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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第三部 帰国編
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53話 ギネヴィア分国3

 宿屋に戻ったアカツキたちは、タブーの言葉をフランクとシュタールに伝えた。


「真紅龍が、バンガロール地域の街を襲うだって?」


 フランクの目が驚いた様子で言った。


「ああ、その通りだ」


 アカツキが頷く。

 シャノンも横から言った。


「はい。彼――タブーと名乗る人物はそう言っていました」


「反帝国組織影の支援者、か。まさか本当にいたとはな」


「? 知っているのか、フランク」


「ま、噂程度だけどな」


 とフランクは話し始めた。


「不自然な形で勢力を拡大している反帝国組織がたまにあるらしくてな。それを誰かが支援しているんじゃないか、という噂自体は流れていたんだ。ま、本当にそんな奴がいるかどうかは半信半疑だったがな」


「ですが、少なくとも学園襲撃事件の時にあのタブーと名乗る人物は確かにフリーデンを支援していました。彼の姿を私も見ています」


 シャノンが答える。


「確かに、帝国警察なり軍なりにその事を告げるのはいいかもしれんが……」


 でも、と顎に手を当ててフランクが続ける。


「しかし、バンガロール地域で帝国系列の学校を襲うだなんて話を方は信用してくれるかどうか。そのタブーとかいうやつが勝手に言っているだけなわけだし」


「それは、そうですが……」


 シャノンも言いよどむ。

 あの場にいたのは、アカツキとシャノン。それにレーナのみ。

 正直に言ったところでなかなか信じてもらえないだろう。


 そもそも、あのタブーが本当の事を言っている保障はどこにもないのだ。


「フランクはあのタブーとかいうやつがデタラメを言っていたと思うのか?」


「そうは言わんさ」


 アカツキの言葉に、フランクは手の平を上下に振った。


「だが、警察や軍に信用されるかどうかは別の話さ」


 それに、とフランクは続ける。


「そもそも、この話は警察と軍。どっちに話を持っていく気なんだ?」


「それは……」


 またもや言葉に詰まる。

 反帝国組織絡みの事件では、この二つが常に縄張り争いをしている状態なのだ。妙な派閥争いに利用されかねない。


 いろいろと悩んだが、結局は軍の方に訴え出ることにしてこの地にある軍の駐屯地の方へと向かう事にした。






 駐屯地には着いたものの、そこからどう説明するべきか、なかなか考えがまとまらなかった。

 正直に言うべきだろうか。

 だが、正直に言ったところで身分的には単なる学生に過ぎない自分達の発言を軍人が聞き入れてくれるだろうか。

 などという不安もあった。


 どうするべきか、と駐屯地の前で迷っていると、



「む? 君たちは帝国学園の生徒ではないかね?」



 と、不意に声をかけられる。

 軍服姿の男性だ。階級章を見る限り、それなりに高位の地位にいるもののようだ。


「やはりそうか。どこかで見た覚えがあると思っていた」


 そう言って、軽く微笑む。

 どうやら、向こうはこちらの事を知っているようだった。


 誰だったか、と一瞬アカツキたちは迷う。


 ――どこかで見た覚えが。


「例の襲撃事件の調書の時は世話になったね。協力に感謝しているよ」


 その言葉で思い出す。

 学園襲撃事件の時、帝国軍の指揮を執っていた将校。

 確か、チャールズという名前だったはずだ。


「い、いえ。こちらこそお世話になりました。お久しぶりです」


 軽く頭を下げる。

 それを引き継ぐように、シャノンが続ける。


「チャールズ殿こそ、どうしてこちらに?」


「最近、このギネヴィア分国に配置換えになってね。ま、私のことはどうでもいい。君たちの方こそどうしたのだね?」


 と今度はチャールズの方が訊ねた。


「この国には観光で来たのかね?」


「いえ、こちらの彼が夏季休暇の間、祖国であるイズル皇国に帰国しますので。我々はその付添に」


 とシャノンがアカツキの方を示した。


「そうか、ミはイズル皇国の人間だったのか。長旅は大変だろう」


 目の前の将校は、アカツキが異国人だとわかっても特に偏見を抱く様子はないようだ。目元は緩やかであり、眼から放たれる光は柔らかい。

 素直に長旅を労う様子だけがあった。


 その事にアカツキたちも好感を抱いた。


「ご配慮に感謝します」


 シャノンが一礼した。


「それで、ここには何の用で? ここは軍の駐屯地であり、君たちが用のある場所とは思えないのだが」


 その言葉に、アカツキたちは顔を見合わせる。


 ――この人ならば信用できるのではないか。


 そう目で挨拶した。


「チャールズ殿、こちらの話を聞いていただけないでしょうか?」


「? なんだね。話してみたまえ」


 特に脚色することもなく、正直に話した。

 反帝国組織の影から支援すると言われるタブーのこと。

 そして、そのタブーと会った事。

 タブーが、真紅龍を支援してバンガロール地域に襲撃を企てていること。

 すべてだ。


「なんと……」


 最初のうちは、大した用件だとは思っていなかったらしいチャールズは、黙って聞いていたがだんだんとその顔色が変わっていった。


「反帝国組織、その影の支援者――それが、バンガロール地域で反帝国活動を?」


 ぶつぶつと、呟くように言う。


「はい。あのタブーと名乗る人物はそう言っていました」


 シャノンがまとめるように言った。


「そうか……」


 チャールズが顎に手を当てて考え込むよう仕草をする。

 そして十数秒ほど経ってから、


「分かった」


 と言った。


「バンガロール地域にいる兵達の警邏の人数を増やす。さらには真紅龍の動きに注意するように言っておくよ」


 チャールズの言葉にそれだけか、と内心でアカツキは思ったが、同時にそれもやむをえないだろうな、とも思う。

 現状、あのタブーという男が言っていたというだけではその程度が限界だろうし、それ以上の事をして何も起こらなかったらごめんなさいではすまない。


 チャールズに礼を言って皆は、駐屯地から離れる事にした。



「さて、これからどうします?」


 宿屋に戻る途中、シャノンが訊ねた。


「どうするって言われてもなあ……」


 フランクも、これからどうするべきかを決めかねているようだった。


「あの人は信用できそうだけど……。軍がどこまでやってくれるかは分からないな」


 アカツキは顎に手をやって考える。


 軍も万能な組織ではない。

 それは、学園襲撃事件の時によくわかっている。


 実際、あの事件を解決したのは本来は被害者であるはずのアカツキ達生徒たちだったのだ。


「とりあえず、現地に行ってみますか? バンガロール地域に」


 シャノンが提案する。


「バンガロール地域……ここから近いのか?」


「かなり近いです。港から走っていけば1時間もかからないでしょう」


「それくらいなのか……」


 アカツキは考える。

 そのくらいの距離なら。


「そうだな。何ができるか分からないが、とりあえず実際に見てみるか」


「なら決まりですね」


 シャノンがこくり、と頷き、


「シュタール、レーナと宿屋で待機していてくれませんか?」


「構わないが、本当に行くのかね?」


 シュタールの言葉にシャノンが頷く。


「むろん。乗りかかった船、ですからね」


「そういうことなら、オレもつきあうか」


 やれやれ、といった様子でフランクも言う。


「でも、いいのか? 危険かもしれないぞ?」


「何、それはそれで楽しそうだろ? エキサイティングな夏休みの思い出になるだけだぜ」


 アカツキの言葉にフランクはそう言ってニッと笑った。


 ……こうなったら仕方ない、か。


 アカツキも腹を決めることにする。


「それならレーナ」


 と、レーナの肩に手を置く。

 まだどこか、不安そうな様子でこちらを見ている。


「俺達はちょっと、出かけてくるからそこにいるシュタールと待っていてくれ」


「ま、彼女一人を守るぐらいはしてやるさ」


 ふっ、と横からシュタールが言った。


「そちらこそいいのか? これでも、私はこの中では最強戦力だと自負しているつもりだ。その私抜きで行く気か?」


「戦闘になると決まっているわけではありませんからね」


 シャノンがシュタールに言う。


「何事もなければ、それでいいんですから」


「まあ、それもそうか」


 やれやれ、とシュタールが肩をすくめる。


 まだ不安そうにこちらを見つめるレーナを横目に、アカツキ達はシャノンの案内の元、3人でバンガロール地域へと向かうことにしたのだった。

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