【50】チンケなプライドと片想い。〜友情イベント、ギター編が俺様色になってます〜
そして、翌日。
豪華すぎる理事長室のロクシーのデスクには、ズラッと強炭酸水のペットボトルが並べてあった。
そして、ルチアーノもまた、真紅のシルクのハンカチを1ダース用意し、念のために薔薇のコサージュの替えも3個用意していた。
そうしてやってきた昼休み。
颯真は素早く食事を終えるとC組に向かう。
「ルチアーノ!」
突然現れた颯真。
だが、それはロクシーから聞いているタイミング通り。
ルチアーノがパチンと両手の指を鳴らし立ち上がる。
「珍しいヤツが来たな☆」
そして、その場で一回転するルチアーノ。
既にロクシーのパソコンを見る目には、殺気が宿っている。
だが、颯真はそんなルチアーノを全く気にせず、笑顔で言った。
「珍しいって何だよ。
あのさ、昨日アンジュのお見舞いに行ったんだよ」
遥斗の箸が止まる。
「それでルチアーノ達に早く会いたいって言ってたんだ」
ルチアーノがふわりと真紅のシルクのハンカチを胸ポケットから取り出し、目元を押さえる。
「……そうか。アンジュちゃんの具合どうだった?」
颯真はふと、声を落とし答える。
「元気そうに振る舞ってるけど、見てて痛々しいよな、やっぱり」
「そうなのか……。
橘よ、ありがとう……!!」
今度はハンカチを噛みだすルチアーノ。
ロクシーがパソコンを見ながら、無言でバキッと強炭酸水の蓋を開ける。
颯真が爽やかな笑顔で聞き返す。
「何が?」
「アンジュちゃんを送り届けてくれたこと☆」
(助けたのは、俺様のズッ友ルシアンだけどな……!!)
という言葉を飲み込みつつ、ルチアーノも笑顔を浮かべる。
「その件に関してはノーコメント!」
颯真は悪戯っぽく笑ってルチアーノに答えると、遥斗に向いた。
「君、一ノ瀬くんだよね?」
「……はい」
遥斗の淡々とした返事にも、颯真は笑顔だ。
「俺、アンジュと同じクラスの橘っていうんだ。
よろしく」
「ハルだって、お前のこと、もー知ってるよ!
この天然イケメン野郎が〜☆☆☆」
ルチアーノが爆笑しながら、両手で真紅のシルクのハンカチをマジシャンのように振って言う。
翔太の目はルチアーノの手元に釘付けだ。
颯真はちょっと顔を赤くしてルチアーノを睨んで言った。
「うるせーな!礼儀だよ、礼儀!
お前は黙ってろ!」
そして、颯真が再び遥斗に向き直る。
「アンジュがギターの演奏が聴きたいらしいんだ。
それで一ノ瀬くんが、凄く演奏が巧いから録音して欲しいって。
一ノ瀬くんの都合に合わせるから、なるべく早く録音させてくれない?」
「……お断りします……」
遥斗の小さな、それでいて断固とした声に戸惑う颯真。
「え?」
「俺のギターなんて、大したもんじゃないですよ」
「でもアンジュは一ノ瀬くんのギターが聴きたいんだよ。
一曲だけでもいいから……」
「だから、お断りします」
「お前なあ……!」
颯真が遥斗に詰め寄る。
「アンジュは傷ついてんだよ!
そのアンジュがお前のギターを聴きたいって言ってんだよ!
お前、アンジュの友達だろ!?
一曲ギター弾くくらい、何でしてやれないんだよ!?」
「弾きたくないんです」
遥斗は席を立つと、教室を出て行こうとする。
「一ノ瀬!待てよ!」
引き止めようとする颯真の肩を、ルチアーノがふわりと掴む。
その両手にはいつの間にか、真紅のシルクのハンカチが片手に6枚ずつ握られていた。
そして、ルチアーノが妙にしおらしい声音で言う。
「橘よ……俺様からも言ってみるから。
アンジュちゃんには上手く誤魔化しといてくんないカナ?」
「……分かった……」
颯真は不承不承に頷いた。
放課後、遥斗は一人で部室にいた。
今日は部活は休み。
誰もいない部室で、アンジュの為に作って川原で弾いた曲を弾いていた。
パチパチと拍手の音がして顔を上げると、ルチアーノが部室の隅に立っていた。
「ルチアーノさん、趣味悪いですよ。
盗み聞きですか?」
ルチアーノがふわっふわっふわっと三回髪をかき上げてから、答える。
「俺様は、そーっと入ってきたんだよん☆
気付かなかっただろ?」
ルチアーノはニコニコと笑って言った。
「なあ、ハル。
一曲くらい弾いてやれよ」
遥斗は首を横に振ると、小さく答える。
「それでアンジュちゃんは、また俺の演奏を繰り返し聴くんですか?
それじゃ駄目だ……」
ルチアーノが一回側転すると言う。
「分かんねえぞ。
こうやって一回で飽きちゃうかもな☆」
遥斗はフッと笑った。
「それだけじゃないんです」
髪の毛を整えながら、ルチアーノが前のめりで訊く。
「ん?何だ!?何だ!?」
遥斗はポツリポツリと言った。
「俺達は、まだアンジュちゃんに会えなくても、橘くんは事件の翌日に……昨日もう会ってるんですよね」
「そりゃあ……あいつは(ルシアンの次に)助けた一人だからな☆」
「俺ね、アンジュちゃんに会いたいんですよ」
「ハル?」
遥斗は自分のギターを見ながら、話し出す。
「何の役にも立たない俺だけど、ただ会いたい。
でも、それも出来なくて…。
それを橘くんは何てことなく叶えて、
アンジュちゃんに頼られて……俺、正直嫉妬しました。
嫉妬する資格なんてないのに。
自分からアンジュちゃんと離れるって決めて、
別れたくせに。
こんな醜い感情で弾きたくないんです。
アンジュちゃんには……せめてあの日の演奏だけ、あんなギターを弾いた人がいたなってだけでいいから、それだけ憶えていて欲しい。
俺みたいなヤツでも、チンケなプライドがあるんです。
汚い演奏を傷ついてるアンジュちゃんに聴かれたくない……」
「ハ~ル~よ〜☆☆☆」
ルチアーノがそう歌うように言って、ゴチンと遥斗の頭に自分の頭をぶつける。
「いって……」
遥斗が呻くと、ルチアーノがフンと鼻を鳴らした。
「嫉妬なんて、好きなら当然じゃねーか!
LOVEにジェラシーはつきものなの!
でもまあ、俺様はハルの言いたいことも分かる。
それが、俺様クオリティ☆☆☆
俺様もズッ友に、どうしよーもない香水しか作れないって分かっていたら、作れない!ハイッ!作らない!!」
「……ルチアーノさん……」
遥斗がルチアーノを真っ直ぐに見る。
ルチアーノはパチンとウインクすると、キメ顔で言った。
「でもさ☆
今のアンジュちゃんの為に出来ることは、何でもしてやろうぜ☆
例え、些細なことでもな!
ギターの件は俺様から橘に断っておいてやるよん!
俺様、尊い☆☆☆」
「すみません」
ペコリと下げた遥斗の頭を、ルチアーノがぐしゃぐしゃと撫でた。
そして、その10分後。
ルチアーノは理事長室の大理石の床の上で、正座をしていた――
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