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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第一部 学園編
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8話 初戦

 帝国学園にある無人の塔。

 そこにアカツキ班は入り、物置のような部屋を見つけた。そこを簡単に掃除してから臨時の会議室として使っていた。


「さて、どうする?」


 アカツキは、適当に置いてあった椅子に座ったまま二人に問いかける。


「いつまでもこの塔に篭っているわけにもいかない。こんな状態がいつまでも続いて

くれるとは思えないし……」


「だよね。守ってばかりで勝つのは難しいよ」


 フランクとエミリーが答える。


「そうだな、要注意なのはシャノンの班かな。さっきの戦闘はすごかった。真正面からいったんじゃ絶対に勝ち目がないよ」


 先程の光景は、戦闘が行われた広場からかなり離れた位置にあるこの塔からフランクが遠見の魔法を用いてしっかりと観戦していた。

 そのため、先程のシャノン班とドナルド班の戦闘はしっかりと見ていたのだ。


「シャノンだけでも学生離れしてるっていうのにあんな魔人まで使われちゃんじゃな。まず勝てないと思う」


「だよな……」


 アカツキは顎に手を当て、何とか手はないものかと考え始める。


「やっぱり、最終日まで逃げ回って弱ったところに襲いかかるしかないと思う」


 フランクは冷静な声で答える。


「ま、まあ……。それが一番妥当ではあるけど……」


「――と、待った。早速この場所が見つかったみたいだぜ」


「え?」


「さっきから簡単な探査魔法で周りの様子を探っていたんだが……この塔に何人かや

ってくる。多分、他の班だろう」


「一体どこの?」


「そこまでは。でも、魔力量はそんなに多くない。シャノン班でもキャロル班でも、

多分ドナルドの班でもないはず」


「そうか……」


 そうは言ったものの、アカツキはまるで安心できない。

 自陣営は、優勝候補と言われる相手と比べると一歩も二歩も劣る。中堅以下が相手

だとしても勝てる可能性は高くないのだ。


「どうする? まだ序盤とはいえ迎え撃つの?」


 そうは言っても、エミリーはどうやら戦いたい様子だ。

 先程からそわそわと、はじめて玩具屋を訪れた子供のような瞳で剣を触っている。


「まあ、この塔から逃げる方が難しそうだし……いずれどこかであたるかもしれない

しなあ。戦っておくか」


「そうこなくちゃ!」


 ぱちん、とエミリーが嬉しそうに指をならす。


「ま、仕方ないか」


 フランクも不満はないらしく、立ち上がった。




 3人が向かった先には、すでに相手は到着していた。


「一応、聞いておくけど。お前達はスクールバトルロイヤルの参加者で間違いないよな?」


「ああ。そうだ」


 相手の班長らしい、長身の生徒の言葉にアカツキは頷いた。

 どうやら、この長身の班長以外の班員は3人。4人編成の班のようだった。


「じゃ、これも一応聞いておくが、黙って魔石を渡してはくれないか? お前達だって痛い思いをしたくはないだろう?」


「断るよ」


 即答だ。

 だが、相手の班長も驚いた様子も失望した様子もない。


「ま、そうだろうな」


 相手の班長は、手元から槍を取り出し、それを掲げる。


「槍使い――なら、私が相手をするわ」


 エミリーが前に出る。

 剣を構え、相手の班長を見据える。


「お前が俺の相手か?」


「そうよ」


 エミリーが頷く。


「はッ! 女に相手をさせられるとは俺も舐められているのかねえ」


「ふん。あんまり舐めていると――大怪我するかもしれないわよ?」


「そりゃ怖い。だったら早めに片付けるとするか」


 その言葉で開戦となった。

 相手の班長が、突撃をかける。


「スミス、頑張れ!」


 後ろから、声援が送られる。

 どうやら、相手の班長――スミス以外の班員は参戦する気はないようだ。実戦レベルには達していないからなのか、それとも余裕か。


 どちらにせよ、それは助かった。


「私に任せて!」


 当初からの予定通り、エミリーが剣を抜き、スミスの前に出る。


「ふん。お前が俺の相手をするのか?」


「そういう事。あなたの得物は槍?」


「そうだ」


 スミスは槍を片手に、鷹揚に頷いてみせた。


「私はこれ」


 きらり、と光る剣をスミスの前へと押し出す。


「剣士や槍使いに勝つためには3倍の実力が必要だっていうよね……だったら」


「だったら?」


「私があなたに勝ったら私の実力はあなたの3倍って事じゃん!」


 嬉しげに、エミリーは微笑んだ。

 その言葉にスミスは苦笑を浮かべ、


「ははっ、威勢がいいな。アンタ」


 ぶん、と槍を突き出した。

 咄嗟に攻撃だったが、それを剣で弾いてみせた。軌道をそらされた槍を戻し、スミスはにやりと笑う。


「ふん。言うだけの事はあるな」


「あは、それは光栄――ね!」


 エミリーは身体強化の魔法を使い、スミスとの間合いを一気に詰める。

 女の子の体とはいえ、身体を強化しての攻撃だ。並の成人男性よりも今の彼女は強靭な肉体を持っている。


 だが、相手もさるもの。

 どうやら、相手も身体強化の魔法を使っているらしい。やたらと硬い。槍を自分の手足のようにスミスは使う。

 ぶん、とその一撃が突き出された。


「くっ!」


 その一撃が、エミリーの体をかすめる。

 かわしはしたものの、制服の一部が破れた。


「エミリー!」


 アカツキが心配そうに声をかける。


「大丈夫! あなたは後方支援に集中して!」


 剣を振るいながら、エミリーが返す。

 そして、その言葉と共に動かした剣がスミスの槍を押し返す。


(――強い)


 アカツキは、二人の戦闘を見て改めて思う。

 相手のスミスもそうだが、エミリーも強い。身体強化はアカツキも使えるが、あそこまで体を強化する事はできない。

 それに、身体強化以外の剣術も一級品だ。幼い頃から学んだというだけの事はあり、学生レベルとしては十分すぎる剣士である事が分かる。


(と、俺も自分の仕事をしなくちゃ)


 アカツキは、自身の役目を果たすべく、魔法銃を用意する。


 魔力の篭った石――魔弾が込められる。込めた魔弾は、あくまで訓練用のもの。殺傷能力は低い。それに狙うのは足。

 まず死ぬことはないだろう。


 殺人はこの戦いではタブー。

 これはあくまで実技試験であり戦争ではないのだ。


 そんな事を考えながら、エミリーと戦っている相手――スミスを見る。

 今のところ互角のようだが、相手もなかなかの実力者のようだ。他の班員達は、背後から応援するばかりで参戦しようとする様子はない。

 後ろの班員はとりあえず無視してもいいだろう。


 引き金を絞る。

 銃口から、魔弾が発射された。


 それは、見事にスミスの足元に命中した。


「ぐっ……」


 致命傷にはならない。だが、体勢が大きく崩された。


「今ッ!」


 一閃。

 エミリーの剣が、スミスを襲った。


「が――」


 それで決着がついた。

 エミリーの一撃がスミスへと命中し、その一撃でスミスが悶絶した。


「う……見事……」


 その言葉だけを残し、どさり、とスミスの巨体が崩れ落ちる。


「やった!」


 後ろで、フランクの歓喜する声が聞こえる。


「よし!」


「やった!」


 アカツキとエミリーも、おそらくは相手の班で最強であろう敵を倒した事を素直に喜んだ。

 だが、まだこの班は4人編成。

 まだ3人の生徒達と戦う必要がある。


 ……そう思っていたのだが。


「こ、降参!」


 あっさりと3人は降伏した。


「これがぼく達の班の魔石にだよ」


 班員の一人が、赤く光る魔石を差し出してきた。


「おれ達はこれでリタイアか――」


 あーあ、と魔石を差し出したのとは別の班員の1人が唸る。


「あ……あれ?」


 思いの他あっけない展開にアカツキは唖然としたが、相手の班員がそれを説明してくれた。


「班長以外はおれ達、ほとんど素人同然だからね」


「戦ったところで間違っても勝てないよ」


「勝てない戦いはする必要がないしね」


 あはは、と3人は笑い合う。


「あらら……」


 あまりにもあっけない結末に、エミリーも呆れた様子だ。


「まあ、いいんじゃない? まずは楽に1勝目だ。これで1個。元々ある1個と合わせて二個目か」


「確かに、全部で10班あるはずだから後8個か」


「じゃ、これからも頑張っていこー!」


 えいえいおー、と3人は勝鬨をあげ、幸先の良いスタートを切った。







 一方、シャノン班からかろうじて逃げる事に成功したドナルド班も小さな小屋へと立てこもり、作戦会議を行なっていた。

 いや、作戦会議といっても一方的にドナルドが怒鳴り散らしていたといった方が正しい。


「くそっ! くそっ! くそっ! おのれ、おのれ、おのれ。シャノンめッ! 魔人に頼るなどとは卑怯な真似をする!」


 自分自身が5対3で襲いかかった事実は棚に上げ、ひたすらにシャノンを罵っていた。

 だが、唯一残っているドナルド班の班員は、それを咎める事なく肯定した。


「まさに、その通りです。ドナルド班長。しょせんは首席入学のシャノンといえども、あのような手を使わなければドナルド班長にはか勝てないという事なのでしょう」


 その態度はまるで、長年付き従う腹心のようなものだ。親の貴賎問わずに平等であるとのスローガンを抱える帝国学園の態度にふさわしいとは言い難かった。


 明らかにへりくだった物言いである。

 だが、ドナルドはその態度に気を悪くしている様子はない。


「その通りだ、ヘンリー。あのような女が首席入学とは正直、失望したぞッ!」


「全くです」


 ヘンリーと呼ばれたドナルド班の生徒は、媚び諂うような態度で頷く。

 彼は、大貴族一歩手前といったところの中堅貴族の生まれだ。

 そのせいか、彼自身は10代の半ばにも関わらず強い上昇思考の持ち主である。そのため、元帥の息子という事もあり将来軍部の高級将校になる可能性の高いドナルドに接近しているのだ。


「……だが、あのような魔人がいたのでは奴を倒すのは難しい。何か手を考えない事にはどうしもない」


 いくらか冷静さを取り戻しつつあるようだが、それでもシャノンに対する燃えるような怒りはなかなか消えない。


「そうですね……。先程の戦いを見る限り、シャノン以外のシャノン班の連中はただのザコです。やはり、あの魔人を引き離してシャノン達だけのところを叩くべきかと」


「ぬ……。貴様、私ではあの魔人は倒せないと言うつもりか」


 ドナルドは不快そうに口元を釣り上げる。

 気分を害したのだという事を感じ取ったヘンリーは、慌てて取り繕う。


「い、いえ。決してそのような事はありません! しかし、魔人などはしょせんは下層階級の出身……名門・グレン家の御子息である班長がわざわざ相手をする必要はないのではないかと思いまして……」


「……む」


 あからさまな持ち上げではあるが、褒められて悪い気はしなかったらしくドナルドはいくらか機嫌を戻した。


「確かにそうかもしれない。だが、引き離すといってもそう簡単ではないだろう」


「そうですが……」


 ヘンリーは考え込む。

 何してでも自分はこの元帥の息子であるこのボンボンに取り込みたい。そのためには、彼に信頼される必要がある。

 そして、ここで彼を勝利に導く事ができればそれは決して不可能ではない。


(何か策はないものか……何か……そうだ)


 そして、思いついた。


「班長……このような策はどうでしょうか」

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