32話 拘束
「くそッ! 学園の占拠には成功したって聞いたのに……」
「落ち着け! 相手はガキが数人。落ち着いて対処すればどうにでもなる」
フリーデンの構成員が、苛立った様子で学園内を走り回っていた。
「いっそ放置しても良いのではないか? たかが数人人質が足りなくても問題ないだろう」
「俺もそう思う。だが、ガキとはいえ帝国学園の生徒だ。何かやらかすかもしれん」
「何かって何だ?」
「例えば、俺達を倒して人質を解放するとかだな」
「馬鹿言え、たかが数人のガキに何ができるというんだ」
「だが、男子寮に向かった連中は返り討ちにあったというじゃないか」
そんな会話をかわしていたが、あるものが目に入った。
「おい、何だあれは?」
フリーデン構成員の一人が、一人の女子生徒を発見したのだ。
この学園の制服を来ている。
制服に着いているリボンの色から判断するに、どうやら1年生のようだ。
「おい」
年長の構成員の言葉に、フリーデンメンバーは黙って頷く。
そして、一瞬にして女子生徒を取り囲んだ。
「待て、貴様は帝国学園の生徒だな?」
途端に、その女子生徒の顔が恐怖に歪む。
わずかながら、フリーデンメンバー優越感に浸る。
一瞬とはいえ、世界最強の国家として君臨するケネス帝国の名門校の生徒達相手に自分達は優位な立場にいるのだ。
「は、はい……」
女子生徒も黙って頷くほかない。
その女子生徒の、小動物のような様子に、フリーデンメンバー達はさらなる優越感に浸るのだった。
「我らは、フリーデン。現在この学園を占拠している者だ。この学園の生徒達は食堂に集められているはずだが、貴様は何故ここにいる」
「あ、あの……私、その……」
「何だッ! わかりやすく話せッ!」
女子生徒に叱声がとんだ。
「ひっ……」
女子生徒は怯えたように震える。
「良いか! 何度も聞かんぞ。貴様は何故ここにいる」
「そ、その、私……」
フリーデン構成員の威圧するような顔を前にして、女子生徒が言葉が出てこない。
何か言葉を出そうとしているのだが、ろくにまとまらず口元に出る頃にはその言葉は解体され、わけの分からない単語を連発するだけだった。
「こいつ、俺達をなめきっているぞ」
「ふざけたガキだな」
そうは言っているが、フリーデンメンバーも女子生徒が自分達を馬鹿にしているわけではない事を理解していた。
単に恐怖から言葉がうまく出てこないのだろうとも分かっていた。
だが、それを分かったうえで、少女を弄んでいた。
「おいおい、そうひどい事を言うな。子供に教育を施すのは大人の役目だろう」
「そうだな。性教育の課外授業をしてやるとしようか」
そう言って、フリーデンの構成員はニヤニヤと下劣な笑みを浮かべる。
祖国解放を訴える反帝国組織フリーデンだが、全てが祖国解放にのみ全てを捧げる清廉潔白な人間ばかりではない。
中には、このメンバーのように単に暴れたいだけの人間、他にいく当てもないのでやむをえず活動に参加している犯罪者崩れの人間さえいたのだ。
この女子生徒にとっては運の悪い事に、そう言った最悪な部類に属するメンバーと遭遇してしまったのだ。
「ほら、しっかりと抑えておけ」
「おお」
一人の構成員の言葉に応じるように、体格のいい構成員が女子生徒の体を背後から羽交い絞めにした。
「きゃっ……」
女子生徒の悲鳴があがる。
「さて、話してくれない以上は仕方ない」
「おお、体をほぐしてやるとしよう。そうすれば、自然と口が軽くなって話す気になるかもしれないからな」
ぐひひ、とフリーデンの構成員達は下卑た笑い声をあげた。
彼らに、罪悪感はまるでない。
彼らの主観ではまだあどけない少女とはいえ、自分達を支配している悪の帝国の住民だという思いが強い。
それだけで、罪悪感などはいとも簡単に塗りつぶされていた。
それどころか、帝国臣民である目の前の少女を辱めるのは正義の鉄槌だと考える者さえいた。
フリーデン構成員の手が、女子生徒の制服へと伸びる。
それを引き剥がそうと力を込めた――直後。
――パァン。
乾いた銃声が響きわたる。
「がッ――ぎゃあぁっっっっ!!!」
足元の激痛を感じたフリーデン構成員がのたうちまわった。
「おい、どうした!」
「何事だッ!」
「魔導銃か!?」
フリーデンメンバーに動揺が走る。
一体何が起きたのか混乱するが、その原因はすぐに見つかった。
魔導銃を構えたこの学園の男子生徒。
その銃口は、フリーデンメンバーの方へと向けられていた。
「お前か――」
足を魔導銃で撃たれた構成員が憎しみのこもった眼差しで男子生徒を睨みつけた。
「やれやれ、随分と乱暴な人達なんだな」
アカツキは、目の前から殺意を向けてくるフリーデンのメンバーを冷静に眺める。
続いてちらり、と女子生徒の方へと瞳を動かす。
確か、同じ学園の生徒だった事は覚えているのだが、名前までは思い出せない。
どうやら、服の一部を破かれただけで無事のようだ。
「お前が逃げ出したちう男子生徒の一人か?」
フリーデンの構成員の一人、比較的冷静そうな構成員が訊ねる。
「そうだ。留学生だがな」
アカツキが答えた。
「留学生――はっ、それでは我らの苦悩も分からんだろうなッ!」
血の気の盛んな別の構成員が怒鳴るように言った。
「苦悩?」
「そうだ。俺達の祖国はケネス帝国によって支配され、今も搾取され続けている」
演説めいた口調で構成員は手を振った。
「そして、これは祖国をケネス帝国の支配から解放するための戦いなのだ。お前が、無関係な外国人だというのならば引っ込んでいろッ! おとなしくしていれば最後まで危害は加えない」
「その祖国解放と、そこにいる子を襲う事とは何の関係があるんだ?」
「ふん。この小娘はケネス人。それだけで、我らゲルマン人に贖罪の義務がある。その贖罪の機会を設けてやろうというのだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ」
フリーデンメンバーはあまりに勝手な事を言う。
その身勝手な理屈に、アカツキは眉を潜める。
何か言いかけるよりも先に、フリーデンメンバーが動きかける。
「動くなッ! 下手に動くとこの魔導銃でお前達を撃つ」
魔導銃の銃口をフリーデンのメンバーに向けたまま言った。
「撃つなら撃て! その魔導銃で一人は撃てるだろう。だが、その間に他のメンバー全員でお前を嬲り殺してやるッ!」
構成員の一人が怒鳴り返した。
他の構成員達も、頭に血が昇った様子で武器をとりだしている。
「そうか。確かにその通りだな」
「そうか、分かったか。分かったならさっさと――」
くらり、と構成員の一人の体が揺らぐ。
「お、おい。どうし――た、んだ?」
その構成員に話しかけようとした別の構成員の体も揺らぐ。
がくり、と膝から構成員達が崩れ落ちた。
「な、何だこれは眠――」
最後まで意識のあった構成員が言いかけたが、何かを口にするよりも先にその構成員の瞼が閉じられた。
「――風の眠り。風に魔力を込めて強制的に眠らせる魔法」
構成員達の背後から、小さな影が現れた。
「うまくいったな、キャロル」
「僕のこの魔法は範囲指定が難しいからね。うまく狙いを調整している間に、気づかれたらどうしようもなかったよ。でも、アカツキがうまくこいつらを引きつけてくれたお陰で何とかなったよ」
キャロルも笑顔で応じた。
「やっぱりキャロルは俺よりも多くの魔法が使えるし、凄いんだな」
「そんなことないよ。で、その子は大丈夫?」
そう言って、フリーデンに襲われていた女子生徒を見る。
近づいて見る。
先程の見立て通り、外傷はない。
少なくとも肉体的には。
「とりあえず、その娘は僕達の教会に連れて帰ろう。そこで手当をすればいいさ」
「分かった」
「それと、この人達のうち一人は情報を引き出すために連れて帰りたい。拘束していくよ」
「ああ、了解だ」
「それじゃあ、と。水よ、束縛せよ」
水でできた縄が出来上がり、フリーデンの構成員の一人をたちまちのうちに拘束した。
「じゃあ、僕はこの人を連れて変えるとして――君はその子をおぶってあげて」
「分かった」
アカツキは、キャロルの言葉に従い、女子生徒を抱える。
「それじゃあ帰ろうか」
キャロルの言葉に従い、アカツキ達は教会へと帰還していった。




