表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第三部 帰国編
PR
50/55

49話 ガラハッド分国5

「……」


「……」


「……」


「……」


 見詰め合うこと、数十分。

 アカツキの目の前にいるのは、07こと元奴隷の少女がいる。


 アカツキたちが宿泊している宿の一室。

 そこにアカツキたちは戻っていた。


「えっと、だね。君の名前は?」


「分かりません」


「出身は?」


「ゾンシンのどこかです」


「年齢は?」


「おそらく10年以上は生きているはずです」


 先ほどから、何度も繰り返していた問答をまた繰り返す。

 すでに、この少女と何度も会話をかわしているが、聞き出せたのはこれだけだ。

 それ以上のことは何も聞き出せていない。


 といっても、この少女が嘘をついているという様子はない。

 本当に何も知らないのだろう。


「出身国がゾンシンというだけじゃあ、何もわからないも同然じゃないか」


 アカツキは頭を抱える。

 何せ、ゾンシンという国は広い。

 東方大陸一の大国であり、世界最大の人口を抱えるといわれる。


 領土面積も膨大だ。

 新大陸にある植民地を含めたケネス帝国やティブロン王国にすら匹敵すると言われているのだ。


「しかし、自分の年齢すら知らないなんて事がありえるのか?」


 フランクが誰にともなくがつぶやく。

 そのつぶやきに、横にいたシャノンが応じた。


「ありえないことではないですね。地域によっては、数を数えることができない子供も多くいると聞きます。まともな教育すら受けていないのであれば、自分の年齢すら理解していない子供がいても不思議ではないでしょう」


「そうなのか……」


 アカツキも腕を組んでうなる。


「それで、本当に名前すらないのか?」


「はい。 ……どうやら、父と母はゾンシンからこの国にたどり着いた難民だったらしく、この国で私を生んだのですが、生活に困っていたらしく、総督補佐様のところに売り渡したそう、です」


 少女が答える。


「でも、名前ぐらいはあるだろう。お父さんとお母さんから何て呼ばれていたんだ?」


 フランクが再び問う。


「いえ、『お前』とか『それ』としか呼ばれたことが……」


 少女の言葉にアカツキが唖然とする。


 ……何て親だ。


 だが、自分にそれを攻める資格はないのかもしれない。

 この子の親がどんな生活をしていたのかすら分からないし、子供を売らなければならないほど追い詰められた生活などアカツキはしたこともないのだ。

 それを責める資格があるのはこの子だけなのだが、責める様子はまるでない。


 ただ、あるがままを受け入れる人形のような瞳がそこにあった。


「……はあ、だけど名前がないっていうのは不便だな。何か俺がつけていいか?」


「へえ、名づけ親になろうってのか? アカツキ」


 少しからかうような様子でフランクが言う。


「からかうなよ。それで、いいかな? 今のままじゃ呼びにくいし」


「はい。どうぞご自由に……」


 少女がこくん、とうなずく。


 といって、すぐに名前など思いつかない。

 しばらく考えたのち、「07」、「07」とつぶやいた後、


「じゃあ、レーナ。レーナってのはどうだ?」


「何だそりゃ? 名前の由来はなんなんだ?」


 フランクがあんぐりと口を開ける。


「うちの国には、女性の名前で『レイナ』っていうのがあるんだよ。それに、レーナなら、西方の名前としても不自然じゃないだろう?」


 本当は、「07」という番号名から改変していったのだが、それは言わないことにした。

 それに、変に気取った名前をつけることの気恥ずかしさもあった。


「そりゃそうだが……」


 フランクも納得したような、不満のような表情だ。


「まあ、いいのではないですか? それで貴女はどうなのですか?」


 シャノンが少女――レーナに問うた。


「はい、それで構いません」


 こくん、とまたもや頷く。


「それで、どうするのですか?」


「どうするっていうのは?」


「今後の日程です。このまま彼女、レーナを連れてイズル皇国まで行くということでよろしいのですね?」


「そりゃあ、まあね」


 アカツキも頷く。


「ふむ。竜車は大丈夫でしょうかね?」


「つめればもう一人くらい何とかなるだろ」


 フランクが答えた。

 確かに、レーナは決して巨躯ではない。

 むしろ、小柄な部類に入る。


「なら、決まりだな。レーナも連れて皇国まで行く、ということでいいだろう」


「それじゃあ、明日。彼女も乗せて度の続きってことで今日はもう寝るとしよう」


 ふわあ、とフランクが軽く欠伸をする。


 さきほどのオークションでの、いざこざによりだいぶ時間を浪費してしまった。

 もう夜も遅い。


「じゃあ、寝るとするか」


「そうだね。おやすみ」


「おやすみなさい」


 口々に挨拶をして、それぞれの部屋に戻る。




 アカツキは、レーナを連れて自分の寝所に入った。

 シャノン達とは別の部屋だ。

 当初、レーナは同じ女性であるシャノンと相部屋にした方がいいだろうと思ったが、彼女には既に相棒である魔人・シュタールが相部屋だ。

 彼女の警護する役も担っているシュタールをシャノンと別部屋にはできないため、結局は男性と一緒になることになる。

 ならば、まがりなりにも主人ということになっているアカツキと相部屋の方がいいだろうとこうなった。


「……」


 少女は相変わらず、人形のように突っ立っている。


「そっちのベッドで寝ていいよ」


 アカツキの言葉に、少女はきょとんとしている。


 ちなみに、ベッドは二つある。

 二人部屋を予約したわけではないのだが、単にこの宿には二人部屋しか空いていなかったのだ。

 当初は、部屋代が高くかかって損をしたと思っていたが、結果的にはそれが幸いした。


「……あの、よろしいのですか?」


「何が?」


「その、夜の相手をしなくて」


「……っ!」


 その言葉の意味に気づいて、アカツキは軽く頬を染める。


「い、いやいい。そういう目的で買ったわけじゃないから」


「そうなのですか?」


 レーナが首をかしげる。


 ……確かに、何のために買ったんだろうな。


 アカツキが首をかしげる。

 そういった欲望を処理する道具として買ったわけではないし、労働力として欲したわけではない。

 では、何のために買ったのだろうか。


 目の前で奴隷売買を行っていたあの総督補佐に対する義憤か。


 ……いや、そんなかっこいいものじゃないかもしれない。


 苦笑する。

 そして考える。


 ……結局のところ、ただの自己満足かな。


 目の前の少女一人を救ったところで、この国は何も変わらない。

 仮に、あの総督補佐の『救済政策』をぶち壊したところで、行き着く先はこの国の治安の悪化と、三等分国への降格だろう。


 結局、本国のみが栄え続けるというシステムそのものをどうにかしないと変わらない。

 そして、現時点でアカツキはそのシステムをどうこうするだけの力量もなければ、そのための地位もないのだ。


 かすかに、眠気が訪れてくる。


 ……それでも、いつか。


 そういった事をシステムをいじれるだけの立場につきたい。

 アカツキに、そういった気持ちが芽生えてきた。


 それと同時に、アカツキの意識は睡魔に連れ去られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ