47話 ガラハッド分国3
アカツキたちは、宿の近くの食堂で夕食をとることにしていた。
あまり流行っていない店なのか、客は少ない。
料理の味も、本国の料理のものと比べると格段に落ちた。
だが、アカツキ達が物静かに食事をとっていたのは料理の味が悪いからではない。
先程のフランシス総督補佐との問答が原因である。
「……何か言ったらどうだ?」
フランクが食事中のシャノンに話しかけた。
「いえ、貴方こそどうぞ」
シャノンが話しづらそうに答える。
ちなみに、彼女の魔人・シュタールはこの場にいない。
一足先に宿に戻っていた。彼はこういった場所での食事は好みではないらしく、携帯食料で夕食を済ませるつもりのようだった。
「……」
フランクもそれに何も返さない。
ただ、気まずい沈黙だけが続く。
「……なあ」
「何だ?」
「何ですか?」
フランクとシャノンが話しかける。
「フランシス総督補佐の話……どう思う?」
どう話そうかと思ったが、結局素直に思った事をそのまま訊ねた。
「どう……と言われても」
「あの『救済政策』の事か?」
「ああ」
「……正直、快くは思わないな」
だが、とフランクは続ける。
「あのやり方で救われている人も多い以上、一概に批判はできない」
「しかし、あのやり口はあまりにあくどいですね。救われている人がいるといっても、ケネス本国に使われている税をもう少しこちらに回せば、あんな詐欺まがいの事をする必要もなくなるのでしょうに」
実際、帝都の豊かさを目にしているアカツキも内心で同意する。
あれほど豪奢な街並みを維持するだけの金があるのだ。その一部でもこちらに回せばいくらかはマシになるであろうに。
それに対し、フランクはこう答えた。
「宗主国としては、それほど間違っていないさ。ケネス本国は宗主国である以上、従属国のこの国よりも、ケネス本国の利益を優遇するのはある意味当然とも言えるしな」
シャノンもフランクも『救済政策』には否定的ではあるものの、その否定度にはいくらかの差があるようだった。
「そうか」
とだけアカツキは答える。
再び、気まずい沈黙が訪れた。
ただ、皆が食事をするナイフやフォークの音だけが響く。
「店主、葡萄酒を一杯頼む」
と、フランクは店主に告げる。
「アカツキも頼むか?」
フランクが勧めた。
「いや、明日も早いからな。酒はいい」
「そうか」
フランクもそれ以上は言わない。
ただ、自分の注文した酒を口元へと運ぶだけだった。
通夜のように、会話はない。
皆は静かに注文した物を飲んだり食べたりするだけの状態だ。
だが、店内にいるのがアカツキだけというわけではない。
他にも客が、他のテーブルにいた。
身なりがそれなりにいい客であり、おそらく本国人と思われた。
その二人の会話がアカツキの耳に入ってくる。
「おい、今日のオークションの開始時間は何時からだ?」
「何言ってんだ? 今日のオークションなら後5分もしないうちに始まるぞ」
「なんだと、聞いていないぞ!? ならどうしてお前は、こんなところでのんきに酒など飲んでいるんだ」
「俺は前回に掘り出し物が買えたからな。しばらくは参加する気はないんだ。悪いな」
「くそッ! 何てこった。おい、店主。勘定をしてくれ」
片方の男は慌てて立ち上がると、店主の前に金を置くとそのまま立ち去っていく。
「やれやれ、どうせ向かい合わせにある店なんだ。急ぐ必要もないだろうに」
残された方の男が呟く。
男達の会話の内容はよくわからなかったため、アカツキ達も大して感心を示さなかった。
しばらくすると、もう片方の男も立ち上がった。
「店主、勘定を頼む」
店主が値段を言い、男もそれを払う。
そのまま出て行こうとするが、その時、男のポケットから一枚の紙切れのようなものが落ちた。
アカツキはそれに気づいたが、男の方は気づいた様子はない。
そのまま男は外への扉を開ける。
「ちょ、ちょっと。そこの人!」
落し物だ、と告げようとしたがその声が聞こえなかったようであり、男はそのまま出て行ってしまった。
アカツキは何げなく、今の男が落としたものを見る。
「何だこれは?」
「入店許可証、と書かれていますね」
シャノンがその紙に書かれた文字を読み上げた。
そこには確かにケネス語で「入店許可証」と書かれてあった。
「多分、何かの施設に入るために必要なものなのだと思いますが……」
「どこかまでは分かるか?」
フランクの問いにシャノンは首を横に振った。
「いえ。どこで使うものかまでは書かれていません」
「そうか……」
アカツキは諦めかけたが、ふと先程の会話を思い出す。
……もしかしたら。
「これ、さっきあの人達が話していたオークションとやらをやる店の入店許可証なんじゃないのか?」
先程の男達の会話を思い出す。
「……そういえば。そのような事を話していましたね」
シャノンも先程の会話を聞いていたようであり、理解は早かった。
「さっき、『向かい合わせの店でやる』って言っていたから隣の店に行ってみればすぐにわかるんじゃないかな?」
アカツキの言葉にフランクも頷いた。
「そうだな。だとしたら、外に出ればすぐに分かるだろう。届けてやるのか?」
「ああ。これを無くして困ってるかもしれないし」
アカツキは立ち上がると、料理の料金を支払う。
それに習うようにシャノン達も料理の代金を支払った。
店の外に出る。
向かい合わせの店自体はすぐに見つかった。
だが、看板は出ていない。灯はついているのだから、中に人がいるのは確かなはずだが、何の店なのかは分からない。
アカツキは、少し躊躇したが、その店へと入った。
すると、黒服の男数人に出迎えられた。
「いらっしゃいませ」
男達が揃って頭を下げる。
その対応からして、少なくとも何らかの店を営業しているというのは間違いなさそうだった。
「あの、ちょっと。これを……」
見て欲しい、と言いかけたところで相手がそれを遮った。
「はい、入店許可証ですね。確かに拝見いたしました。こちらからどうぞ」
「え?」
どうやら客と勘違いされているらしい。
その誤解を訂正しようとするよりも先に、店の奥へと案内される。
そこには、地下へと続く階段がある。
「ご存知かとは思いますが、この部屋から地下に行けます。地下のオークション会場に到着してからは、入店許可証に書かれた席へとどうぞ」
ではごぐっくり、とだけ言うと黒服達は去っていった。
「落し物を届けに来ただけだって、言えなかったな」
フランクの言葉にアカツキも力なく頷く。
「ああ……そうだな」
「どうしますか? 先程達の黒服達のところに行って誤解を解きますか?」
シャノンの言葉に、アカツキは頷きかけるよりも早く話しかけられた。
「なんだアンタ達、はじめてか?」
「え?」
いつの間にか、後ろに男が立っていた。
服装から察するに、ケネス本国の人間らしい。
だが、知らない顔だ。
「は、はあ……」
何と答えるべきか言葉に詰まる。
「ああ、俺も客だよ。アンタらと同じくな。入口のところで突っ立ってるから何なのかと思ってな。はじめて来たから何となく入りづらいんだろ? 俺も最初はそうだった」
うんうんと、相手は勝手に納得したように頷く。
「なあに、気にすんな。誰でも始めての時はある。俺だってそうだった。案内してやるよ」
「ちょ、ちょっと……」
アカツキが反論するのよりも早く、男はアカツキの男を握って地下への階段に向かう。シャノン達はどうしたものか、とばかりに顔を見合わせてから、アカツキの後を追った。




