34話 救出者と囚人
「とりあえず、いくらか分かった事があるよ」
礼拝堂。
この場所を、アカツキたちは臨時の会議室として使用していた。
地下のフリーデン構成員・ニックから、情報を聞き出したアカツキ達はここで臨時の作戦会議を開く事にしたのだ。
「フリーデンには協力者がいるみたい」
「協力者?」
「うん。どういう人達なのかは幹部クラスの人達しか知らないみたいだけど、フリーデンに活動資金や武器を渡していた人達がいるみたいだよ。 ……そして、その人達もこの作戦に加わっているみたい」
「学園にフリーデンを引き込んだのもその協力者とやらの仕業か?」
フランクの質問にキャロルは頷く。
「その人達の手引きでこの学園を占拠したのは、多分間違いない。人数はどれくらいかわからないけど、少なくともこの学園にいるのはせいぜい数人程度みたいだ」
「数人か……」
その答えに、アカツキは軽く安堵する。
「あと、学園占拠の作戦に加わっているフリーデンメンバーは80人弱。彼らの作戦区分を大まかに言うと、そのうち、20人は生徒達の人質監視。それとは別の20人が、魔導炉の監視と警護。残りのメンバーで実際には僕たちみたいな、捕まえ損ねた学園の人間の捕縛に動いてるみたい」
「例の協力者とやらは?」
「別行動みたいだね。あのニックとやらは、大幹部を自称してたけど、実際には末端クラスの下っ端みたいだしね。それ以上の情報は分からない」
「そうか……」
正体不明の敵の存在。
それだけで、アカツキは不安になる。
フリーデンメンバーは、まだいい。
やっている事は暴挙だが、目的は分かる。
学園の占拠。
そして、帝国政府への要求。
だが、謎の協力者とやらは目的が見えない。
それが、ひたすら不気味に見えた。
「とにかく!」
悪い空気を変えるべく、アカツキは手を大きく叩いた。
「俺達のやることは変わらない。魔導炉の奪還と人質の解放。この二点だ。それに異論はないよね?」
「僕も基本方針は同意するよ。問題ないよ」
「オレも構わない」
フランク達も頷く。
「……さて。そのためには、人質の奪還と、魔導炉の奪還は同時にやる必要がある」
「だろうな。人質を奪い返しても、魔導炉が占拠されたままなら意味はないし、逆に魔導炉を解放しても人質がいればこちらも動けない」
アカツキがキャロルの意見に頷く。
「こちらも、戦力を分割していく必要がある」
「二手に分かれるって事か?」
「そうだよ。両方面から同時にフリーデンを攻撃。それぞれを解放するしかない」
「そうだね」
キャロルも頷いた。
「さっき聞いた話によると、フリーデンのボスは人質のいる食堂に。ボス不在時に組織の指揮をとる最高幹部は魔導炉の方にいるらしいし、この二人を倒してしまえば他の場所に点在している下っ端達はどうにでもなると思うよ」
「だけどよ」
フランクが割り込む。
「どうやってそこまでいく気だ? 制御室にしろ、人質のいる食堂にしろバカ正直に真正面から行ってたところで返り討ちにあうだけだと思うぜ」
「待って」
キャロルが、フランクの話を遮るように口を挟んだ。
「どうしたんだ?」
「魔導炉の制御室なら、いい事を僕知ってるよ」
「いい事?」
「そう。制御室に行くには、この教会の近くに直通している抜け道があるんだ。そこを使えばフリーデンに気づかれずに行く事ができるよ」
「何!? 本当か、それは!」
アカツキは驚く。
もし、それが本当ならば作戦の成功率は一気に跳ね上がるのだ。
「うん。間違いないよ」
「……待て。どうしてそんな事を知っているんだ?」
これまで黙って聞いていた、グリフィスが問いかけた。
その顔には疑問の色が強く浮かんでいる。
「魔導炉の制御室への抜け道なんて、一生徒が知り得る範囲の情報じゃないだろう。どうしてアンタが知ってるんだよ」
「それは……」
キャロルは言い淀む。
「どこでそんな情報を手に入れたんだ?」
「それは……言えないよ」
「何故だ? 何故言えない」
ある意味、グリフィスの疑問は当然と言えた。
魔導炉の制御室に直通する抜け道の存在などというのは、重要な機密情報だ。
何せ、制御室を占拠してしまえば、今回の騒ぎのように学園の乗っ取りさえ可能になるのだ。
一生徒に与えられていい範囲の情報ではない。
「よせ、グリフィス」
だが、そのグリフィスをアカツキは手で制した。
「なぜ止める。情報源がどこか分からないと、信用できない。まさかとは思うが、こいつがフリーデンに通じている可能性だってあるのだぞ」
グリフィスの眼光は鋭い。
キャロルを睨むように、視線が突きつけられている。
「それは失礼なんじゃないか?」
アカツキが口を挟んだ。
今度は、グリフィスの視線がこちらに向けられる。
だが、それにひるむことなく、アカツキはグリフィスを見据えた。
「確かに、キャロルがどこでそんな情報を手に入れたか俺も気になるよ。だが、キャロルに言う気がないなら、それ以上追求する気はない」
「どうしてだ?」
「付き合いは短いが、キャロルは信用できる友人だ。だったら、俺はそれを信じたい」
「……」
グリフィスと、視線がぶつかる。
それに負けじと、アカツキはグリフィスに視線を合わせる。
……暫く経つと、グリフィスの方が視線をそらした。
「……まあ、いいだろう。今のところ他に策がたてようがないのだ。その情報源が信用できる前提で話を進めるしかなかろう」
どうやら、グリフィスも譲歩する事にしたようだ。
「ありがとう」とキャロルが小さく呟くのが聞こえた。
「それじゃあ、話を続けるとするか」
空気を変えるように、アカツキは軽く咳をしてから言った。
「さっき言った作戦を実行するにしても、戦力は足りないな」
「足りないか?」
「足りないね」
キャロルも同意のようだ。
「どう楽観的に見ても、後2、3人実力者が欲しい。多分今の状態でこの作戦を実行しても、失敗するね。まず間違いなく」
「……」
ここでふと、
――あの男子寮塔にいた連中が協力してくれれば。
その考えが再びアカツキの頭をよぎる。
だが、やはり戦う気のない人達は頭数に入れる事もできない。
「……まあ、これしか策がないってわけでもないし。もう一度考えてみるとするか」
軽く顎をかきながら、アカツキは一同を見渡す。
と、そこに――。
「キャロル様」
こつり、と二階から降りてきららしいレオの姿が目に入る。
「レオ? どうしたの?」
「彼女が目を覚ましました」
レオが短く報告する。
”彼女”というのは、先程アカツキ達が救出した女子生徒の事だろう。
「そう。それは良かった。彼女の様子は?」
「落ち着いております」
「話はできそう?」
「はい」
レオは頷く。
「そうか――じゃあ、みんな。こちらの話もきりがいいところまで行ったし、いったん彼女の話を聞いてみるとしよう」
「そうだね」
「分かった」
フランク達も頷く。
そして、二階にある一室へと一同は移動した。
「こちらです」
レオの案内により、先程フリーデン構成員達に襲われていた女子生徒の元へと案内される。
「失礼します」
レオの言葉と共に、ドアが開かれる。
部屋の中には、学園の制服姿の女子生徒が一人。
緊急事態であったため、当然着替えなどは用意はされていない。
だが、女子生徒はその事を気にしている様子はない。
「パティさん、具合はどうだ?」
フランクがそう呼びかけるのを見て、アカツキも女子生徒の名前を思い出した。
(ああ、そういえばそんな名前だったな)
女子生徒――パティは、ベッドの上体のみを起こした状況でこちらを向く。
「はい……ありがとうございます」
こくり、と小さく頭を下げてパティは礼を言った。
「それで、早速で悪いけど。話を聞かせてもらえるかな?」
「話……ですか?」
パティは首をかしげる。
「まずは、だ。あんた、どうしてあんなとこにいたんだ?」
「それは……」
フランクの問いに、パティは淀みながらも答える。
「その、わたし……見たんです」
「見た? 何をだ」
「その……シャノンさんをです」
「シャノン!?」
思わぬ人名にアカツキも驚きの声をあげた。
「シャノンがどうかしたのか?」
「はい。実は、昨日――あ、いや時間的には今日なんですけど」
「どっちでもいい。それでどうしたんだ?」
急かすようにグリフィスが聞く。
「は、はい。その、少し夜の散歩でもしようと外をうろついていたら、その、シャノンさんが怪しげな人達に連れて行かれるのを見まして……」
「怪しげな人達?」
「フリーデンの連中か?」
フランクが訊ねる。
「さあ、そこまでは……」
パティは首をかしげる。
「わたし、それで、その。怖くなって……誰かに伝えなくちゃって思ったんですけど、その、誰に言えばいいのかわからなくて。逃げ回っているうちに……」
「あいつらに見つかったってわけか」
フランクがそう締めくくる。
「だとすると、シャノンは食堂で捕まったわけじゃないのか」
アカツキが腕を組んで言った。
「みたいだね。どうも、それとは別口らしい。ところでパティさん」
「はい?」
今度はキャロルがパティに訊ねる。
「夜の散歩って言っていたけど……それっていつぐらいかな?」
「えっと……午前三時頃かと思いますけど」
「午前、三時……」
その言葉に、キャロルは考え込むように指を顎に当てる。
「それがどうかしたのか?」
フランクがキャロルに聞く。
「いや、それはおかしくないかな?」
「おかしいってどういう事だよ?」
「いい? フリーデンの連中が食堂を占拠したのは朝食時。その時にいなかった生徒達を捕縛するために送り込んだのはその後のはず。実際、僕の部屋にフリーデンメンバーが来たのは9時を少し過ぎたくらいだったしね」
「つまり、シャノンだけ別口で捕縛したってことか」
「そういう事だね」
アカツキの言葉に、キャロルも頷く。
「シャノンだけ別に捕まえなきゃいけない理由があったのか……それとも、シャノンを捕まえたのはフリーデンとは別なのか……」
「この際、どっちでもいいんじゃないかな」
アカツキはキャロルの方に向き直っていった。
「アカツキ?」
「どちらにせよ。シャノンが捕まってるんなら助けるべきだよ。食堂で人質にとられている連中とは別に捕まっているんなら余計に危ないし」
少なくとも、食堂で捕まっている生徒達は「人質」としての価値がある以上、すぐに殺される事はないだろう。
だが、捕まった理由が不明のシャノンは話が別だ。
どのような理由で捕まったのかが分からない以上、殺されてしまう可能性もありえるのだ。
「うん……確かにそうだね」
「それに、ちょうどいいんじゃないのか?」
グリフィスが口を挟んだ。
「俺は親しくないが、シャノン・アヴァロンといえば、学園でも屈指の戦闘力を誇るはずだろう。そのシャノンが加われば、さっきあんた達の話していた策も成功する可能性が上がるんじゃないのか?」
「それも、そうだね」
キャロルも頷く。
「じゃあ、ひとまずはシャノンの救出が優先って事でいいかな?」
「オレもそれでいいぞ」
フランクも納得しているようだ。
「それでパティさん」
「はい?」
「シャノンがどこに連れ去られたか分かるかな?」
「えっと……それは、私の記憶のある限り西南塔のあたりじゃないかと」
学園の中枢は、学園長室のある中央塔を囲むように授業に使うための教室のある中央東塔・中央西塔・中央南塔・中央北塔の4つの塔に囲まれ、それをさらに男子寮・女子寮や教室のある東塔・西塔・南塔・北塔・東北塔・東南塔・西南塔・西北塔と呼ばれる合計12の塔に分かれる。
しかし、そのまま呼ばれる事はあまりなく男子寮塔・女子寮塔などといった通称で呼ばれる事がほとんどだ。
ちなみに、男子寮塔は東塔。女子寮塔は南塔である。
「西南塔っていうと……」
「確か、懲罰塔じゃなかったか?」
フランクの言葉にアカツキも頷く。
「懲罰塔って、確か素行不良の生徒達を改心させるためのあれだっけ?」
「そ、まあオレは一回も言ったことないけどな」
「ああ、そういえばそんなところがあったね」
入学直後のオリエンテーションで、そんな説明を受けた気がする。
「でももしかしたら、昨日みたいな門限破りを何度か繰り返していたら入れられていたかもな」
その言葉にむっ、とフランクは顔をしかめた。
「嫌な事言うなよ。全く」
「はは、そうならないように気をつけないとね。 ……さてとそれじゃ、方針も決まったね」
キャロルは一同を見渡した。
「じゃあ、懲罰塔に行って、シャノン達を救出する。その後に、シャノン達を加えた上でさっきの作戦を実行すれば」
「うん。さっきの作戦も現実味が出てくる」
「問題なかろう」
グリフィスも頷く。
「決まりだな」
フランクがぱちん、と指を鳴らす。
「展望が開けてきたな。これなら何とかなりそうだ」
無論、そう言葉通り簡単にはいかないだろう。
監禁されているシャノン達の救出自体、うまくいく保証はどこにもない。
フランク自身もその事をよく理解しており、その上での発言だろう。
アカツキもあえてそれを指摘するような真似はしなかった。
「それじゃあ、まずはシャノン達の救出目指して動き出すぞ」




