36話 会議
教会の方にアカツキたちは戻っていた。
いくらかの休息をとってから、アカツキたちは会議を開いた。
「……大体の事情は聞きました」
先程救出されたシャノンが開口一番に言った。
破かれた制服を着替え、教会にあった予備の服を着込んでいる。
いわゆる修道服と呼ばれる服だったが、清楚な印象のあるシャノンには不思議と似合っていた。
「まず、私達の目標は魔導炉の奪還と、人質の解放、ということでよろしいですね?」
「そうだよ」
キャロルが答える。
「それも、ほぼ同時に行う必要がある。それはさきほど変わっていない」
キャロルの言葉に、アカツキも頷いた。
隣でグリフィスも頷く。
「そうだな。魔導炉を解放したところで、人質がそのままだとどうにもならないからな。人質になった連中を見殺しにするというのなら別だが」
グリフィスのその発言に、アカツキは少し顔をしかめるがそのまま話を続ける。
「人質を解放しても、魔導炉がそのままだと意味がないしな。魔導炉が奴らに占拠されている限り、学園そのものが人質にとられたのも同然の状態だ」
「そうだね。僕もアカツキに同意するよ。ここは、魔導炉解放組と人質解放組。二手に別れて同時に攻略する必要があると思う」
キャロルの言葉にアカツキ達は頷いた。
「そこで……何だけど、君達の中で念話を使える人はいる?」
キャロルが言う念話とは、思念に魔力を込めてとばす念話と呼ばれる連絡手段だ。
情報の錯綜する戦場などでも重宝される能力であり、個人の素質にも左右され、さらにそれなりの力量を必要とするものだった。
皆は顔を見合わせ、黙って首を横に振った。
だが、一人だけ首を縦に振った者がいた。
「オレなら一応使えるが……」
「フランク、本当か?」
「ああ、本当だ」
アカツキの言葉にフランクは頷く。
「軍医をやってた叔父がいてな。その叔父から教わっていたんだ」
フランクの言葉にキャロルは笑みを浮かべ、
「フランクも使えるのなら大丈夫だね」
「フランク”も”という事は、キャロルも使えるのか?」
「そうだよ。僕も使える。だから、僕とフランクを別の組にすれば、念話で常に会話ができる。 ……えっと座標を指定して、と」
と、頭の中で声が響いた。
『みんな、聞こえる?』
「うわっ、何これ!?」
エミリーの驚いた様子で声をあげる。
「なるほど……これが念話か」
アカツキが納得したように頷いた。
こういう能力がある事は知っていたが、実際に体験するのは始めての事だ。
「そうだよ。まあ、念話が使えない相手にはこちらの声を一方的に送る事しかできないけどね。 ……と。大丈夫、聞こえてるよ」
ここでキャロルがフランクと何か会話をしているようだ。
おそらく、フランクからも念話がキャロルに送られたのだろう。
「うん、うん……大丈夫そうだね」
暫く繰り返した後、キャロルは満足そうに頷いた。
「大丈夫だったか?」
「うん。上出来。これなら、ちゃんと連絡も取り合えるし大丈夫だよ」
さて……とキャロルは再び一同を見渡した。
「じゃあ、魔導炉の解放にはアカツキとフランク。それにレオとシュタールが向かい、人質解放の方には僕とレオ。それにグリフィスが向かう。エミリーはここでパティさんの護衛兼捕縛しているニックの見張りという事でいいかな?」
「それでいい」
「構わない」
「分かった」
「承知しました」
口々に皆が答える。
これで、方針は決定された。
人質解放に向けて、再び動き出した。
学園外部。
学園を包囲したケネス軍ではあるが、特に有効な策もないまま時間を消費し続けただけだった。
「やっぱり、簡単にはいかないか……」
チャールズは、広げられた学園の地図を見ながらうなった。
「それにしても、この学園の護りは固いな。鉄壁だ」
幾多の戦場を経験したチャールズから見ても、そう感じずにはいられなかった。
それほどに、この学園の護りは鉄壁なのだ。
学園を覆うように、高い壁によって周りは囲まれているし、学園を守護する結界もある。
わずか数百人ほどの兵で攻め落とすなど、とても無理だ。
それも、人質を犠牲にせずにとなればほとんど不可能といっていい。
「やはり、少人数の部隊に忍びこませて見ては?」
「フリーデンなど、しょせんは寄せ集めのならず者。そんな奴らをいつまでものさばらせていいわけがない。多少の犠牲は覚悟の上で、力づくでも攻めればいい。魔導砲の一発でもぶっぱなせば一気に叩き潰せる」
「いや、もうしばらくは包囲するだけでよかろう。暫く待てば帝都からさらに援軍が見込める。一方、フリーデンに援軍の見込みなどあるまい」
チャールズの部下達の間で、様々な意見が飛び交うがチャールズはどれも決断できずにいた。
(どれも決定打にかける)
内部の情報もろくに分からない今、下手に部隊を学園内に送り込むのは危険すぎる。
無理矢理な力責めなど論外だ。成功したところで、犠牲が大きすぎる。
かといって、現状を維持したところで良い方向に事態が動くとは限らない。いつまでも、帝都から回答がない事に業を煮やしたフリーデンが暴挙に出てしまう可能性も十分にありえるのだ。
「チャールズ隊長」
ここで、会話を遮るようにチャールズの部下が一人入ってきた。
「何だ?」
その部下にチャールズは視線を動かす。
「帝国本国からの回答が届きました」
「内容は?」
「はっ。『帝国は不当な圧力に屈しはしない』との事です」
「そうか」
予想通り、か。
やはり、帝国は要求を飲む事はなかった。
という事は、これからの自分の判断次第でこの学園の生徒達は見殺しにされる事になる。
「そうか……」
畜生め、とチャールズは内心で吐き捨てた。
反帝国組織などに屈するような要求など出して欲しくはないが、人質を見捨てるような決断もしてほしくはなかった。
だがこうなってしまえば、もはやチャールズも決意するほかない。
(やるしかない、か)
暗澹たる気持ちで、チャールズは帝国学園を見つめ続けた。




