距離五ミリ
「じゃあ班も決まったことだし早速みんなで回る場所決めよっか」
適当に集まったのか好き同士で集まったのかよく分からないメンバーで机を合わせる。
正直もう九月だというのに名前もうろ覚えで気軽に呼べないやからがちらほらいる。
仲の良い友達もいないし誘われたら付いて行くだけと考えていた自分を呪いたい。条件反射の如く『一緒に班組まない?』『いいわよ』と思考の反射を拒絶した自分を殴りたい。少しは考えろや!
「如月さん?」
「……はっ!?」
「は? じゃないわよ如月さん。面白いわね」
ちゃんと話し聞いててねと言いながらクスクス笑う磯山未来。目が笑ってないのが気になるわ。
「何か言ったかしら?」
「別になにも」
「…そう」
先程と同じやり取り。
きっとイラっときている事だろう。
同じ班の冴えない駄メンズやもう一人の名前も知らない女子は気付いてないだろうけど。
「如月さんちょっと良い?」
「…はーい」
磯山はニッコリ笑うと廊下へと私を連れ出した。
クラスのみんなは当然として班のみんなも何も言わない。それどころか旅行の計画作りに没頭している。すっごい優秀。冴えないとか言ってごめんなさい。
教室を出ると磯山は人気の無い階段下まで移動する。
私を壁の方に追いやると顔の横へおもいっきり手をついた。いわゆる壁ドンという奴だ。
「ねえ…いい加減にしてくれる?」
「なんのことやら」
息が掛かるほどに顔が近い。顔を背けるもあまり意味がない。
磯山という存在自体から発しているオーラで一目で『怒』というのが分かった。
「とぼけないで! 絶対わたしの事バカにしてるでしょ!?」
「前も言ったけどしてないって」
「絶対うそ。態度があからさまなのよアナタ! さっきから全っ然人の話しきいてないじゃない!!」
「だからそんなこと無いって。それに話し聞いてないんじゃなくて他のこと考えてただけだから」
「…他の事って?」
「磯山頑張ってるなあって」
「それバカにしてるじゃないっ!?」
いい加減にしてと距離五ミリで怒られる。
まるで何かの糸が切れたような感じだけど差にあらず。実際に緊張の糸が切れたのだろう。なぜなら磯山にとっての素はこっちなのだ。
磯山は本性を偽っている。優等生を演じているのだ。
「その言い方やめて。別に演じてないから」
「演じてるじゃない。少なくとも中学の時はそんなんじゃなかったはずよ」
「…そんなことないわよ」
「あ! そういえば中学の最後みんなからイジメられてたもんね。それでキャラ変したんだ」
「なんでそういうデリケートな部分えぐってくるわけッ!? 正気じゃないわよアンタ!!?」
顔面真っ赤。
人間も顔色を変えることが出来るんだなあ。カメレオンもビックリである。
「私はアンタにビックリよ」
「それはどうも。褒めてくれて嬉しいわ」
「褒めてないわよ。にしてもアンタは全然変わんないわね」
「人間そんな簡単に変わるわけないでしょ。別に変わりたいともおもってないけど」
「…ふん。変わりたくないだなんて相変わらず変わってるわね。ある意味可愛そうだわ。そんなだから変な奴に絡まれるのよ」
「え…自虐……?」
「んなわけないでしょ!? 腐れ金髪のことよ! 言っとくけどねぇあの子の嫌われ方むかしの私の比じゃないからね!? マジヤバいんだから!!」
ぜぇぜぇ言いながら磯山が肩で息をする。
こんな風に必死で訴えるのだから香蓮はホントに嫌われてるんだな。でも腐れ金髪はひど過ぎるよ。可愛そうに。
「色々気をつけた方がいいわよ。あとアンタは別に変わりたくないって言ったけど私は昔みたいになりたくないの。だから教室では普通に接してくれるかしら?」
「普通過ぎるほどに普通に接してるでしょ。何が気にくわないのよ」
「アンタが普通に接してるのは昔の私でしょ。私は今の私を見て接してっていってるの。大体なんの為にみんなの誘い断ってアンタと班組んでると思ってるの? 監視する為に決まってるんだから」
磯山はふんぞり返って言うとそのまま教室の方へと向かって行く。
どうやら優等生を演じるのはストレスが凄いらしい。
だってこんなにキレられるなんて理不尽って思わない?
「全然理不尽じゃないから」
「あら聞こえてたかしら?」
「声に出せば聞こえるでしょ。難聴じゃないのよ。あと授業中もしばしば声に出てるから気を付けた方がいいわよ」
「マジで?」
衝撃の事実に耳を疑いながら私も教室へと向かう。
楽しい修学旅行に暗雲立ち込めるなか、せめて自由行動ぐらいは楽しもうと私は心に誓った。
読んで下さりありがとうございます。
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