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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第一部 学園編
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7話 スクールバトルロイヤル開戦

 午前9時。

 すでに、生徒達はカトリーナ教師の指示で、広場に集合している。


「それでは、スクール・バトルロイヤルを開始しま〜す」


 相変わらずどか間延びた声が、広場に響く。


「皆さん、魔石は持ちましたねえ〜」


「「「はいっ!!!」」」


 それぞれの班には、魔石が配られている。

 この魔石を奪われれば負け。このスクール・バトルロイヤルはそういう戦いなのだ。


「それでは、準備は万端ですねえ〜」


「「「はいっ!!!」」」


 再び一同が返事をする。

 それを見て、カトリーナは満足そうに頷く。


「それじゃ〜あ、試験開始〜!」


 その言葉で試験が開始され、一同はいっせいにこの場から逃げ出した。


「さ、まずはこの場を離れるぞ!」


「承知!」


 アカツキ達も、フランクとエミリーを伴って遠くへと離れる。

 ある意味当然である。

 この戦いは、バトルロイヤル。一人でも多くの敵を倒したものが勝つのではない。最後まで立っていたものが勝つのだ。

 それが、ほぼ全ての皆が共通した方針だった。


 ――だが、「ほぼ」というのは全てではない。


 その方針をとらなかった班もあるようだ。



「ははっ! 皆いきなり逃げるのか。情けないにもほどがあるぞ!」



 叫んだのは、ドナルド・ブラウン。

 ケネス帝国のグレン・ブラウン元帥の四男だ。


「それでもこの帝国学園の誇り高い生徒か! 負けるのが怖い臆病者ばかりなのか!」


 ……何を言っているのだ。

 そう言った目でまだこの場に残っていた生徒達はドナルドの方を見る。


 これは、一対一の決闘ではない。

 最後に残ったものが勝利のバトルロイヤルなのだ。


 いきなり戦って消耗する事だけは絶対に避けなければならない。どこかが弱ったところを徹底的に叩く。それが定石であり、常道のはずだ。



 ――だが。


「なかなかおもしろい事を言いますね、あなたは」


 シャノン・アヴァロン。

 首席入学の少女があえてその挑発に乗った。


「さすがに、臆病者呼ばわりされて逃げるわけにはいきません」


「シャノンさん……」


 驚いたのは、シャノンの班の班員も同様だったようであり、驚きの色を顔に浮かべている。

 そのシャノンの様子を見て、ドナルドはニンマリと笑みを浮かべる。


「ほう、さすがは首席入学殿。見事な度胸だ。褒めてやろう」


「たかがあなたごときに、褒めてもらっても嬉しくありませんがね」


 シャノンはにべもなく返す。

 その言葉にぴくり、とドナルドはこめかみに青筋を浮かべる。


「たかがだと……だと、このブラウン元帥の血をひく私に……」


「あなたがブラウン元帥の五男である事は知っています。ですが、しょせんブラウン元帥の血を引いているというだけの話であり、あなたが元帥というわけではないのでしょう」


「ぐっ……」


 痛いところを疲れたのか、ドナルドは黙り込む。


「まあ、そんな事はどうでもいい。早いところ、かかってきたらどうですか?」


「言われずとも……」


 ドナルドは瞳に強い怒りの色を浮かべ、シャノンを睨みつける。


「お前たち、行くぞ!」


「は、はい!」


 ドナルドの言葉に、ドナルド班の班員達が頷く。

 なお、ドナルド班は5人の班員がいるの対してシャノン班は3人だ。人数の上ではドナルド班が有利だ。


「シャノンは魔人使いだ! 直接戦闘は弱い」


 魔人使いという存在は、総じて肉弾戦に弱いという思い込みをするものが多い。

 魔人にただ指示を出すだけの存在だと侮蔑するものも多い。


 だが、それは所詮魔人使いになるだけの魔力値の足りない者の考える嫉妬にすぎない。

 魔人使いであっても、並の戦士以上の剣術を持つ剣士だって存在しているのだ。


「はっ!」


 一閃。

 シャノンが片手に持つ剣が振るわれる。


「うぐっ!」


 うめき声をあげ、ドナルド班の班員が一人が悶絶する。


「安心してください。峰打ちです」


 シャノンはドナルド班の班員達に言い聞かせるように言うと、再びドナルドの方へと視線を動かす。


「さて、次は誰がきますか?」


「う……く……」


 あっさりと班員を1人失い、ドナルドは焦る。


 だが、さすがはケネス帝国将軍の息子だ。

 少しは考えた行動に出る。


「シャノンから距離をとれ! 遠距離攻撃で仕留めるぞ!」


「承知!」


 ドナルド班の班員も、その指示に従い距離をとる。 


氷よ(グラキエース)!」


火よ(イーグニス)!」


風よ(ウェントゥス)!」


 氷・火・風を用いた魔法攻撃だ。

 いずれも、入学したばかりの生徒が使うだけあって威力は小さい。


 だが、それが三方面から同時となればさすがのシャノンも厳しい。


「む……障壁を」


 シャノンは魔力を用い、空間を囲うに障壁を作る。


「しゃ、シャノンさん。今援護に……」


 続いて、シャノンの援護に向かおうとするシャノン班の班員2人を、


突風インペトゥス・ウェンティ!」


 ドナルドが魔法攻撃を放つ。

 突風インペトゥス・ウェンティは、先程ドナルド班の班員が使ったウェントゥスよりも威力の高い風系統の魔法だ。

 1年生でこれを使える者も少ない。


 だが、シャノン班の二人もさすがは首席のシャノンと同じ班に属すだけの事はある。

 回避が不可能だと判断するや、魔法攻撃から防御するべく魔法障壁を即座にはった。二人がかりの障壁であり、バードの風魔法でもなかなか突破できない。


 一方、シャノンの方はドナルド班3人を相手に距離をつめる事ができないでいた。


(このままではらちがあきませんね)


 わずかではあるが、シャノンは焦慮する。

 シャノンの魔力量は多いが、相手の方が数は多いし、ある程度実戦経験があるのか巧みに消費魔力の少ない魔法を小出しにしてくる。


(こちらも魔法を使って一気に行くべきでしょうか――)


 シャノンは剣術だけでなく、魔法もそれなりの腕だという自負がある。とはいえ、相手は休む間を与えずに魔法を使ってくるため、なかなか詠唱時間を稼げずにいた。



「――やれやれ。何をやっているのだ我が主よ」



 不意に生徒達の間にこれまで何もいなかったはずの空間から人が現れる。

 鋼の如き肉体を持つ男だ。


「な、貴様は誰だ!? ――て、もしかして」


 ここでふと、目の前の相手が発する雰囲気。

 そして、シャノンが魔人使いであるという情報を思い出し、目の前の男が何者であるか察しがついた。


「貴様がシャノンの魔人か?」


「その通りだ」


 シャノンの魔人に、男は首肯する。


「ちょ、ちょっと待てよ先生! 生徒でもない魔人を使うなんてルール違反じゃないのか?」


「い〜え、問題ありませ〜ん。誰を使おうが、誰かを雇おうか全て生徒の自由で〜す。これは、人をいかにして使うかというのも見る試験でもありま〜す」


 ドナルド班の班員の一人が抗議するが、カトリーナは相変わらず間延びした声で答える。


「シュタール」


 シャノンが魔人――シュタールにやや不快そうに話しかける。


「これはあくまで私の戦い。あなたは出てくる必要がないと言ったはずですが?」


「まあ、こっちも最初はそのつもりだったのだがな。思いの外手こずっている様子だったので手を出さしてもらったよ」


 シャノンの言葉にシュタールは軽く返す。


「む……」


 苦戦していたのは事実なためか、特に反論することなく唇を不機嫌そうに噛み締める。


「ま、こうなったからには俺も参戦させてもらうとするか」


「ぐ……」


 シャノンの前に立つシュタールを見てドナルドは唸る。

 魔人の参戦が認められた今、今のドナルド班が勝てる可能性は薄い。


 状況は4対4。

 相手のうち一名は並の戦士の10倍の力を持つと言われる魔人だ。戦って勝てる可能性は極めて薄い。


 だが、ここで逃げ出すことはドナルドのプライドが許さなかった。

 ブラウン元帥の血を受け継いで生まれてきた子供として、その血筋ゆえのプライドから撤退という選択肢を与えなかった。


「ええい、数では互角だ。かかれッ!」


 だが、その言葉よりも早くにシュタールが動いた。


「な――ッ」


 ほとんど目視できない。

 その一撃は、早く、鋼鉄の如き硬い一撃だ。シュタールの間近にいたドナルド班の班員は一撃で悶絶してしまった。


(フラムヤ)よ!」


 炎熱が、ドナルド班を襲う。

 先程バード班の班員が使った火の魔法よりも威力が上の炎の魔法だ。


 これを喰らえば、ドナルドといえども大きなダメージを受けるだろう。

 まあ、帝国学園には優れた治癒術士が多い。体をまっぷたつにでもされない限りはすぐに治す事ができるだろう。


 だが、当然この戦いはリタイヤせざるをえない。

 この一撃を受けたドナルド班の班員がまた一人退場した。


 これで、ドナルド班は3人が退場。

 残るはわずか2人となった。


「う……ぐ……」


 この状況に、ドナルドは唇を噛み締める。

 ドナルドとて、戦況は読める。自分の実力をやや過大評価しているものの、それでもこの圧倒的不利な状況で勝てると考えるほどの夢想家ではない。

 だが、今の彼は冷静な判断能力を失っていた。

 残っているのはプライドだけといってもいい。


 無謀だと分かっていながら、シャノンに最後の突撃をかけようとした刹那。



ルークス!」



 突如、ドナルドの体が光に包まれた。

 ドナルド班の生き残りの班員が使った光の魔法だ。

 攻撃力こそ皆無だが、暗い場所を照らしたり、相手の目をくらませたりする事ができる。

 そして、今回の使い方は当然後者の方だ。


 シャノンの目が正常に戻った時には、すでにドナルドと、まだリタイアしていなかったドナルド班の班員の姿が消えていた。


「逃げましたか……」


「逃げられたな」


 シャノンの呟きに魔人が答える。


「……シュタール。あなたの位置からならば追うこともできたのでは?」


「おや、さきほどは手を出すなと言っていなかったかな?」


「むぅ……」


 シュタールの言葉に、複雑そうにシャノンは唇を噛む。


「まあ、ともあれ奴らは班員3人を失った。後は放っておいても大した驚異にはならんだろう」


 シュタールの言葉通り、ドナルド班は5人いた班員のうち3人を失った。

 最低3人以上の班員を持つ、他の班と戦うのは厳しいだろう。


 倒された3人の班員が、学園の医療班によって運ばれていく。

 学園の医療班の力を持ってすればおそらくは、1日もしないうちに完治してしまうことだろう。


「幸先の良い出だしだ。このまま勝ちぬくぞ。我が主」


「ええ、ここからが本当の勝負です」

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