6話 スクールバトルロイヤル前夜
翌日。
そして翌々日。
宣言通り、帝国学園新入生達に学科テストが行われた。
テスト自体はそれほど難解なものではない。ケネス帝国の歴史についての問題が中心だが基礎の部分ばかりだった。
アカツキも、帝国に来るまでにある程度は学んでいる。
それなりに出来た……はずである。
午後の食堂。
帝国学園の食堂はかなり広い。
この食堂で食事をとるのだが、広すぎてどの席でとるべきかとアカツキが迷っていると声をかけられた。
「あ、アカツキ。こっちどうだ?」
見ると、そこで食事をとっているのはフランク。
それにエミリーだった。
「二人とも。学科どうだった?」
アカツキが訊ねた。
「うーんまあ、8割はできたんじゃないかな」
「私は……多分、2割はできてる、はず……」
フランクはそれなりに自信ありげに答えたが、エミリーの歯切れはいまいち悪かった。
(そもそも半分くらいが二択問題だったんだから、適当にやっても4分の1はできているはずなんだけど……)
アカツキはそう思ったが、口には出さない。
「まあ、学科の事は置いといて。それよりも明日からの実技試験――スクール・バトルロイヤルだっけ? 班のメンバーとか決まったの?」
エミリーがあまり学科の話題にはふれたくないのか、目の前においてある野菜料理を口に入れながら話題を変えた。
「いや、まだだけど……」
アカツキが答えると、エミリーが身を乗り出した。
「だったらさ、この3人で組まない?」
「この3人で?」
フランクが聞き返した。
「そうそう。せっかくここに3人いるんだからさ、組もうよ。それに今日までに決める必要があるんでしょ?」
「確かにそうだけど……」
厳密に言えば明日の朝までに決めればいい。
だが、実技試験の開始時間は朝の9時。
実質的には今日中に決めておく必要がある。
「特に不満はないし……別に良いか」
「オレも構わないよ」
アカツキとフランクが頷く。
「やった!」
ぱちん、とエミリーは上機嫌で指をならす。
「でも、3人だけでいいのか?」
肉料理を切り刻みながらフランクがしゃべった。
「どういう事?」
お茶を飲みながらアカツキが聞き返す。
「班員は3人から5人って先生も言っていただろ? 3人はあくまで最低人数。最大で5人までいいんだから5人用意しておいたって損はないだろう」
「それもそうだけど……」
アカツキは考え込む。
確かにフランクの言う事は正しい。班員は多めに揃えた方が明日の戦いで有利になるだろう。
「だったらキャロルとかどうだろう?」
「いや、キャロルにはもう声かけたけどもう決まってるって断られた」
アカツキの提案はあっさりとはねつけられた。
「そうは言っても他に親しい人なんていないし……」
「エミリーはどうなんだ?」
フランクの言葉にエミリーは首を横に振った。
「いや、私もシエルからの留学生だしね。交友範囲は狭いよ」
「そうか……」
フランクはうーん、とうなった。
そのまま、切り分けた肉料理の欠片をフォークで口に運ぶ。それを咀嚼し終えてから、話を続ける。
「まあ、最悪はこの3人で戦うって事なるな」
「やっぱりそうなるか……」
アカツキも嘆息し、パンを口にする。
「まあ、せめてもの救いはこれがバトルロイヤル形式だって事ぐらいだけどね」
コップに入った飲み物を飲み干してからエミリーが続ける。
「たしかに。トーナメント形式だったりしたら万が一にも勝てそうにないしな」
フランクも頷く。
「前も言ったけど、強敵は首席入学のシャノンだけじゃない。キャロルだって実技はいまいちらしいけど魔力量は多いし、ブラウン将軍の息子だってかなりの実力だって聞くぜ」
「ブラウン将軍って、確かこの国のお偉いさんだよね?」
「ああ。祖国の英雄って奴? 多くの武功をあげてきた、歴戦の勇士。まあ、それは親のブラウン将軍の話だけどね。とはいえ、息子の方も、長男と次男はすでに軍に入って活躍してるって聞くし、同級生の五男坊だって入学試験の実技じゃあトップクラスの実力者だって聞く。油断はできない」
「そっちも警戒する必要があるのか――」
ふう、とアカツキは息をはき、それからお茶を飲み干した。
「まあ、相手の方はともかく。肝心のキミ達の実力はどれくらいなの?」
食事を終えたのか、デザートのケーキを食べながらエミリーが聞いてきた。
「うーん。一昨日も言ったけど、オレの方は火や風の初歩魔法。それに、治癒魔術をいくらか学んでいる程度だからな。あまり期待しないでくれよ?」
「俺だって、魔法はほとんど使えないし使えるのは身体強化が少しかな。ああ、後は魔法銃もそれなりに使えるけど」
「魔法銃?」
エミリーが聞き返した。
鉄砲は、硫黄や炭や煙硝を混ぜる事によって作り出した弾薬を込めて作り出す武器。魔法銃は、その弾薬に魔力の源である魔石を粉末状にして混ぜる事によって威力を高めている道具だ。
「なるほど……それは珍しいな」
フランクが腕を組んだまま言った。
「魔法銃は、確かに多くの量が世界中に出回っているけど、学生で使っているのはあまりいない。それって今も持っているのか?」
「ああ。でなきゃ、わざわざ言わないよ。護身用のものが部屋に置いてある」
「そうか。だけど、今回の戦いは殺人は禁止だからな。学園の医療班のレベルが高いといっても、万が一という事がある。気をつけて使えよ?」
「わかってるよ。 ……ところで、エミリーはどうなんだ?」
「え? 私?」
食べていたケーキを慌てて飲み込み、それをお茶で流してからエミリーは口を開く。
「うーん、私の場合はほぼ身体強化の魔法だけかな。でも、剣の腕には自信あるよ。槍も多少は使えるしね」
「そうか……」
その情報を聞いて、アカツキは考える。
「じゃあ、もし団体戦になった場合はエミリーが前衛でいいかな?」
「もちろん! 前衛は任せてよね!」
エミリーは自信満々に答えて笑った。
「じゃあ、俺がその後ろで魔法銃でサポート。フランクは後列で魔法攻撃。及びに怪我をした場合の回復役……てところでいいかな」
「それでいいぜ」
フランクも異存はないのか、大きく頷いた。
「それじゃ、明日は頑張るとするか」
同時刻の帝国学園学園長室。
その一室は、ひどく広い一室だった。
左の壁には歴代学園長の肖像画が並び、右の壁にはこの学園を卒業し、卒業後に優れた功績を残した卒業生達の肖像画がずらりと並んでいる。
これだけでも、入った客を圧迫する光景だ。
その学園長室の来客用のソファには一人の男が座っている。
男は、まだ20台前半と見られる若い男。
マシューという名の新任の教師だ。
それに向かい会うかのように座っているのは、年齢はすでに三桁に達している老人だ。
髪はすでに真っ白であり、体もやせ細っている。
しかし、それでも人を一目見るだけで圧倒する威圧感の持ち主だ。
この学園の長であるフェアフィールド学園長だ。
「というわけで、新入生の学科試験は全て滞りなく終了しました」
マシューはそう言って報告書を提出する。
「ほほう、という事は今年も新入生のスクール・バトルロイヤルの時期が来たという事ですか」
報告書を受け取りながら、ほっほっほ、と白い髭を撫でながら学園長が心地よさげに笑う。
だが、マシューは怪訝そうな表情を浮かべている。
「しかし、学園長。この行事、一体何の意味があるのですか?」
「と、いいますと?」
「新入生の実技試験を行うといっても、他にいくらでも方法があるでしょう。何もこのような行事を行わなくとも……」
「意味、ですか……。強いていうのであれば『伝統』ですかね」
「伝統……ですか?」
「ええ。我が校の創立の時代。アルトゥス陛下が崩御される前の時代からすでに存在しているのです。つまりは、この爺が生まれる前からですな」
白い髭を揺らし、愉快そうに学園長は答える。
「マシュー君。キミは確か今年に赴任したばかりでしたね」
「は、はい」
「ならばすぐにとは言いません。ですが、慣れなさい。この行事は、帝国にとって必須といってもいいものなのです」
「必須……ですか」
納得していないのか、いくらか不満そうな表情をマシューは浮かべる。
そんな彼に、孫に言い聞かせる祖父のような穏やかな表情で、フェアフィールド学園長は続けた。
「ええ。伝統とは意味が分からないように見え、ちゃんと生まれた意味があるものです。そして、それを追求してはなりません。それが伝統と言うものです」




