【49】回答例、神頼みで完走。〜お見舞いで、当て馬(仮)のルシアン談義が止まらない〜
「心配すんな。
暴行されそうになったってだけ。
多分みんな、そう思ってる。
俺は一言も話して無いから。
ただ――」
そこで、颯真が興奮したように言った。
「ルシアンくんがアンジュを助けただろ!?
そして、保健室まで運んだ!
凄いよな……!!
あの威圧感!
何もしなくても相手を倒せるんだ!
まだ高校生なのに、武道家として完成してる!!」
ロクシーがパソコンに向かって、冷めた目をして鋭い声を出す。
「颯真!あんたがルシアンを尊敬してるのは分かった!!
今は女の子のお見舞いに集中しろ!!」
颯真は、ひとしきりルシアンを褒め称えると、再びやさしく言った。
「それで綾野と谷川が凄く心配してて……。
だから二人にだけは、ルシアンくんが助けてくれたんだって話したんだ。
でも、あの二人は絶対誰にも話さないよ」
「そうであったか!」
アンジュはそう言いながら、ロクシーからのメッセージを必死に思い出していた。
(回答例の、その2……その2は……)
そして、アンジュがぎこちなく口を開く。
「あ、あと……」
「ん?」
颯真が首を傾げる。
アンジュがカクカクと喋り出す。
「そそそ颯真は何であの時、電話をくれっくれたのだっ!?」
颯真がアッサリ答える。
「アンジュのピアノのレッスンが7時からだって言ってただろ?」
「お、おう!」
(神よ!
あれは嘘ですが、私はこの若者の未来を守るために嘘をついたのです!
どうかお許し下さい!)
アンジュが心の中で懺悔の祈りを唱えているのも知らず、颯真がスラスラと話し出す。
「だから、試合を見に来て貰えなくても、メシだけでも、みんなで一緒に食いたいなあって思ってて。
でも俺の都合に合わせて貰うことになるし。
レッスン前に引っ張り回すような真似は、迷惑かなって思って、中々言い出せなくて。
それで放課後ちょっと綾野と谷川に言ったら、『そのくらい何だよ。誘っちゃえよ』って簡単に言われて。
それでアンジュがまだ帰った様子がなかったし、時間も早い方が良いと思って直電したんだ」
アンジュがハッとして、大声で言う。
「そうであったか!!」
(良し!言えたぞ!ロクシー!)
心底ホッとしてるアンジュの心の内を知らない颯真が続ける。
「そしたら、あの電話だろ?
ただ事じゃないって思った。
それにもし、アンジュが何かされているなら、
いくら第二体育倉庫でも、相手は扉を開けっ放しになんてしてないとも思った。
だから高瀬先生を探して鍵を借りようとしたら、先生も一緒に行くって言ってくれたんだ」
「なるほど!礼を言うぞ!颯真!」
すると――
またも、あの時のルシアンを褒め称え出す颯真。
ロクシーのパソコンを見る目が殺気を帯びる。
そして、アンジュも――
「そうなのだ!
ルシアンは有能である!」
と、完全に部下を褒められた上司になってしまっている。
そんなやり取りを見ながら、ロクシーが虚ろな目をして二本目の強炭酸水をパキッと開けた時、ふと、颯真が言った。
「俺も一応関係者だから、アンジュを助けに行った経緯を先生に訊かれたし、どうしてアンジュがあいつの呼び出しに応じたかも聞いたんだ。
俺を餌にされたんだろ?」
ロクシーがパソコンの前で歓喜の雄叫びを上げる。
「キターーー!!良いぞ!颯真!!
アンジュちゃん!頼んだよ!!」
「……それは……」
(これは回答例その3だな!?3………3………)
アンジュが必死に回答例を思い出していると、颯真が後悔に満ちた声で言った。
「俺が下手に迷ってアンジュを誘わなかったから、アンジュはあいつに会うことになった。
俺が綾野や谷川の言うように、メシくらい素直に誘ってればこんなことにならなかったんだ……」
(今だ……!!)
アンジュが、回答例3を必死に口にする。
「そそそ颯真のせいではない!
私が愚かであった!!そう!愚か!私がな!
あんなメメメメールを、しん、信じてっ!」
(言えたぞ!ロクシー!)
そう、喜んでいるのはアンジュだけではない。
ロクシーもまた、パソコンの前で喜びに満ちてゴクゴクと強炭酸水を一気に飲んでいた。
颯真がやさしく言う。
「アンジュ……アンジュは俺の身体を心配してくれたから……あんなメールでも信じた……そうだろ?」
「YES!!」
即答してしまって後悔するアンジュ。
(え、えーと……回答例4は……何だっけ???
YESではない!
それは分かる!!)
パソコンの前のロクシーがドンッと音を立てて、強炭酸水のペットボトルをテーブルに置く。
だが、颯真は気にする様子もなく、やさしく続けた。
「アンジュ……ありがとう、ごめんな」
(次は回答例5!!私は大天使ガブリエル!!今こそ……!!)
そう、決意し、アンジュが言葉を捻り出す。
「おおおお礼を言うのは、わたっ……私の方である!!
それに、颯真が謝ることなんてないのだッ!」
(言えたーーー!!神よ!感謝します!)
アンジュは心の中で叫ぶと、慌てたように続けた。
「まだ、ちゃんと颯真にお礼を言ってなかったな!
助けてくれて感謝する!!」
(これは簡単だったな♪
私は礼節を重んじるのだ!)
アンジュがそう内心ウキウキしていると、颯真がフッと笑った。
「授業のことは心配すんな。
ノートの内容をタブレットにメールするよ。
それと、何かして欲しいことある?」
アンジュが心の中で叫ぶ。
(これは……もう回答例のナンバリングは忘れたが……絶対に言ってとロクシーがメールに書いていた回答………!!)
そして、ロクシーもまたパソコンの前で固唾を飲んでいた。
アンジュは一度、深呼吸をすると言った。
「ル、ルチアーノ達に会いたいかなっ!
でも、ももももう少ししたらお見舞いに来てって言ってあるし!!」
(あと、一言……!!)
その思いは、アンジュもロクシーも同じだ。
颯真が爽やかな笑顔で応える。
「そっか。
じゃあ明日、俺がルチアーノにだめ押ししといてやるよ」
「お、おう!感謝する!
そっそれと〜ルチアーノと同じクラスの一ノ瀬遥斗氏のギターの録音を、頼みたい!!」
回答例を言えて安堵しているアンジュに反して、ロクシーがパソコンの前で次の強炭酸水をバキッと開けると言った。
「アンジュちゃん……!!
そこ、"くん"でいいよ!!氏って何!?」
颯真が不思議そうに聞き返す。
「ギター?」
「お、おう!!
私は、ギターの演奏を聴くのも好きで……いちっ…一ノ瀬氏はっ……ギターが凄く巧いのだ!!」
颯真がにっこりと笑顔で答える。
「ふうん。アンジュはギターも好きなんだ?
いいよ、明日頼んでみるよ」
「颯真よ!!感謝する!!」
(終わったーーー!!
神よ!!私はやり遂げました!!)
そう、神に感謝の祈りを心の中で捧げるアンジュ。
だが、ロクシーは感謝も祈りもなかった。
なぜなら――
明日、ベストな回答をするのは、ルチアーノの番だったからだ。
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