目になる物を漁っていたのさ。奴じゃないとしても、何者かが”あの場所”で何かをしていたんだと思う」
隣の席でミカエルが、ラファエルに青い瞳を向ける。
「浅ましい奴だ! とにかくカマエルに”噂”について、もっと詳しく聞くべきだな」
ずっと書物に何か記録を書き綴っていたベリアルが顔を上げ「わたしが聞いてみよう。奴だけじゃなくても、部下どもが何か知ってるかもな。この際だから厳しく追及してやろう」と、嫌味っぽく言った。
「そうだな」
ルシフェルが賛同する。
冷酷な瞳の奥が嬉しそうに光る。
(この二人を怒らせたら本当に怖いわ……)
カマエルは嫌いだが、地獄界の長官達の恐ろしさを考えると、彼の身が心配になってきたウリエルであった。




