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第十八話 鍛冶師と槌




 ───ドガーン⋯⋯ドガーン⋯⋯ドガーン


 平和な村に地面を揺らす音が響き渡る。


「 来ましたか⋯⋯ 」


 村人達が慌てる中、一人冷静なエリク。彼は畑の野菜を見ていたが、その音を聞くと村の中心の集会所に向かって歩き出した。集会所は相変わらず何もない空き地である。

 エリクは集会所までの道すがら鍛冶師の燈凪を捕まえ、一緒に連れて行く。説明も何もなく連れて行かれている燈凪は、目を点にしてされるがままである。


 ───ドガーン⋯⋯ドガーン⋯⋯ドガーン


 その間も音はだんだんと大きくなり、近づいて来ているようだ。

 そして、集会所に並んで立つエリクと燈凪のもとに音の発信源がやってくる。

 和洋混ざった着物を着た少女。黒髪の美しい頭に目立つピンクのでかリボンカチューシャを付けている。エリクの姉神の土雫(つちしずく)である。


「 何番目かの弟。頼まれておった(つち)を届けに来たぞえ 」

「 土雫姉様!! ありがとうございます 」


 エリクは頭を下げ礼を言った。

 それを見た土雫はにこりと幼い子供のように笑った。そして目線を横にずらしていき猫耳の大柄な男を見た。


其方(そなた)がこの槌を使う鍛冶師かえ? 」

「 ⋯⋯はっ!! 俺か⋯⋯、俺は鍛冶師だ 」


 燈凪は土雫に特別な槌を差し出された。だが、まだ状況が理解できておらず混乱しているようだ。緊張しながら自分は鍛冶師だと名乗った。

 そして、土雫の手にある槌を見て目を丸くした。それは、燈凪が今までに見たことのない金属でできた鍛冶用の槌であった。銀色の金属だが角度によって赤や紫に光り輝いている。燈凪はそれから目が離せなくなった。


「 これを使えば穢れや悪意など、不浄なるもののみを切ることができる剣を打てる。お前に渡す。受け取るのじゃ⋯⋯ 」

「 ⋯⋯ああ、いや、はいっ!! 心して受け取らせて頂きます!! 」

「 うむっ 」


 燈凪は土雫から慎重にその槌を受け取った。

 土雫はまたにこりと屈託なく笑う。


「 なかなか良い目をした鍛冶師じゃ!! 励めよ 」

「 ⋯⋯はいっ!! 」

「 では、(わらわ)は、帰る!! 元気での!! 」


 土雫は自分の巨大な槌を持った。

 帰ろうとする彼女にエリクや燈凪が頭を下げた。そして、頭をあげた時には土雫の姿はそこにはなかった。


「 例の槌です。良かったですね。燈凪さんっ 」

「 ああ、ありがとう村長。でもあれは、どなただったんだ? 」

「 槌の女神と言ったところです。大工さんとかが信仰している神ですよ 」

「 俺も信仰するか⋯⋯ 」

「 良いと思いますが、剣の神である雷悟兄さんも協力してくれたのでお願いします 」

「 わかった!! 感謝します⋯⋯ 」


 ───ゴロゴロ⋯⋯ズガーン⋯⋯!!


 燈凪がそう言って天を見上げると遠くに雷が落ちた。ぎょっとしてエリクを見る。


「 大丈夫です。あれは返事みたいなもので、怒っているわけではありませんから⋯⋯ 」

「 ⋯⋯そうか。肝が冷えちまったぞ 」


 そう聞いてほっと胸を撫で下ろす燈凪であった。






────────────⋯⋯⋯⋯






 ───カンッ⋯⋯カンッ⋯⋯カンッ⋯⋯


 鍛冶工房から聞こえてくる金属を打つ音。生き生きとした親方を見ながら弟子達が嬉しそうに手伝いをしている。だが、息子である黒凪はエリクと集会所に座って工房を外から眺めていた。


「 親父の願いを叶えてくれてありがとうな、村長 」

「 いえ、村人の願いを叶えるのが村長ですから 」

「 ぷっ、ここまでしてくれる村長は村長以外いないぜきっと⋯⋯ 」

「 ⋯⋯そうですか? 」


 おどけたように言うエリクに黒凪がさらに笑顔になる。


「 結果的にここに来て良かったぜ。⋯⋯親父が打った刀でさ、お袋は切られたんだ。お袋は何にも悪いことはしてねぇ、⋯⋯試し切りでな。犯人は親父が刀を売った相手から盗んだやつだったが⋯⋯親父は今でもお袋のことで自分を責めてる。ここに来て妹にも会えたし、親父も先に進めそうだ。本当にありがとうな 」

「 ⋯⋯そうだっんですか。偶然ですがお礼の気持ちは、受け取ります 」


 二人はお互いを見て、にかっと笑った。すると工房の扉が開き燈凪が顔を出す。


「 黒凪!! お前も見てろ、すげー槌だぞこれは!! 」

「 わかったよ。親父、今行くぜ 」


 黒凪はそう言って工房の中に入っていく。扉を閉める前にエリクにもう一度頭を下げた。

 エリクはそれに頷き返してその場を後にしたのだった。






────────────⋯⋯⋯⋯







「 おー、神島!! さっきの雷すごかったな 」


 エリクが学校の庭を歩いていると、小さめの脚立に登り、枝切り(ばさみ)を持つ勇者月野に話しかけられた。月野の周りには子供の何人かが集まっていた。エリクは彼らに近づいて行く。


「 何をしているんですか? 」

「 みかんがなってるから、食おうと思って 」


 エリクはそう言われて近くの木を見上げた。その木には橙色の丸い果実が実っていた。だか、丸い果実の上の部分は少しぼこっと膨らんでいる。


「 それ、デコポンですね。甘くて美味しいですよ。本当は収穫して一月くらい置いておくと糖度が増すんですが⋯⋯ 」

「 へぇ、校長の趣味か? 」

「 この庭は校舎が建て直される時に、そのまま残されたと聞きました。誰が植えたのかはわかりません 」

「 まぁ、ありがたく食わせて貰おう 」


 ジョキジョキと月野がデコポンを収穫していく。

 子供達はそれを受け取りかごに入れていく。良い香りに味はどんなものかと、わくわくしているようだ。

 ある程度収穫が終わると皆んなで食堂に移動した。


「 では、いただきましょう。⋯⋯手を合わせて、いただきます!! 」

「 「 「 いただきます!! 」 」 」


 ぱちんと手を合わせてデコポンを剥き始める子供達。いつの間にかエリクの真似をして日本流の食事の挨拶をするようになっていた。元々日本人の月野は、なんの違和感もなく手を合わせている。


「 美味い!! てこぽこ美味いな神島!! 」

()()()()です。星弥 」

「 でこんぽ美味しいぞ。村長!! 」

「 デコポンですよ。カル君 」

「 でこぽん美味しいですね。村長さん 」

「 だからデコポンっ⋯⋯いや、あってますよ。リステル君!! 」


 そんな事を和気あいあいと話していると、月野がカルの事をちらちらと気にしているのにエリクは気づいた。

「 カル君がどうかしましたか? 」

「 ⋯⋯えっ、ああそのTシャツが気になってな 」

「 勇者の兄ちゃん、これの意味わかんのか? 」


 カルは月野が気にしているTシャツを広げて尋ねた。そこには “ cow's milk ” とプリントされている。


「 ああ、その文字の意味は牛乳だ。俺の大好きな牛乳だ。⋯⋯愛してやまない牛乳だ 」


 月野はじりじりとカルに近づいて行く。

 カルは身を引いて、あわあわと焦りだす。


「 ⋯⋯勇者の兄ちゃんには、小さすぎるぞ 」


 カルは八歳の少年である。その少年に少しゆとりがあるくらいのサイズのTシャツは、とてもではないが月野には着られない。


「 神島っ!! 何とか出来ないのか!! 」

「 同じ物は出せますが、大きいサイズは無理です。子供服ですから!! 」

「 そこを何とか!! 」


「 出来るぞ⋯⋯ 」

「 「 えっ!? 」 」


 エリクと月野は突然聞こえた肯定の声に驚く。声のした方を二人で見ると、そこには子供達に混ざってデコポンを食べる土雫の姿があった。


「 ⋯⋯土雫姉様、帰ったのでは? 」

「 良い香りがしたからのぉ。食べてから帰ろうと思ってな 」

「 君なら、どうにか出来るのか? 」


 月野が土雫のもとに駆け寄り尋ねる。

 土雫はデコポンを一切れ呑み込むと大きく頷いた。


「 美味い果実を貰ったからの、良いぞ。エリク、同じ服を用意するのじゃ 」

「 ⋯⋯はい、わかりました 」


 エリクは土雫に言われるままにTシャツを1ポイントでだした。

 土雫は豪華な金の装飾のされた小さな槌を出した。そして、それをTシャツに向かって振り上げる。


「 大きくなーれ!! 大きくなーれ!! 」


 土雫がそう言うとTシャツはむくむくと膨らみ大人サイズになった。

 すかさず月野がそれを着ようと手に取る。今着ている服を脱いだ時に女子達から黄色い声があがった。細身だが鍛えあげられた上半身、そのお腹には横向きの牛ような痣があった。この場にいる者は知らないが、これが勇者の証の紋章である。

 そんな月野を放っておいて、エリクが土雫に詰め寄る。


「 土雫姉様!! ⋯⋯それってもしかして “ 打ち出の小槌 ” ってやつですか!? 」

「 ⋯⋯いや、これはデカデカハンマーじゃ!! (ただ)、物を大きくするだけの槌じゃぞ!! 」


 胸を張って言う土雫の返答に、少しがっかりするエリクであった。

 




 

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