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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第二部 学園編2
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38話 新たな策

 キャロル達は、結論から言うと――人質の集まっている食堂の外に戻っていた。


 三人の息は荒い。

 つい先程、必死にフリーデンの構成員達から逃げたところなのだ。


「……思ったより、厳重だったね」


 ふう、とキャロルは嘆息してレオとグリフィスを見やる。


 人質の集まっている食堂の近くにまで潜入できたのだ。

 だが、そこからが大変だった。


 予想以上に見張りが多い。

 それも、強力な魔法の使い手や強力な武器で武装している者が多かった。


 しかも、途中でキャロル達が潜入している事が露呈した。


 そこからが大変だった。

 当然の事ながら、侵入者であるキャロル達を捕縛するため、フリーデン達が襲いかかってくる。

 キャロルの魔人であるレオの奮闘もあり、命からがら逃げてきたものの結局何も得るものはなかったのだ。


「あいたた……」


 キャロルは肩を抑える。

 先程、フリーデンの構成員がぶっぱなした魔導銃による一撃で、肩に傷を負っていたのだ。


「キャロル様、大丈夫ですか?」


 レオが心配そうに声をかける。

 だが、レオの方も炎系統の魔術攻撃を受けたらしく腕にいくらか火傷の跡が残っている。


 グリフィスも同様だ。

 いくらか体に切り傷が残っている。


 だが、三人とも命に関わるような怪我はないようだ。

 とはいえ、安堵するわけにはいかない。


 単に傷をつけて潜入前の状態に戻っただけなのだから。


「……とりあえず、念話でこちらの状況をフランク達に伝えるべきだろうね」


「そうだな」


 作戦が失敗した場合でも、その事実は共闘相手には伝えるべきだ。共闘者と正確な情報を共有する必要がある。

 グリフィスもその事に異論はないらしく頷いた。



『キャロル、いいか』



 ――と、思ったら向こうから来た。


 フランクからだ。


「フランク。ちょうど良かった。こっちは――」


『うまくいったぞ』


「え?」


 フランクの言葉がすぐにどういう意味か分からず、首をかしげる。


「うまくいったって――?」


『何を言ってるんだ。魔導炉だよ。フリーデンの連中は追い出した。無事に解放できたよ』


「!!」


 キャロルは、その言葉の意味を理解すると同時に驚いた。

 アカツキやシャノン達の力を信じていないわけではなかったが、こうも簡単に行くとはキャロルにとっても驚きだった。


「そっかうまくいったんだ……。それは良かった」


『それで、何だけどそっちの様子はどうだ? うまくいってるか?』


「いや……」


 キャロルは言葉を濁す。

 こちらはろくに戦果を出せずに撤退を選んだのだ。

 素直にその事を告げづらい。


 だが、虚偽の報告をするわけにもいかず正直にその事を告げる事にした。


『そうか。うまくいかなかったか……』


「ごめん。そっちは見事に成功したっていうのに」


『いや、失敗したのなら仕方がないさ。 ……それじゃあ、オレ達もそっちに合流した方がいいか?』


「そうだね……」


 キャロルは考え込む。

 確かに、アカツキ達が合流すればこちらの戦力は格段に強化される。

 だが、それでも思った以上にこちらを守るフリーデンの人数は多く、勝てる保証はない。


 何より問題なのは、魔導炉の解放を知ったらフリーデンがどんな手段に出るかわからないという事だ。

 追い詰められた犯罪者ほど恐ろしいものはない。

 だからこそ、人質の解放と魔導炉の解放は同時に行いたかったのだ。

 だが、それに失敗した。


「いや、フリーデンの連中が魔導炉をまた奪い返そうとするかもしれない。そうならないように君達はそこに残っていて。こっちは僕達で何とかするから」


『そうか? 大丈夫なんだろうな』


「大丈夫だよ」


 キャロルは頷く。

 フランクの話を聞いて、策を一つ思いついていたのだ。


『分かった。 ……気をつけて』


 それで、フランクとの念話が終わった。


 それを見計らってグリフィスが話しかけてきた。


「向こうはうまくいったみたいだな」


 グリフィス達に、念話の内容は聞こえない。

 だが、キャロルの表情の変化などでおおよその事情を察したのだろう。


「そうだよ。アカツキ達は魔導炉の奪還に成功したみたいだ」


「……そうか」


 グリフィスは、わずかに唇の端を歪める。


 ……もしかしたら、悔しがっているのかもしれない。


 あちらは成功したというのに、こちら無様に失敗して逃げてきたのだ。

 グリフィスの気持ちもよく分かる。


「それで、どうするのですか? キャロル様」


 レオが訊ねてきた。


「大丈夫、手は考えてあるから」


 そうグリフィスとレオに告げる。


(少し危険だけど――)


 そんな事言ってられない。

 もしかしたら、逆上したフリーデンが何をしでかすかわからないのだ。


(大丈夫)


 自分を納得させる。

 そして、自分の策を二人に伝える事にした。


「レオ、グリフィス。食堂にいる人達にこの魔導炉が奪還できた事を伝えるんだ。そうすれば、もうフリーデンなんて怖くなんてない。ただの武装集団に過ぎない」


「人質になった連中にか?」


 グリフィスが訊ねる。


「そうだよ。人質の人数は見張りのフリーデンの人数の数倍だ。それも、それなりの実力を兼ね備えた生徒も多い。さっき見てきた限りだと、それほどきつく拘束されているわけではないみたいだし、魔導炉が解放されたことさえ知れば一気に立ち上がるよ」


「確かに、人質の連中がいっせいに魔導炉が解放された事を知れば一気にフリーデンに反旗を翻すだろう――だが、どうやって伝える気だ?」


「魔力光信号を使う」


「なるほど――その手があったな」


 グリフィスが感心したように頷く。


 魔力光信号は、異なる魔力の色を連続で表示する事によって、言葉を伝える事ができる技術であり、戦場では重宝される能力だ。


 キャロルは杖を取り出し――青色に光らせた。

 続いて赤色、緑色といった具合に色をかえていく。


 次次と食堂の内部にいる生徒達に見えるように、光らせていく。


(大丈夫――仲にいる生徒達がこれに気づけば――)


 事態は一気に好転する。

 キャロルはそう考え、食堂のある方角を見つめ続けた。

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