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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第二部 学園編2
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37話 交戦

「誰かいたぞッ!」


「追え! 絶対に逃がすなッ!」


 魔導炉の制御室の近くの廊下でフリーデン構成員の声が響きわたる。

 その人数は数人ほど。


 手には、魔導銃を持っている者ももいれば、魔術師用の杖を持っている者もいる。いずれも臨戦態勢だ。


 この廊下に、誰かが隠れ潜んでいる事を察したらしいフリーデンが数人がかりで追跡を開始したのだ。


「逃がすなッ! 絶対に逃がすなよ」


 遮蔽物はほとんどない。

 しかも、魔導機械によって室内は明るい光に包まれている。


 追跡者であるフリーデン構成員達の方が圧倒的に有利だ。


「逃げても無駄だ!」


 構成員の一人が叫ぶ。

 その顔は、獲物を追う猟師にそっくりだ。

 それも、獲物を仕留める直前の。


 逃走者との距離が縮まる。

 捕らえた、と先頭を走る構成員が思った次の瞬間。



(フラムヤ)!」



 急遽、逃走者が反転。

 魔法攻撃を行った。

 逃げる一方だった逃走者が急に反撃に転じるとは夢にも思わなかったらしい。


 追跡者のフリーデン構成員が一瞬で炎に包まれた。


「ぎゃあああああッ!!」


 フリーデン構成員の悲鳴が響く。


「いくぞ、フランク!」


「おう!」


 逃走者――アカツキと共に、フランクが立ち去る。

 辛うじて攻撃から逃れたフリーデン構成員が憤怒の表情を浮かべる。


「なめた真似を……」


 そして、この中で最も階級の高いものが指示を出す。

 数人の構成員に視線を移し、素早く言う。


「お前達は俺と共に奴らを追跡! 後の者は負傷者の治療と、ヴォルフ様への報告だ!」


 答えも聞かず、追跡者に選ばれた構成員たちが走り出す。


風よ(ウェントゥス)!」


 今度は、フランクの口元から言語(スペル)がつぶやかれる。

 風属性のその魔法に、構成員達は動きを乱される。


「くそッ! なめやがって!」


 構成員の一人が、腹たち紛れに魔導銃をぶっぱなした。

 しかし、見当違いの方向へと銃ははなたれ、廊下に飾ってあった花瓶が派手に破壊されただけだった。


 アカツキたちは、なおも走り続ける。


 フリーデン構成員達が追う。

 ただひたすらに追う。


 追跡するフリーデン構成員たちだが、なかなか距離を詰める事ができずにいた。


 ここで、アカツキは再び立ち止まり――フリーデン構成員たちの方に振り向いた。


「もう一度! 今度は、(フラムヤ)


 アカツキは呪文を詠唱しえると、再び振り向き攻撃魔術をぶっぱなした。


「うわあッ! 火が、火があぁぁッ!」


「燃える、俺の服が燃えているッ! 誰か、消してくれッ!」


 再び追跡するフリーデン構成員は混乱状態に陥った。

 その隙ををついて、アカツキたちは距離を離す。


 混乱から立ち直ったフリーデン構成員はそれを追いかける。


 ――が、その鬼ごっこもやがて終わった。


 アカツキ達が逃げる方向に、フリーデンの増援が先回りしていたのである。

 数人の構成員と共を、一人の指揮官格の男が率いていた。


「フリーデンのヴォルフだ。私の部下達と遊んでくれていたようだな」


 他の構成員達がおとなしくヴォルフの言葉を聞いている。その事からおそらくは、この男は幹部クラスの構成員なのだろう――アカツキはそう思った。


「だが、それもここまでだ。おとなしく降伏しろ。抵抗は無駄だ」


 口調こそは冷静だ。


 だが、顔に浮かぶ怒りの色が隠しきれていない。

 それはそうだろう。

 反体制組織――彼らの言い方を借りれば革命集団だが――が、たかが学生二人にいいように翻弄されていたのだから。


「悪いが、断らせてもらう」


 アカツキは答える。

 ぴくり、とヴォルフのこめかみに青筋が浮かぶのが分かった。


 それを無視して、フランクも続ける。


「ここはオレ達の学び舎だぜ? そして、アンタ達は侵入者。おとなしく従ってやるわけがないだろう」


 フランクの言葉にヴォルフの顔に怒りの色が強く浮かぶ。


「では貴様らはケネス人はどうなのだッ!」


 ヴォルフは怒鳴り散らす。


「貴様らは、軍を率いて一方的に我らの祖国・ゲルマン王国を支配しつづけている。それがよくて、我らゲルマン人が学園一つ占拠するが悪だとほざく気か!」


「――ッ!」


 アカツキの脳裏に、ブルガリア公爵を暗殺しようと目論んでいた男の顔が思い出される。

 あの男も、支配者であるケネス帝国政府を――そして、圧制者の象徴ともいえるブルガリア公爵の事を強く憎んでいた。


(ケネス帝国が圧制者、か)


 アカツキは唇をかみ、ケネス帝国の歴史を思い出す。

 ケネスの歴史はまさに侵略と支配によるものであり、その結果として膨大な富と勢力を築き上げていた。

 弱者はただ、ひたすらにケネス帝国の食い物にされ続けてきた。


 目の前の相手は、まさにその弱者(ゲルマン王国)側の人間達だ。


 そして、アカツキの故郷であるイズル皇国もつい最近までその弱者側の存在だった。

 いや、今でも強者とは言い難い。

 大皇により、一統がされたものの未だに西方諸国と比べれば後進国であり、東方の利権にも強い関心を持つケネス帝国に匹敵する大国・ティブロン王国の餌食にもなりかねない状態だ。


 もし、ティブロンによってイズル皇国が占拠されたら。そして、イズル人がその侵略者達によって奴隷のようにこき使われていたら。


 ……もしかしたら、目の前の男たち(フリーデン)のような行動に出ていたかもしれない。


 そう考えると、目の前の相手にわずかならがら共感できた。


「確かに、貴方達には貴方の事情があるのかもしれない」


 だが、今は――。


「でも、今重要なのは貴方達が俺の学友達を監禁し、その命を危険にさらしているという事実だ。それにケネスもゲルマンも関係ない」


 じっ、とアカツキは見据えた。

 どんなに同情するべき事情があっても、今大事なのは目の前の相手が学び舎を占拠し、学友達を人質にとったという事実だ。

 目の前の相手と妥協の余地はない。


「話し合いは無駄、か」


 ヴォルフはいくらか冷静さを取り戻した様子で呟く。

 そして、片手をあげる。


「そいつらも人質として機能してもらわねば困る。死なれては困るが……手足の二、三本くらいは覚悟してもらおう」


 ヴォルフの声に、周りの構成員達も反応する。

 じりじり、とフリーデンの構成員達は距離を詰めてくる。


 魔導銃をこちらに向けている者もいる。

 アカツキ達も戦闘態勢をとる。


 一触即発の状態だ。

 だが、その均衡状態はすぐに破られる事になった。



「た、大変ですッ!」



 慌てた様子で、フリーデン構成員が駆け込んできたのだ。

 荒れた息のまま、その構成員はその場に倒れる。


「どうしたッ! 一体、何事だ!」


 ヴォルフが怒鳴るように聞く。

 だが、それでいてこちらへの警戒はとかないようだ。


「そ、それが……」


 ひと呼吸置いてから、その構成員が言う。


「ま、魔導炉の制御室を乗っ取られました!」


「な、何……ッ!」


 一瞬で、ヴォルフの顔が驚愕の色に染まる。

 自体を即座に理解できないらしい。硬直したように暫く固まった。


 そして、やがてこちらに視線を動かす。

 アカツキのニッ、とした顔を見てヴォルフは悟ったようだ。


「き、貴様……」


 顔面蒼白のまま、ヴォルフは絞り出すように声を出す。


「貴様らは陽動か!」


 ヴォルフは、先程この報告を持ってきたフリーデンの構成員が走ってきた先――魔導炉制御室のある方角へと視線を動かす。

 といっても、制御室はこの場所からかなり離れた場所にある。

 見えるはずがないのだが、ついヴォルフはそうしてしまっていた。


 その先から、一つの人影が見えた。


「魔導炉の制御室だけあって、それなりの戦力が配置されてありました。私とシュタールでも倒すのに5分ほどかかりました」


 悠然とした様子で、こちらに歩いてくる華奢な体格な少女の姿がヴォルフの目にうつる。


「シャノン、やってくれたか」


「当然です。任された以上、その役目は果たさねば」


 シャノンが答える。


「それで、今制御室には?」


「シュタールが守っています」


「それじゃあ、一安心ってところか」


 フランクもシュタールの実力は知っている。

 シュタールが守っているのであれば、再度奪還される可能性は低いだろう。


「貴様ら……」


 屈辱のためか、ふるふるとヴォルフの唇が震える。


「許せん……絶対に許せん。一人残らずこの場で叩きのめしてやる!」


 ヴォルフが怒り狂ったように、唾を飛ばす。

 その瞳には、強い憎しみの色が浮かぶ。


「ヴォルフ様、魔導炉の制御室が奪い返されたとあってはこれ以上抵抗するのは危険です」


 いち早く、混乱から立ち直ったらしいヴォルフの部下の一人が嗜めるように言った。


「無念ではありますが、この場を離れるしか……」


「何を言うッ! こいつらを皆殺しにして再び魔導炉を奪い返せばいいだけの話ではないか!」


 その言葉に、アカツキ達は再び身構える。


「無謀ですッ! ここは引くほかありません!」


「ぬ……」


 強いその進言に、ヴォルフもいくらか気圧されるように声を震わせる。

 その反応を見て、ヴォルフの部下達は、ヴォルフも内心では撤退するべきだと考えているのだと思った。

 ただ、感情的な問題からそれを決断できないでいるのだとも。


 そのヴォルフの様子にフリーデン構成員達は互いに目を見合わせた後、魔導銃を構えた構成員がその魔導銃をぶっぱなした。

 だが、それはアカツキ達には当たらず、廊下に光を照らしている魔導光(ランプ)へと当たり、一瞬で砕け散った。


「なッ――!」


 一瞬で、周りが暗くなる。


光よ(ルークス)!」


 一瞬で、アカツキの魔法によって光が灯される。


 だが、そのアカツキを無視するように、フリーデン構成員達はヴォルフを抱えたまま、廊下を走り去っていく。


「ヴォルフ様、逃げますよ!」


「――くそッ!」


 ヴォルフも、ようやく決断したらしい。

 部下達と共に、走るようにかけていく。


 その勢いのまま、ヴォルフ達は廊下を駆け抜けていった。



「追わなくていいのですか?」


 こちらも、(ルークス)によって灯を作り出しているシャノンが訊ねた。


「ああ。追い詰められたネズミは猫を噛むというし、深追いする必要はないだろう。それよりも、この事を人質解放に向かった連中に報せよう」


「分かりました。 ……それでは、フランク。キャロル達に連絡を頼みます」


「分かった」


 フランクが頷く。


 念話を開始したフランクを横目で眺めながら、アカツキは呟くように言う。


「それにしても」


「何ですか?」


 集中しているらしいフランクではなく、シャノンが代わりに答えた。


「思ったよりも簡単にいったな。正直、もっと苦戦するかと思った」


「さっきのフリーデンの幹部が聞いたら殺されそうな事をいいますね」


 そういってシャノンはくすりと笑う。


「はは、そうかもしれない」


「ですが、それは思ったよりも簡単だったというのは同意ですね。やはり、例の抜け道のお陰でしょうか」


 キャロルの言っていた通り、確かに教会の近くからこの魔導炉の制御室がある塔への抜け道があった。

 そのお陰で、簡単に潜入でき、制御室まで奪還できたのだ。


(それにしても、何でキャロルはその抜け道を知っていたのだろう)


 グリフィスをたしなめたのは自分だが、それでもアカツキは気になっていた。

 念話で会話中のフランクを横目にアカツキはそんな事を考えていた。

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