【51】当て馬完全消滅のギターイベント。〜乙女ゲームなのに、恋愛要素ゼロで作戦成功!〜
静寂が支配する理事長室に、ロクシーの鋭い声が落ちる。
「ルシアン……今日のルチアーノ見ててくれたんだよね?
どう思う?」
ルシアンが無表情で淡々と答える。
「ロクシーの脚本を完遂した」
その言葉に、
ルチアーノが嬉しさの余り思わず立ち上がろうとして、ロクシーの厳しい声が響く。
「座りなさい!」
シュパッと正座に戻るルチアーノの周りを、
ロクシーがゆっくりと歩きながら、
諜報機関の尋問官のように話し出す。
「確かにね。
クラスにやって来た颯真くんをなだめて、追い返した。
正解!
部室で、ハルの本音を引き出した。
正解!
そして……」
一拍の間。
ルチアーノがその場でピョンと跳ねる。
「ちゃんとハルの代わりに、颯真くんに断ると言って、ハルに感謝された。
正解!
でもね……」
ルチアーノの正面でピタッとロクシーが止まる。
そして、尋問官の最後の詰めが始まる。
「あの事件の後、保健室の前で、あんたの分身を私が操って、ハルと翔太をなだめた!
そして、私があんたの代わりに、颯真くんから聞いたことにして、ハルと翔太に一斉メールして、ここまで来たの!
それなのに……
なんであんたは息を吸うように余計なことをするの!?
もし、颯真くんが、あんたのハンカチマジシャン姿で笑っちゃってたら!?
いや、その前の指パッチンと一回転で笑っちゃってたら!?
部室で側転する必要性!!
あそこでハルが笑っちゃってたら!?
俺様クオリティって何!?
俺様、尊い☆だと!?
なんで、ハルのあんなに切ない告白聞いて、あんな言動が出来るのよ!?
説明しなさい!」
額からぶわっと汗を吹き出しながら、ルチアーノが小さい声で答える。
「え、えーと……話しやすい雰囲気作りを!」
すると、ルシアンが小さく頷いて言った。
「成る程。
理にかなっているな」
ロクシーがキッとルシアンを睨む。
「理にかなってるかどうかの問題じゃないの!!
これは乙女ゲームなの!アオハルなの!恋なの!
それをこの推定年齢300歳、行動力小学生5年生、情緒3歳児が……!!」
そう言ってロクシーがルチアーノの襟首を掴みブンブンと揺さぶる。
ルチアーノは「ヒィッ……!」と声にならない悲鳴を上げている。
そして、ロクシーはルチアーノの襟首から手を離すと、ルチアーノを睨みつけて、一喝する。
「それでなくても、もう、颯真くんは当て馬じゃないんだよ!」
「ハイッ!!」
ルチアーノがそう小学生のように、垂直に手を挙げて答えた時だった。
イレイナが真っ赤なドレスを翻し、ワイングラスを持って自分の部屋から現れた。
そのグラスの中身、オークションで約10億円の値がついた1945年産のジェロボアムボトルのロマネ・コンティだったりする。
「ロクシー。
もう、良いじゃない。
なんだかんだ言っても、ゲームは進んだんだから。
ルチアーノにお説教しても、時間の無駄よ。
それより、もっと大切なことを見落としてない?」
ロクシーが瞬時に軍師の目になる。
「何よ?」
そう問うロクシーに、イレイナはふわりとソファに座ると、ホホホと笑う。
「ゲームの進行によると、これから絶対音感を持っていてギターもピアノも弾ける橘颯真が、アンジュの前でギターを弾く。
それも、アンジュが"凛花"に転生する前の本物の"凛花"が、隠れて一ノ瀬遥斗のギターを演奏した音質が酷い録音を聞いて、ね。
そこで、元の"凛花"なら、
『ハルの曲をハルじゃない人が弾くのを聴く日が来るなんて…。それだけ、ハルと私の距離は、離れた…。』って泣くんでしょ?
でもねえ……」
イレイナは焦らすように、ワイングラスを揺らすと、言った。
「そもそもアンジュにも絶対音感はあるわよ?
それに、アンジュは楽器と名のつく物は全て弾けるわ。
一流奏者以上にね」
「その通りだ」とルシアン。
イレイナがニンマリと笑って続ける。
「そうなると、いくら橘颯真に絶対音感があるからって、高校生が聞いただけの曲を弾いて、アンジュが感動するかしら?」
その瞬間――
ロクシーの隠し持っていた警棒がガタンと音を立てて、大理石の床に転がった。
それからルチアーノは、ロクシーの指示の元、颯真のスマホに電話をして「一ノ瀬は無理だから」と断った。
当然、颯真は食い下がったが、無理を繰り返すルチアーノに、「もういい」と言って颯真は通話を切った。
それから颯真は、アンジュに、今日も見舞いに行っていいか確認した。
そしてアンジュも、ロクシーのメッセージ通り、「喜んで待っておるぞ!」と答えた。
颯真は少し遅くなるからと言って、一度自宅に戻ってからアンジュの家に向かった。
ギターケースを担いで現れた颯真に、そこは何も知らされていないアンジュは青い瞳を見開いた。
「颯真よ……なぜギターを持っておるのだ?」
颯真はいつもの爽やかな笑顔で答える。
「ん?俺のギターもアンジュに聴いてもらいたいなあって思って」
颯真は笑顔のまま、アンジュから目を逸らす。
ここで、元の"凛花"なら――
『颯真くんは相変わらず嘘をつくのが下手だな、と思う。
普段でも冗談で嘘をつこうとして、
簡単に陸くんや吾郎くんに見破られてからかわれていた。
きっとハルに断られたんだ……
だから……』
となるが、相手はアンジュ。
「アンジュのリクエストなら何でも弾くよ」
そう、颯真がにっこり笑って言うと、
アンジュはロクシーのメッセージ通り、
スマホを差し出した。
「この曲を弾けるか?」
颯真はイヤホンを耳につけ、苦笑する。
「……スゲー雑音だな……。
でもまあ、何とか」
颯真はスマホのプレイリストにある『あの曲』を聴きながら15分ほど練習すると、
「じゃあ、弾いてみるから」とギターに手をかけた。
颯真の演奏は滑らかに巧みに進む。
それは、突然の出来事。
厳しい声がアンジュの部屋に響いた。
「橘くん!アンジュさまになんと言う演奏を聴かせるのだ!!
それは大罪である!!」
その迫力に、空間がビリビリと震える。
そう――
ルシアンがアンジュの部屋に現れたのだ。
そして、外には無数の雷が落ちている。
その刹那――
アンジュの高らかな声がした。
「ルシアンよ!
颯真は私の頼みを聞いたまで!
かの者を許せ!
では、お前が弾けば良い!」
ルシアンがさっと跪く。
「……御意……!」
そして、何処からともなく現れる、最高級クラシックギター。
ルシアンは遥斗の演奏を一回聞いただけで、高校生が作曲したポップスを、華麗にクラシックへと昇華させ、演奏する。
それを満足げに聞いているアンジュ。
そして颯真は――
(ルシアンくん……!凄い!
絶対に只者じゃない!
俺が知ってる武道家の枠を越えている……!!
芸術まで秀でているなんて……!
これこそが真の武道家なんだ……!!)
そう、感動と尊敬が入り交じる中、颯真は固く決意していた。
次の瞬間――
選択肢:
①(ルシアンくん、俺を弟子にしてくれないかな!?)
②(ルシアンくん、まずはうちの道場に入ってくれないかな!?)
③(ルシアンくんになりたい!)
ロクシーは、パソコン画面に並んだ三つの選択肢をじっと見つめていた。
そして――
優雅に、強炭酸水の入ったシャンパンフルートを傾ける。
「恋愛要素ゼロの選択肢が出た!」
一口飲んで、ロクシーがニヤリと笑う。
「作戦成功ね!」
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