33話 尋問
教会地下。
その一室は、小さな一室だった。
数人ほどの成人男性が中に入れば、すぐに埋まってしまうだろう小さな一室だ。
教会に帰ってきたアカツキとキャロルは、救助した女子生徒をレオに預け、自分達は捕縛したフリーデンの構成員を尋問する事にした。
その事情を聞いたフランクが、ならばいい場所があると案内したのがこの部屋だったのだ。
「地下に、こんな部屋があったとはね」
「おう、さっきここを探索している時に見つけてな」
アカツキの言葉にフランクが応じた。
「地下の倉庫と倉庫の境目に、妙な空白部分があるように感じたんでな。気になって探ってみたらこの部屋を見つけたというわけさ」
「へえ……でも、この部屋は何の部屋なんだい?」
キャロルが訊ねる。
「今は片付けたけど、酒の空き瓶と肉の骨があった」
これまで黙ってグリフィスが口を開いた。
「ディオス教の教義では、飲酒や肉食が禁じられているわけではないだが、あまり褒められた行為でもないからな。おそらく、ここの神父が隠れて酒を飲んだり肉を食らったりするための部屋だったんじゃないのか?」
「なるほど」
キャロルも納得したように頷いた。
「で、だ。そいつ、そろそろ気がついてるんじゃないのか?」
フランクの瞳が、拘束されているフリーデンの構成員の方へと向けられる。
ここに連れてこられた時は、キャロルの水魔法によって拘束されていたが、今は普通の縄で椅子に縛って拘束してあった。
「……みたいだね。そろそろ僕の魔法の効果もきれる頃だし」
キャロルの言葉に答えるようにカッと構成員の目が見開かれた。
すぐに自分の置かれた状況を思い出したらしい。
その瞳には、恐怖の色はない。
ただ、強い憎しみの色だけが浮かんでいた。
アカツキは、魔導銃の銃口をその構成員のこめかみに押し付けた。
「おとなしくしてくれ。間違ってもこちらに、襲い掛かるような真似だけはよしてくれ」
その言葉を聞いた構成員はキッとこちらを睨みつけるが、即座に暴れだす事だけは避けてくれたようだ。
だが、相変わらず怒りのこもった眼差しのままだ。
「こんなガキ共に捕らえられるとはッ――」
吐き捨てるような口調だ。
はるか年下の少年達に身柄を拘束された事に屈辱を感じているらしい。
唇を強く噛み締めている。
「えっと、あんたの名前は?」
フランクが訊ねた。
「ニックだ。フリーデンのメンバーである」
フリーデン構成員――ニックはいとも簡単に答えた。
名前くらい隠す気はないのか、それとも名前くらいばらしたところで問題はないと考えているのか。
「それで、ニックさん。いくらか聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はんッ! 無駄な事だ。俺はどんな目に遭わされても組織を裏切るような真似はしない。例え殺されてもだ」
フランクの言葉に、ニックは侮蔑するような表情を浮かべる。
それは、組織への忠誠心からの発言なのか、それとも自分たちのような学生に大した事はできやしないという侮りから来る発言なのか――アカツキは後者だと考えた。
「ほう、いい度胸だな」
ぬっ、と横からグリフィスが出てくる。
「な、何だ貴様は……」
驚くニックの顔に、グリフィスはいきなり拳を叩き込んだ。
「なぁッ!」
アカツキたちが驚くよりも先に、グリフィスは今度はニックの腹を蹴りつける。ごぼっと奇妙なうめき声がもれるが、グリフィスはそれを気にする様子もなく今度は拳を連打し始める。
ニックの口から、あまり見たくないようなものが吐き出される。どこか切ったのか、赤いものも混じっている。
「ま、待て!」
慌ててアカツキがグリフィスを止めた。
「なんだ? 何故止める」
「何故も何もないだろう。いきなり何をはじめるんだ!」
「しかし、この手にやからにはこうした聞き方が一番いい」
悪びれる様子もなく、グリフィスは言った。
「だけどいくらなんでも単純すぎる。他に聞き方というものがあるだろう」
「ないな。この手の輩から情報を聞き出すのには暴力と昔から決まっているんだ」
「いや、そんな事は――」
「ま、まあまあ。アカツキも落ち着いて」
アカツキを抑えるように、キャロルが止めた。
「グリフィスも。別に、こんなやりかたしないでも、方法はあるよ。――水よ」
キャロルの言葉と共に、小さな水の塊がニックにとりつく。
それに、ニックはびくりと体を震わすが、それがただの水だと知ると困惑した表情へとかわる。
「な、何だこれは……」
グリフィスに殴られた衝撃が消えていないのか、先程までとは違い、どこか怯えた表情だ。
「ニックさん。貴方はフリーデンのメンバーで間違いありませんね?」
「な、何をいきなり聞くんだ! そんな事は当たり前だろう。既に知った上で貴様らは俺をとらえたのではないのか!?」
キャロルの言葉に、ニックは激昂した。
そのニックを冷静に眺め柄、キャロルは会話を続ける。
「話を続けます。あなたは、フリーデンの中でも高い地位にいますか?」
「あ、当たり前だ! この俺はフリーデンの幹部の一人でハルトマン様からの信頼も厚い男だ!」
ニックが答える。
それと同時にぽちょん、とニックに張り付いた水に波紋が起こる。
「……そうか。あれは読心魔法とか」
アカツキが呟くように言った。
「あの考えている事を読み取る魔法か?」
ニックには聞こえないような小声で、フランクが訊ねた。
「そうみたいだな。まあ、あれは言っている事が嘘か本当かが分かるだけみたいだけど、それだけでも十分だろう」
そういえば、最初にキャロルの部屋に殴り込んできたフリーデンのメンバーからも情報を引き出していたようだが、その時もおそらくこの魔法を使ったのだろう。
「さすがはキャロル。あんな魔法も使えたのか」
フランクが感心したように頷く。
その横で、やれやれと言った様子でグリフィスが首をすくめた。
「全く、あんな便利な魔法があるのならばとっとと出せば良かったものを」
「あんたな……」
グリフィスの言葉にフランクは呆れたような声を出す。
(この人、こんな性格だったのか……)
思えば、このグリフィスという留学生について自分はあまり知らなかった。
スクールバトルロイヤルで一度戦ったとはいえ、日常生活であまり接点はない。その事を思い出し、少し反省する。
実際に付き合ってみないと、どんな人かなんて分からないという事か。
(味方について、もう少し知っておくべきだったか)
フランクやキャロルはともかく、グリフィスのようなあまり接点のない相手に対してもある程度正確を把握しておく必要があった。
それを怠ったのは落ち度だ。
だが、早い段階でそれに気づけたのはせめてもの救いだったかもしれない。
アカツキは、ニックから情報を聞き出しているキャロルを横目に眺めながらそう考える事にした。




