第十七話 村長と勇者
「 なあ、知ってるか? 一組の月野星弥って雑誌のモデルもやってるらしいぜ 」
「 ⋯⋯まじか。あいつ顔だけじゃなくスタイルも良いからな 」
中学校からの帰り道、松田と神島はだらだらとそんなことを話しながら歩いていた。県内で一番大きな河沿いの道である。下に見える河川敷の公園では子供達が野球をしている。いつも通りの平和な夕方であった。
松田はそんな平和な空気を壊す言葉を神島に告げる。
「 お前の好きな谷沢さん、月野のことが好きなんだとよ。この間、偶然に他の女子と話してるの聞いたわ 」
「 そういうこと黙っているのも優しさだろ? 」
神島は咎めるような瞳で松田を見た。
「 ⋯⋯俺、優しくないから 」
「 ⋯⋯そうだった。お前に優しさを求めた俺が馬鹿だった 」
「 そうだ。神島は馬鹿だ 」
「 ⋯⋯⋯⋯ 」
神島は無言で鞄を振り上げ松田を殴った。松田も無言でやり返す。そうしながら歩いていると、下の河川敷の公園のブランコに、ある人物達が見えてくる。
「 ⋯⋯私、ずっと前から月野君のことが好きだったの 」
「 ああ 」
その人物達とは噂の月野と谷沢であった。それを確認した神島と松田は近くの木の影に隠れた。ブランコ近くの二人の声は聞こえる範囲である。
「 良かったら、付き合ってください!! 」
谷沢が顔を赤くしながら愛の告白をしている。松田は肘で隣の神島を突いた。だが、神島は二人の会話に集中しすぎて気づいていない。
「 ⋯⋯俺のどこが好きなの? 」
「 ⋯⋯えっ!? 」
「 俺に過度な期待してもらっても困るから、先に聞いておきたいんだ。俺のどこが好きなの? 」
「 そっそれはかっこ良くて優しくて 」
「 俺よりも優しいやつは沢山いるよ。つまり顔が好きなんだよね 」
谷沢は月野の追及に困り、泣きそうになっている。月野は厳しい表情で話を続ける。
「 別に責めてる訳ではないよ。ただいつもそうだから、俺って自分でもどうしたらいいかわかんないんだよね。勝手に好きになられて、勝手に期待されて、勝手に落胆されて、勝手に離れてく。そればっかり。俺ってアクセサリーかなんかなの? 見た目だけの存在なの? 」
「 ⋯⋯うっ 」
とうとう泣きだしてしまった谷沢を心配して、神島がその場に飛び出して行く。松田は驚いて後に続いた。
「 谷沢さんは勇気を振り絞って告白したんだよ!! お前が今までどうであろうと、今の彼女の気持ちを踏みにじるようなことを言うなよ!! 」
そう言いながら、神島が月野に詰め寄って行く。だが、その間に谷沢が割り込む。
「 はぁ!? あんた誰よっ!! 関係ないのに月野君を罵倒するとか何様なの? 最悪っ 」
谷沢はそう神島に怒りをぶつけた後、走り去って行った。
男三人の間に微妙な空気が流れる。松田は言葉を失った神島の肩に手を置き、月野を見て言った。
「 イケメンにはイケメンなりの悩みがあるんだな⋯⋯。こいつ、今失恋しちまったんだ。慰めてやらないといけないから、一緒にお好み焼きでも食べに行かないか? 」
「 ⋯⋯ああ、一緒に行こう 」
彼らはその後、お好み焼き屋で 『 神島を慰める会 』 を行ったのだった。
────────────⋯⋯⋯⋯
エリクは “ ゲーム好きの高校生 ” の中学生時代のことを思い出していた。あの後に三人は仲良くなり、よく一緒に遊ぶようになった。高校は月野だけ別になったが連絡はよく取り合っていたし、休日は神島の家でゲームをしたりした。月野は爽やかで凛々しい見た目とは異なり、意外と寂しがり屋のお調子者な性格であった。
その月野が今、エリクの目の前にいる。なんとも想像し難い出来事である。
しかし、エリクは神の子であり、地球で魂の修行を行ったくらいである。膨大な力を使えば別の世界から何かを呼び出せることは知っていた。
だが、魂の時と違い普通の人間の肉体が一つの世界ともう一つの世界との転移に耐えられるのは一回のみである。月野がこちらの世界に肉体ごと召喚されたのなら、元の世界に帰るには今の肉体を捨てなければならない。それも出来るのはエリク達神の子の父神だけであり、月野は月野のまま元の世界に戻る事は出来ない。
もし本人が元の世界に帰りたがっているのであれば残酷な事実である。
「 ⋯⋯信じてもらえないかもしれないですが、僕は神島であった事があります 」
目の前の鎧姿の青年にエリクは正体を明かした。
「 お前が神島だと⋯⋯!! あの冴えない、運も実力もない、女にもてない、だかほんのちょっとの勇気とゲームの才能だけはある、あの神島だと⋯⋯!! 」
「 いや、酷くないですか? 友達でしたよね? 距離的には親友といっても過言ではなかったですよね? 」
驚愕の表情で酷いことを言う月野に、少し困惑しながら詰め寄るエリク。
───バシャーン
そこに犬掻きで岸まで戻ってきた氷雨が合流する。
「 ⋯⋯なんだ、村長の知り合いか。そんな鎧姿で水に濡れて大変だろう。一緒に温泉に入るといい 」
氷雨は月野を見ながら丘の上の温泉を指さし言った。
月野は自分の姿を見てから氷雨に頷いた。
「 ああ、頼む事にする 」
「 では、これをどうぞ 」
エリクは幸せポイントを使いジャージのセットを出した。それは、月野がよく着ていたものである。
「 俺の服⋯⋯。感謝する 」
月野は何か言いたそうにエリクを一瞬見たが、礼を言うと氷雨に案内されて温泉に向かって行った。
エリクはいつか前のように接してくれる事を願い、その背中を見送った。
────────────⋯⋯⋯⋯
「 うわぁー!! これ、俺らが通ってた中学じゃん!!なっ、神島!! 」
「 納得するのはやっ!! 」
「 俺がお前の事がわからないわけないだろ。神島 」
「 いや、今はエリクなんですが⋯⋯ 」
「 いいだろ。俺だけが使うお前のあだ名って事でさ 」
月野はエリクが神島である事をすんなり受け入れた。しかも寂しがり屋のお調子者が久しぶりに親友に会い、いつにも増して気分が上がっているようだ。騒がしいのが気になったアロマやアルクリースも集まって来た。
「 俺さ!! 校長室に住むのが夢だったんだ!! 」
学校を見ながら目を輝かせる勇者、月野星弥。
「 ⋯⋯どっかで聞いたことがあるわね 」
アロマがエリクを横目で見ながら言った。エリクは焦りながら中に入ろうとする月野を止める。
「 残念ながら、校長室は僕の部屋なんです。⋯⋯ていうか、星弥はこの村に住むつもりなんですか? 」
「 当たり前だろ。この世界に来てどれだけ心細かったと思う? 姿形は違ってもお前という親友に会えたんだから近くにいたいだろ!! 」
月野はジャージ姿で悲壮感を漂わせながら、何かを決心したような瞳でエリクを見ている。
「 用務員室なら今日からでも住めますが、良いんですね? 元の世界に帰りたいと思いませんか? 」
「 帰れない事は俺を召喚した連中に言われて知ってる。まぁ、俺は両親にも放置されてたし、心残りはないな。強いて言うなら松田が気になるけど、あいつはどこでも上手くやれるやつだから大丈夫だろ 」
そういうと月野は笑った。エリクのよく知っているお調子者の笑顔だ。エリクは頷き月野を歓迎した。
「 僕は神の子エリク。地球で神島として修行をしていた事もあります。この村の村長です。気軽に “ 神島 ” と読んでください 」
「 へへっ、俺は勇者 月野星弥だ。魔王は倒す必要がない事がわかってやる事がない。この村に住んで牛を育てて立派な牧場主になってやる!! 俺はスローライフ勇者を目指す!! 毎日牛乳飲んでやるー!! 」
そうしてエリクの村に牧場主を目指す勇者が加わったのであった。
「 ちょっと!!今誰か、魔王様の事を口にしませんでしたか!! 私に魔王様の事を教えなさいっ!! 」
その場にとてつもない速さでティアラがやって来た。
「 なんだ、あんた魔族か。魔王なら元気だったが知り合いか? ならお礼言っといてくれ。魔王がここに送ってくれたから親友とも再会できたしな⋯⋯ 」
「 ⋯⋯百年は戻るなと言われているんですわ 」
ティアラは恨めしい目で月野を見た。
月野は突然現れ、自分を睨んでくる妖艶な魔族の女性に困惑している。
「 ティアラさん、マール君はどうしたんですか? 」
「 あっそうだわ。行かないと 」
エリクの助け船によって、ティアラは学校内に戻って行った。
月野は安心してため息を吐く。そしてエリクを見て言った。
「 ⋯⋯それにしても、用務員室に住むのはいいが用務員の仕事も俺がするのか? 」
「 当たり前です 」
「 俺は勇者なんだけど⋯⋯ 」
「 勇者なら埃や汚れ、伸びすぎた枝などから子供達を守ってください 」
「 それもそうだな!! 」
「 納得するのはやっ!! 」
アロマのつっこみが大地にこだました。
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