51話 ギネヴィア分国1
それから、数日が経った。
アカツキたち一行を乗せた竜車は、順調に旅を続けている。
時折、魔物や盗賊などが襲っては来たが軽く一蹴していた。
そして、多くの分国から分国に陸路を移動し、今もとある分国から分国に移動する街道の途上にいた。
この時、アカツキたち一行は、襲ってきた盗賊と思しき一団を相手の戦闘を終えていた。
盗賊たちも馬鹿ではないらしく、力量の差を悟ったらしくすでに逃げ出していた。
「この辺りは、魔物や盗賊崩れが多いですね。魔力も温存しておいた方がいいかもしれません」
逃げて行った盗賊たちの姿を確認しながらシャノンが言った。
足をひねったらしく、シャノンが足元を抑えながら言った。
「そうだな。何だかんだ言って、あのガラハッド分国はそれなりに安定していたってことか」
こちらはフランクだ。
二の腕の辺りを抑えている。
盗賊崩れの弓矢が少しかすったらしい。
わずかではあるが出血をしている。
それを、治癒魔法で治している。
「認めるのは癪だけどな」
アカツキもそう言うと、不機嫌そうに腕を組んだ。
目立った外傷はないが、盗賊の中にも魔術師崩れがいたらしく炎系統の魔法によって少し服が焦げてしまっている。次の町に着いたら変わりを手に入れなければ、などと考えていた。
「みんな、無事か?」
シュタールは無傷だ。
彼が最も多くの敵を相手にしていたはずだが、傷一つない状態だ。
やはり、その強さは別格だった。
もう一人、無傷の者もいた。
「みなさん、強いんですね……」
元奴隷・レーナだ。
彼女は戦闘には参加していない。
ずっと、竜車の中で隠れていた。
「まあ、な。それなりには」
アカツキがそう返す。
「それなりなんてものじゃないです、とても凄い、です……。私の出る幕なんて、ない」
そう言ってレーナはうつむいてしまう。
「どうも、この娘は自分に何の役割も与えられなくて落ち着かないらしいな」
フランクが小声でアカツキに言った。
「役割って言われてもなあ……」
「戸惑っている、て言った方がいいかもしれんな」
もともと、あのフランシス総督補佐に対するあてつけで買っただけだ。
何かに役立てようとか利用しようという思いで買ったわけではない。
やはり、単なる偽善だったのだろうか。
「ま、何か役割でも与えてやった方がいいと思うぜ。何もしないでいてくれっていうのも、結構きついと思うしな」
そう言い残すと、フランクはシャノンの治療に向かった。
フランクの治療がすむと、
「ところで、アカツキ」
とシャノンが口を動かした。
「そろそろギネヴィア分国に着きます。ギネヴィア分国からは、海路で直接イズル皇国に向かう事になりますね」
「そうなるな」
「少し、気を引き締めた方がいいかもしれません」
「何がだ?」
「ほら、お忘れですか? 以前に新聞を見せたことを。今、ギネヴィア分国は色々と危ない状態だって」
「ガラハッド分国にいた頃に、宿屋の新聞で読んだアレか?」
「はい。真紅龍という組織が今、あのギネヴィア分国との国境付近で暴れているそうですから」
「学園を襲ったフリーデンみたいな連中か?」
「近いです。ただし、祖国の奪還を掲げていたフリーデンとは異なり彼らの祖国は未だに存在しますが」
とシャノンは言う。
「祖国というよりは、中方主義というゾンシンの思想の死守が彼らの目的のようです」
「基本的に、我々のように外の国から来た者たちを蛮族と蔑んでいるようだな」
シュタールが口をはさむ。
「そして、同時に危険視している。自分達を滅ぼしかねない凶悪な敵だと。 ……あながち間違っていないかもしれんがな」
その言葉は少し、皮肉っぽいが事実でもある。
何せ、ケネス帝国は本気でゾンシンという国に攻め入る気でいる。
そんな噂がケネス本国の一般市民の間でも流れているぐらいなのだから。
「異人と知られれば、何をしてくるか分かったものじゃない。ということだ」
「じゃあ、ギネヴィア分国に着いたらすぐにでも港からイズルに向かった方がいいってことか」
「そうですね。それがいいでしょう」
シャノンの言葉に、フランクもふむ、と頷いている。
レーナは会話に参加してこない。
というよりは、会話に参加しようと考える発想自体がまだないのだろう。
「ま、何事もないことを祈りましょう」
そう言ってシャノンは本当に祈るように、天を眺めた。
「総員、配置についたか?」
「はっ! チャン隊長!」
全身を真紅の衣装。
ゾンシン特有の、中方服と呼ばれる民族衣装を着た一団である。
真紅龍。
中方主義の名誉と尊厳の守護を掲げる、組織でありその戦闘部隊の一つを任されている、チャンという構成員が号令をかける。
「諸君、聞け!」
その言葉に真紅龍の一団が、視線をチャンに集中させる。
「奴ら西夷族は、我々ゾンシンの地を不当に占拠し、不埒にも自国の領土などと主張している」
西夷族、というのは彼らゾンシン人にとって西に存在する自国外の人間の事を指している。
「このような暴挙、いつまでも許すわけにはいかん。我々は決起する。バンガロール地域を奪還するのだ」
ごほん、と咳払いしてからチャンは続ける。
「武力を持って、西夷族を追い払い、あの地の正しき所有者が誰かを分からせてくれようぞ! 明日からの作戦に備え、各地、配置につけ。これは、世界の中心たる我らの力を蛮族どもに教えてやるのだ!」
おおーっ! と歓声がこの場を支配する。
熱狂するような雰囲気の中、真紅龍の面々がそれぞれ配置につき始めた。
「……いやいや、見事な演説ではないか。感心した」
背後から一人の影が現れる。
顔は隠されており、見ることができない。
だが、この影の主はチャンの知っている人物だった。
「思ってもいないことを言うな、タブー殿」
ふん、と不快そうにチャンはタブーを睨む。
「おや、ずいぶんと冷たい。私は色々と協力をしてきたつもりだが」
「協力、な。確かにいろいろ世話になった。だが、貴殿の求める見返りはいったいなんなのだ?」
チャンがタブーに訪ねた。
「なんなのだ、とはどういう意味だ?」
「なぜ我々を支援する見返りは何のつもりだ? これまで代価をまったく求めていない。これでは何が目的なのか分からないのでは、素直に謝意を示すこともできないではないか」
「何が目的とは……。妙なことを聞くものだな。真紅龍の、祖国を憂う気持ちと崇高な中方主義に……」
と言いかけるタブーをチャンは遮る。
「そのような建前はいい」
「おやおや」
「他の幹部や、本国の皇族連中がどう考えているかは知らんが、少なくとも私はそこまで中方主義を盲信する気はない」
「ほう……」
少し感心したかのようにタブーは頷く。
「はっきり言って、西方大陸の連中の方がはるかに魔法技術は優れているし強力な武器が揃っている。それに対し、我々が勝っているのは歴史と伝統だけだ」
「祖国に対してひどいいいようだな」
「事実だ」
チャンが強い視線でタブーを睨む。
「祖国を愛しているからこそ、はっきりと現実を直視する必要がある。ゾンシンの外の地からは来た連中は我々より劣った蛮族などではない。我々よりも勝る魔法技術を持つ強敵だ。私は見下す気はない」
だが、とチャンは続ける。
「劣った存在だと見下す気はないが、信用する事はできんのだ。申し訳ないがな。特に
貴殿はな」
「私が信用できないと言うのか?」
「無論だ。タブー殿。貴殿は、フリーデンという組織をご存じか?」
「むろんだ。ランスロット分国の反帝国組織であろう」
「そのフリーデンが、一か月ほど前、ケネスの本国にある学術施設に襲撃を仕掛けるという事件が起きている。 ……結果は失敗だったようだが」
「うむ。そのような事件もあったな」
「そのフリーデンを影で支援し、学園襲撃を唆していたものがいると聞く。それが貴殿ではないのか?」
チャンの言葉にタブーは否定することなく頷く。
「知っていたか。意外だな」
「……我々にも独自の情報網はある」
タブーの態度にチャンが不快げにふん、と鼻を鳴らす。
「一体何が目的でそのような事をしているのだ? タブー殿」
「それは答えるわけにはいかんな」
タブーは応じる。
その態度は、表情こそ見えないもののどこか冷笑しているようにすら感じられる。
「確かにいろいろと世話にはなった。だが、代価を何も求めてこない輩など逆に信用できんのだ」
「では、何か適当な代価を要求すれば信用するというのか?」
「いや、しない」
チャンはあっさりと言った。
「元々、貴殿は怪しすぎる男だ。信用できる事など何一つない」
「そうか、それは残念だ。ま、否定はせんがな」
そう言ってタブーはくっくっく、と笑う。
そんなタブーを横目に、チャンは言った。
「だが、協力には感謝しよう。貴殿の支援を得て、ようやく我らは西夷族・ケネスに一矢報いることができるのだからな」




