【27】沈黙の片思いと、ラッキーマン登場。〜見えないやさしさの始まり〜
そのドアの向こう側では――
遥斗がズルズルと閉めた玄関の扉を伝ってその場に座り込んでいた。
時計とスマホを使って計ってみると、その軽いノックの音は1分間に130回以上叩かれていた。
こんな真似をするのは一人しかいない。
遥斗はモニターを見なくても、絶対にルシアンだと確信していた。
(……もう……何しに来たんだよ!?
こっちは涙が止まらないっていうのに……!!
ていうかルシアンくんって……本当に誰!?)
その内、扉の向こうは静かになった。
足音すら聞こえない。
遥斗はホッと息を吐く。
そして、思う。
アンジュちゃん、好きだよ
俺はまだ17年間しか生きていないけど、これ以上人を好きになれないって思うほど好きだ
でも俺は、アンジュちゃんの気持ちを踏みにじった
アンジュちゃんの隣りに立つ資格も無い
さようなら
さようなら
大好きなアンジュちゃん
これからは良い友達でいるから。
せめて心の奥で好きでいさせて……
遥斗は嗚咽を噛み殺した。
パソコン画面を見ているルチアーノが、目元をシルクの深紅のハンカチで押さえる。
「……ハル……!
可哀想に……!!恋って時に残酷であります……ッ!!」
そのルチアーノの頭をスパーンとロクシーが叩く。
「あのね……!
だったら、まず、あんたの裁判官に見えない裁判官スタイルとか、木槌とかいらないでしょ!?
私の特訓以上の盛り上げはいらないの!
それで、ルシアンは今どうしてるの!?」
ルチアーノが目元を押さえていたハンカチをふわりとポケットに仕舞うと、髪をふわっとかき上げた。
「俺様のズッ友ルシアン……そうルシアンは……礼節をわきまえておりますので、一万回ノックしたところで、『一ノ瀬くんのお宅に失礼になる』とノックを止めて、アンジュちゃんに、ハルとは話せなかったと正直に報告しました!ズッ友尊い☆」
「それでアンジュちゃんは?」
そのロクシーの一言は、まるで諜報機関の尋問官のように、鋭く厳しい。
ルチアーノがビシッと正座して答える。
「ルシアンからの報告によりますと!
『では、ハルが話すのを待とう!懺悔は強制ではない!」とのことでありますッ!」
ロクシーはその答えに崩れそうになるのを踏ん張ると、次の強炭酸水を開けた。
翌日。
学校ではちょっとした変化が起きていた。
表面は以前と何ら変わりは無い。
翔太、遥斗、ルチアーノ、アンジュで仲良く楽しく笑い合う。
それでも遥斗は、アンジュと直接話すことは無かった。
必ず翔太かルチアーノを自然に挟んだ。
遥斗は図書室にも来なくなった。
アンジュは、軽音部の佐原部長に編曲の相談を受けても、部室では無く、学校の外で会うようにしようと佐原先輩に言われた。
翔太の試合を応援に行く時も、ルチアーノを真ん中にして、アンジュと遥斗は左右に別れて座る。
ルチアーノもそれが当然のように座っていた。
ただ、この変化に、アンジュは全く気付いていなかった。
そしてアンジュの周りで、不思議なことが起こり始めた。
最初は、午後のお昼寝をし過ぎて、理事長室から戻ったら授業が終わっていた時だった。
机の中にパソコンで打たれたらしい、授業のノートの写しが入っていた。
ルチアーノと翔太は、そもそも授業中に真面目にノートを取るタイプでは無い。
大抵テストの前に、アンジュのノートを写している設定だとアンジュは分かっていたので、不思議に思って翔太にその写しを見せた。
翔太はパラパラとA4サイズの紙を捲ると、「昨日の午後のぶんだね!」とあっけらかんと言った。
「そうか!誰であろう?」
翔太がニカッと笑う。
「アンジュちゃんのファンじゃない?」
アンジュは白鳥学園一の美少女。
同じクラスにも、アンジュのファンだと広言しているクラスメイトもいる。
アンジュは人間界とは不思議だな、と思っただけで、そのノートの写しを保管した。
次は、雨の日だった。
天気予報では曇り時々雨、降っても小雨だと言っていたのでアンジュは傘を持ってきていなかった。
それが午後になると本降りになった。
アンジュは気にしていなかったが、翔太が購買まで走って買いに行ってくれた。
だが、売り切れ。
すると、ルチアーノが戻って来た翔太の前で一回転し、「中野……流石だ☆友達思い!」と言ってパチンと指を鳴らし、「アンジュちゃんは、俺様と"相合傘"というのをしてみよう♪」と言い出した。
アンジュは"相合傘"をしたことが無かったので、笑顔で「よかろう!」と答えた。
ところが靴箱を開けると、折り畳み傘が入っていたのだ。
小さなメモが添えてある。
妙に角ばった文字で『100均の傘なんで遠慮無く使って下さい』と書かれてあった。
ルチアーノが特大クラッカーを鳴らし、薔薇の花びらを散らしながら言う。
「ラッキー・クッキー・もんじゃ焼き〜☆
アンジュちゃん!
100円で買える傘……差してみてはどうですか?お姫様☆」
アンジュも楽しげに答える。
「100円で傘が買えるとは、ジャパンは素晴らしい!
よろしい!この供物を使ってみよう!」
そうして、その傘をルチアーノの特注の高級傘と、交互に使って帰った。
そして以前からアンジュが転生した"凜花"をしつこく追い掛け回していた設定の先輩が、ある日を境にピタリとアンジュを追うのを辞めた。
アンジュはルシアンの仕業に違いあるまいと気にも止めなかったが、翔太とルチアーノは喜んでくれた。
それからも細々とした幸運は続いた。
絵を描いたことが無いアンジュが課題を迷っていると、お手本になりそうな絵のコピーが机の中に入っていたり。
図書委員の会議で帰りが遅くなった日には、アンジュの机の上にコンビニの袋が置かれていた。
中を見るとアンジュの好きなデザートと飲み物、それと以前傘と一緒に入っていた妙に角ばった文字で『お疲れ様。良かったら食べて下さい』と書かれたメモが入っていた。
一緒に会議に出席していたルチアーノは「何で俺様の分は無いんだよー!!無礼者め!!」と膨れたが、結局アンジュのファンなんだろうということで話は落ち着いた。
アンジュは単純に嬉しかった。
なぜなら――
完璧とは言えないが、それらは全部『限りなくアンジュの好みに近かった』からだ。
そして、この誰とも知れない人物を、翔太が『ラッキーマン』と名付けた。
しかし、この『ラッキーマン』の一見些細な親切には、壮絶な裏側があっのだ。
そうして、アンジュもルチアーノさえ知ることはなく、これからも続くことになるのであった――
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