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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第一部 学園編
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9話 敵襲

 当初拠点としていた無人の塔を戦場としてしまったアカツキ達は、塔を離れる事を決断した。

 一度戦場になった場所に、そのまま立て篭ったままというのは得策ではないと判断しての事だ。


 代わりに、拠点としたのは塔からかなり離れた森の近くにある小さい小屋だった。

 小さい、といっても人3人を収容するだけのスペースは十分にある。


 その小屋の内部で3人は軽い昼食を取る事にした。

 準備をしながら、エミリーが問うた。


「ここって戦闘エリア内だよね?」


「ああ、そのはずだよ」


 その質問にアカツキが答える。

 このスクールバトルロイヤルには、戦闘エリアが指定されており、その郊外に出てしまうと強制ゲームオーバーとなるのだ。


 そして、今はその指定されたエリアの内部にいる。


「それにしても、いきなり勝てて良かったね。ほっとしたよ」


「まあね。相手はそんなに強い班じゃなかったみたいだけど勝ちは勝ちだ」


 エミリーの言葉にアカツキも頷いた。


「これで、ウチの班の魔石は2つある。開始早々にこれだ。十分な成果だな」


 きらりと手のひらで光る魔石を眺めながらフランクも笑みを浮かべる。


 机の上に、配られた水と携帯食料を並べ終え、食事を始める。

 携帯食料というだけあり、やたらと日持ちはするがあまり美味しくはない。

 だが、誰も文句を言わずにそれを口に運ぶ。


「うん。やっぱり勝った後だと美味しく感じるね」


 笑みを浮かべてエミリーが食料を口に入れ、水を飲む。


「そうだね」


「全くだ」


 アカツキとフランクも上機嫌だ。

 和気藹々とした雰囲気のまま食事は進み、10数分で食事を終えた。


 食事を終え、簡単に体をほぐしてから今後の方針を話し合い始めた。


「やっぱり、このまま引きこもっていたってまた見つかったらまずいよね」


「そうだな。だといっても、打って出たところでシャノンやキャロル達魔人使いに勝

つのは難しいぜ」


「そうだね」


 アカツキは頷いた。


「さっきはうまいこと勝てたけど、やっぱり3人しかいないこの班は色々と不利だ。

5人揃っていてしかも実力者揃いの班とぶつかりでもしたらまず勝てないよ」


「だからといって――」


 ここで、フランクの声が一度途切れた。


「――これはッ!」


「どうしたの?」


 エミリーが困惑気味に声をあげるが、フランクは黙って立ち上がった。


「探査魔法に反応がある」


「え?」


「何かこの小屋に近づいてきている」


「それってもしかして他の班が?」


 アカツキの言葉に、フランクは首を横に振った答えた。


「違う。反応がやたらと大きい。この反応は多分人間のものじゃない」


 3人の顔に緊張が走る。


「これは亜人だ。何でこんなころに――」


 フランクの言葉には驚きと焦りが含まれる。


「とにかく。このまま閉じこもっていたら危ないよね」


 エミリーが2人を見つめながら言った。

 アカツキがそれに頷いた。


「そうだね。とりあえず外に出て確かめよう」


「――仕方ないか」


 フランクも頷き、小屋の外へと飛び出した。






 少し時間を遡る。

 学園内の森。

 一応は、戦闘エリアに含まれている場所だ。


 その地を、二人の生徒が歩いている。

 ドナルド班のドナルドとヘンリーだ。


「ここでいいのか?」


 ドナルドがヘンリーに問いかけた。


「はい」


「この森は、確か魔物がいるはずではなかったか?」


「はい、それを思い出したからこそここに来たのです」


 魔物は、大陸に生息する強力な獣達だ。

 下位種はある程度訓練をつんだ人間の戦士ならば数人がかりでも倒せるが、上位種となると、ドラゴンやらペガサスといった撃退に一個大隊は必要になるような強力なものだ。


「その魔物を使うのです」


「魔物をだと?」


 ヘンリーは頷き、説明を続けた。


「カトリーナ教師も言っていましたが、基本的にこの戦いは何でもありです。この森に生息する魔物を使ったところで文句は言われません」


 この森には、学園で飼育されている……というよりも放し飼いにされている魔物達が生息している。

 魔物達は居住エリアまでは出て行かないように森の周辺に結界が張られているが、森の近くであれば話が別だ。

 時折、魔物達が迷いでる事もある。

 むしろをそれを望んで森の周辺へと赴き、修行のためにと魔物と戦う生徒もいるぐらいだ。


「それはそうかもしれんが……。どうやって魔物を使う気だ? 飼い主でもないお前の言う事など、魔物共は聞かないだろう」


「心配はいりません。私は、これでも魔物使いを志望しているので……」


「魔物使いだと……?」


 魔物使いは、その名の通り魔物の使い手だ。

 魔人使いと比べると、いくらか見劣りするが立派なエリート職であり戦場の華だ。上位の魔物使いともなればグリフォンなどといった上位の魔物まで操る者さえいる。


「はい、ですので……」


 と言いかけたところでがさり、と音がする。

 森の茂みからオークが現れた。


 オークは、大陸に存在する魔物。人間の1.5倍ほどの身長と逞しい筋肉を持つ存在だ。

 人間を襲うことはさほどないが、豚などの家畜を襲う事は多い。

 知能こそ高くはないが、屈強な魔物として一般市民にもポピュラーな存在として知られている。


「早速現れました……それでは」


 ヘンリーの瞳の色が変わる。

 それも、比喩表現ではなく物理的にだ。


「魔眼……か」


「はい」


 ヘンリーは頷く。

 魔眼は、眼に魔力を集中させてそれを相手にぶつける事によって相手の意識を奪って意のままに操る力だ。

 ドラゴンのような知能の高い生物には効きづらいものの、その逆であれば簡単だ。レベルの高い魔眼の使い手ともなれば人間すら操るものもいるという。


 真紅に染まった瞳が、オークを映し出す。

 途端にオークの動きがおとなしくなった。


「これで、このオークは私の、いえ私たちの下僕となりました」


「……大したものだな」


 ドナルドは魔眼の威力に素直に感心した。


「いえ、それほどでも。今の私の力量では完全に操る事は不可能です。せいぜいが『あいつを攻撃しろ』、『私には攻撃するな』といった単純な命令を与える程度でしょう」


 それに、とヘンリーは続ける。


「お褒めの言葉はシャノン達を打ち破ってから――いえ、このスクールバトルロイヤルで優勝してからいただきましょう。 ……ところで」


「何だ?」


「この森の入口近くにあった掘立小屋を覚えていますか?」


 急に変わった話題に戸惑いつつも、ドナルドは十数分前の記憶を探った。


「ああ、そういえばあった気がするが……それがどうした?」


「あの小屋の入口の土に、明らかに最近の物と思われる足跡がいくつかありました。おそらくは――」


 それだけで、


「あの小屋にどこかの班が立て篭っているという事か?」


「はい」


「あのシャノン・アヴァロンか?」


 即座に、自分に屈辱を与えた少女の顔を思い出し、瞳に憎しみの焔を灯す。


「いえ、そこまでは。ですが、戦闘エリアにいるのはスクールバトルロイヤルの参加者だけです。どの班でも同じ事でしょう。遠慮なく潰しましょう。なあに、仮にもこの学園に入学できるだけの実力者が相手です。オークが相手でも死にはしないでしょう」


 そう言ってヘンリーはくく、と笑い、口の端を釣り上げた。


「向かわせるのか? こいつを」


 そう言ってドナルドはオークの方へと視線を動かす。


「はい」


 ヘンリーは淀みなく答えた。


「このオークを使って、小屋にいるいずれからの班を撃破。その後で魔石を奪いましょう」


「いいだろう、お前の策を採用する。だが、このオークだけでは不安だ。こいつが倒された場合も考えて私も赴く。それで良いな?」


「無論、ブラウン元帥の血を引くドナルド様もいれば勝利は確実のものになるで事でしょう」


 そう言ってヘンリーはにんまりと笑った。

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