43話 ガウェイン分国
「風が気持ちいいな」
船の上で、アカツキは呟いた。
下を見れば、青い海がただひたすらに見える。
夏季休暇となり、イズルへの帰国を決めたアカツキは、まずは貿易都市ジェイドから、ケネス本国から海路で移動する事にした。
港街で用意されているのは、最新式の水魔導を応用して造られた巨大な船だった。
これに乗り込み、まずは西方大陸を目指す事になる。
武器の類こそついていないものの、移動速度は速い。
一度に百人を超える乗客をのせながらもわずか1日で海峡を超え、西方大陸西端部にあるガウェイン分国にまで移動する事ができる。
まだ太陽が昇りきっていない時刻に、アカツキ達をのせた船はケネス本国を離れた。
地上からは、港に見送りと思しき人々が集まっているのが見えた。
船の上からも、その見送りの知人と思しき人達が手を振っている。
だが、やがて完全に見えなくなるとその人々も船内へと入っていく。
海水の抵抗はほとんど受けていない様子だ。
順調に、その巨船は海路を進んでいく。
速い。
とにかく速い。
船と言うとゆったりと動くイメージがあったアカツキだが、この船はかなり速い。
この国に来る時にも乗ったが、船の速度が東方の船とは段違いだ。
「……すごいな。この船は」
「最新式の水魔導技術が応用されてるからな」
横にいたフランクが解説してくれる。
「まあ、最近はその水属性の魔石が不足してきているようだけど」
と付け加えた。
(そういえば、キャロルもそんな事を言っていたな)
いつぞやの会話をアカツキは思い出した。
「ま、オレ達も部屋に戻ってようぜ。といっても、相部屋だがな」
「そうだな」
アカツキ、フランク、シャノン、シュタールは4人用の相部屋だ。
性別の違うシャノンがいるという事もあり、本来は個室にしたかったのだが、さすがに料金が高かった。
とはいえ、ほとんど全員が同室で雑魚寝する必要がある東方の船と比べればはるかにマシだ。
部屋に入ると、瞑想するように座っているシャノンと、壁にもたれかかっているシュタールの姿が目に入った。
「ただいま」
「今帰ったぜ」
口々に帰還の挨拶を告げるアカツキとフランク。
「おかえりなさい」
「遅かったな」
シャノン達も返事をする。
「よっと」
部屋に用意されたベッドに腰を落とす。
そして、荷物の中から地図を取り出した。
「さて、これからイズルに行くまでの道筋を復習しておくか」
「そうですね」
シャノンも応じる。
「まずはケネス本国と、海峡を挟んだ先にあるガウェイン分国に行く」
アカツキが、ケネス本国を指差し、それを海を挟んだ先にある西方大陸の西端部へと動かした。
「そういえば、エミリーの故郷のシエル王国から行く事もできるんだよな」
ふと思いついたようにアカツキは言った。
彼女は、別のルートからシエル王国へと向かっておりこの場にはいない。
彼女は、この場にいない。
当初はギルドの護衛としてフランクかシャノンのどちらかを彼女に、という予定もあったのだが、
『両方ともアカツキが連れていっていいよ。どうせ、あたしはすぐに故郷に着くし』
との言葉により、二人ともアカツキの護衛として付けられた。
厳密に言えば、シャノンには彼女の魔人であるシュタールも付き添っていたが。
そうだな、とフランクも頷く。
「まあ、はるか遠方のイズルとシエルじゃあ距離が全然違うからな」
「もしかしたら、既についている頃かもしれませんね」
アカツキ達に先立って、既にエミリーは故郷に向かっていた。
シエル王国までの距離を考えれば、既に到着していてもおかしくない。
「ま、いいや。話を戻そう。こちらに最初来る時はどうやって陸路を移動した?」
そんなアカツキの内心を知ってか知らずか、フランクは話題を修正した。
「どうやってって……陸は竜車を使ってたかな。最後は今みたいに船に乗って移動したはずだけど」
竜車は、移動手段としてかかせない。
「じゃあ、帰りも同じという事でいいんだな?」
「それでいいよ」
アカツキは頷く。
竜車を買うのには、膨大な金が掛かる。
だが、ただ移動する際に借りるだけであればそれほどの金額ではないし、その出費を惜しむ気はない。
徒歩で移動などしようものなら、帰国する前に夏季休暇が終わってしまうだろう。
「その竜車で、ガウェイン分国を出て、ランスロット分国、ガラハッド分国と順番にケネス分国を回って行くか。最東端にある、ギネヴィア分国にまで行けば船がある。その船に乗りさえすれば、イズルまで行ける」
「私も異論はありません」
「じゃあ、そのルートで行こう」
アカツキも了承し、帰国ルートの確認が終わった。
ガウェイン分国。
ケネス帝国から、海路で向かった先にある分国の1つである一等分国である。
一等分国という言葉で分かる通り、分国の中では比較的治安の良い国であり、特に危険はないところだ。
一同は港に到着すると、船を降り、街へと向かう。
「賑わっているな」
アカツキが、街の感想を素直に述べる。
そして、実際にその通りだった。
港街という事もあり、街中にある華々しい店の品揃えは豊富だ。
珍しい異国の品に、通行人は目を奪われている。
西方の海でとれる、獲られたばかりと思われる新鮮な魚も売られている。
その魚の焼かれたものを買い、食しながら、アカツキ達は歩く。
「分国というのだから、もっと苦しい生活をしているかと思ったけど……」
ランスロット分国の反帝国組織・フリーデンの構成員の言葉を思い出し、アカツキは呟く。
こんなにも生活が豊かなのに、何が不満なのかと疑問に思った。
「ここは一等分国だからな」
「本国とはそう変わりませんよ」
フランクとシャノンが口々に答えた。
一等分国は、分国のランクとしても最高クラスだ。
治安の安定した地域に与えられる。
「……そんな事を聞くのは、この間の襲撃事件のせいか?」
「いや、まあ」
見透かされていたようだ。
フランクの言葉にアカツキは曖昧に頷く。
「あの事件を起こしたフリーデンのランスロット分国は三等分国。治安レベルは最低クラス。こことの比較じゃあ参考にならないぜ」
フランクの言葉にアカツキは黙って頷く。
「そのランスロット分国にはこれから向かう。オレも何度か行った事があるが、治安が悪いところだ。気をつけろよ?」
「わ、分かった」
アカツキも了承する。
三人が向かっている先は、竜車屋。
そのままの場所であり、竜車が借りる事のできる店だ。
この竜車で、ガウェイン分国→ランスロット分国→ガラハッド分国と順次向かっていき、最後はイズル行きの船が出ているギネヴィア分国まで向かう。
ギネヴィア分国にあるこの店の支店の方に竜車は返却すればいい。
そして、竜車屋に到着した。
「さて。ここからは、竜車で陸路を進むとしましょう」
「そうだね」
手続きを済まし、ここからは竜車で陸路を進む事になる。
これからは、ケネスの各分国を陸路で進む事になる。
料金を払い、4人が乗る事になる竜車が用意された。
4人が竜車へと入り、竜車が動き出す。
がたごとと、体がゆすられる奇妙な感覚に襲われたものの、すぐに慣れてきた。
室内は、快適とは言い難いがそれなりに落ち着いた空間であり、アカツキとフランク、それにシャノンとシュタールが向かい合う形で竜車の中に座っている。
街道をただひたすらに走り抜ける。
「……意外と揺れないものだね」
竜車の乗り心地を味わいながら、アカツキが呟いた。
「そうですね。これならば乗り物酔いする事もないでしょう」
「読書だってできるな」
フランクはいつの間にか本を取り出している。
「それは娯楽小説ですか?」
「そうだぜ。お前たちも読むか?」
「いえ、遠慮します。私は瞑想でもして過ごします」
「俺もいいよ。外の景色でも見て過ごす」
アカツキの返事に、フランクは「そうか」とだけ言って本を読み始めた。
シャノンは言葉通りに瞑想を始めた。
傍らに控えるシュタールも同様だった。
アカツキも、先程言ったように外の景色を見て過ごす事にした。
「街道も整備されているんだね」
竜車の速度は速い。
窓から見える景色は、次々とその姿を変えていく。
だが、それでも相当に整備された街道である事が分かる。
「それはそうですよ。もっと獣道のようなものを想像していましたか?」
「いや、まあ。分国って言うぐらいだしケネス本国との差がもっと激しいのかと思ってた」
アカツキの言葉に、シャノンは苦笑気味の表情を浮かべる。
「さきほども言いましたが、ここは一等分国ですからね。二等、三等分国ともなればまた話は違って来ますが一等分国は本国とほとんど差がありませんよ」
「そうなの?」
「はい、ですが二等・三等分国……特に三等分国には注意してください。ケネス本国人や、外国人に攻撃的な国民も多いですから。人通りのない街道などは特に注意です」
「そうか……」
「とはいえ、フリーデンほど過激な人達はそうそういませんので安心してください」
その後は、雑談らしい雑談もなかった。フランクはただ本を読んでおり、シャノンは瞑想をするかのように目を瞑っておりするのを横目にアカツキは軽く外の景色を眺めながら過ごした。
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