【45】ボーナススチル成立と、軍師と最強大天使の睨み合い。〜悪魔は勝手に課金させられる〜
ロクシーがすっと腕を組み、トントンと指先で腕を叩く。
そして、軍師の眼光をルチアーノに向け、厳しい声で言った。
「あのね……。
あんた、伊織くんに転生して、ちゃんと仕事出来ましたか?っていうハナシ!
どう?」
その瞬間、ルチアーノの額からぶわっと汗が噴き出す。
「え、えーと……それって……ロクシー先生の感想ですよね?」
「感想?」
ロクシーの冷ややかな問い。
ルチアーノが何とか言葉を紡ぐ。
「え、えーと……神谷伊織に転生したならば、転生した神谷伊織として生きる!
俺様、やっております!
中野も俺様の友達☆」
「あんたねえ……」
ロクシーが音もなく、一歩、ルチアーノに近づく。
正座したままピョンと跳ねるルチアーノ。
「どこぞの構文で私を誤魔化せるとでも思う!? 感想じゃない! 事実!
あんたは、ただJapanの高校生活をEnjoy☆してるだけ!
私が尻拭いしてやってるの! いい!?」
ロクシーがそう言って、 どこからか警棒を取り出し、ビシッと長くすると、スクリーンを指す。
またも、その場でピョンと跳ねるルチアーノ。
ロクシーの厳しい声は続く。
「今の場面!
保健室の前の会話!
これね! ここを失敗したら、颯真くんは当て馬になれないどころじゃない!
この先に待ってる、あんたとハルの友情イベントがぶち壊しになる!
そうなると、ゲームが進まなくなるの!
だから、イレイナに、 あんたのゲーム内での分身を作って貰ったんだよ!?
私の一番嫌いな、余計な出費をさせるな!」
即座にルチアーノが両手を組み、 感動で潤んだ瞳でロクシーを見上げた。
「ロクシー先生が身銭を切って…… 俺様の窮地を救って下さったんですか!?
俺様、感動に震えておりますッ!」
ロクシーが無言で警棒をくるくると回しながら、鬼の形相になる。
すると、イレイナがホホホと笑った。
「ルチアーノ、あんた、どこまで馬鹿なの?
ロクシーがあんたのために身銭を切るわけないでしょうが!
自分のためにも、1セントだって使いたくないロクシーが!
あーここ半年で、過去イチ笑ったわ!
あんたのお金に決まってるでしょ!」
「お、俺様のお金……!?」
ポカンとしているルチアーノに、 ロクシーが片手でスッとタブレットを向ける。
警棒をくるくる回したまま――
そこには、 ルチアーノの口座からイレイナの口座へ、 5万ドルの送金済みが表示されていた。
ルチアーノが滝のような汗をかいて叫ぶ。
「ロクシー先生! 勝手なことをしないで下さいよ!! 俺様の大切なマネーが……!!」
ロクシーは盛大な舌打ちをすると、
ビュッと風を切り、警棒をルチアーノに向ける。
「罰金制度を忘れたの!? これは、正当な送金!
これで、神谷伊織くんの分身を手に入れたから、 窮地の時は使える。
でもね!
この乙女ゲームに転生したということは、
分身は最低限に留めないと、何が起こるか分からない!
肝に銘じるように!」
「で、でも……!! 俺様のお金がぁ〜……!!」
ルチアーノがそう繰り返し、 半べそをかいて真紅のシルクのハンカチで汗と涙を拭いていると、
ルシアンが白い扉の向こうからやって来た。
ルシアンは三人を見渡すと、
無表情のまま淡々と告げた。
「アンジュさまの浄化は終わった。
今、目覚められて、空腹を訴えておられる。
私はアンジュさまの夕食を作らねばならない。
その前に、何かすることはあるか?」
「ズッ友よ……!!」
ルチアーノがルシアンに飛びつかんばかりに近寄ろうとした瞬間――
ロクシーが叫んだ。
「ぎゃーーー!! シナリオが変わった……!!
颯真くんが…… アンジュちゃんの分身をお姫様抱っこして運んでない……!
おんぶか抱っこで、颯真くんと篠崎先生が揉めるところも全カットされてる!
アンジュちゃんを車椅子に乗せて、押してる……!
やっぱりルシアンがアンジュちゃんを二回助けたせいで、 颯真くんはアンジュちゃんに恋しない!
友情が芽生えちゃってる!!」
ロクシーの絶望の叫びに、
ルシアンの片眉が僅かに上がる。
ロクシーはそれを見て、 物凄いスピードで順序良く、 ルシアンに橘颯真の今の現状を説明した。
もちろん、アンジュの分身とルチアーノの分身の件も、だ。
ルシアンは小さく頷くと、静かに口を開いた。
「理にかなっているな。
確かに分身を多用すると、乙女ゲーム内の法則が乱れる可能性は高い。
だが、アンジュさまの分身は、今は必要不可欠だ」
「なんで?」
ロクシーが首を傾げる。
ルシアンは静かに続けた。
「身体の精密検査があるだろう?
それを、かすり傷ひとつ無いアンジュさまは受け入れないだろう。
アンジュさまは、 既に天界の"聖なる浄化の布"で浄化されたのだ」
そして、 ルシアンのヘイゼルグリーンの瞳がギラリと光った。
「私も断じて許せない。
アンジュさまのお身体を機械でいじられるのは反対だ」
ロクシーが警棒を片手に頷く。
「そうだね〜!
私も反対!検査は分身にまかせよう!
でも……待てよ?
そうなると……ハルのボーナススチルは出るの!?」
「ボーナススチルとは!?」
ルチアーノの言葉を無視して、 ロクシーの鋭い声が飛ぶ。
「みんな、モニターを見て!」
そこには――
荷物を持つ篠崎の後ろを、 車椅子に乗ったアンジュを押す颯真が映っていた。
そんな姿を、 生徒達がそこかしこで隠れるように見ている。
遥斗もひとり、 通用口の影からアンジュを見ていた。
今すぐ駆け寄って、 声だけでも掛けたい。
でも、今は迷惑なだけだ……
そう思って遠ざかる颯真の背中を見ていると、
篠崎が持っていた通学バッグのひとつから、
何かがポトリと落ちた。
三人は気付かずに進んで行く。
遥斗は三人が居なくなると、 落とし物の元へと走った。
そこには、 黄色地に赤いチェックの柄の手袋が片方だけ落ちていた。
「アンジュちゃん……」
遥斗は手袋をそっと拾うと、 通学バッグに大切に仕舞った――
そこで、現れるボーナススチル。
ロクシーが、がくりと肩を落とし、呟く。
「やった……!
颯真くんはともかく、ハルのボーナススチルは出た……!
これでゲームは進む……!!」
ルチアーノが特大クラッカーを次々と鳴らし、
薔薇の花びらをこれでもかと散らす。
「流石、ロクシー先生であります!ラブ❤️」
すると、ルシアンが淡々と言った。
「ルチアーノ、静かにしてくれ。
ロクシー、 ではアンジュさまを、いつ分身とご本人を入れ替える?」
ロクシーがひとつ咳払いをして、厳かに答える。
「もちろん、精密検査が終わったら、すぐにだよ。
ルシアン!
アンジュちゃんがお腹を空かせているなら、
今ここで食事を作って食べさせてあげて!」
「なぜ?」
ルシアンが返す。
「入れ替わった後の方が自然では?」
その刹那――
ロクシーの軍師の視線と、最強大天使ルシアンの戦士の眼がぶつかった。
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