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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第二部 学園編2
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31話 学園奪還作戦

「まさか、こんな場所に教会があったとはね……」


 アカツキは、その礼拝堂で嘆息気味にいった。


 アカツキの言葉通り、彼らが今いる場所は西方大陸のほとんどの民が信仰するディオス教の教会だ。

 今では使われていないらしく、あちらこちらに汚れが見えるが、かつては神への祈りを捧げる場らしく、どこか厳かな雰囲気が漂う。


「今は使われてないみたいだけどね」


 キャロルが答える。

 この場所への移動を提案したのは彼だ。

 まず、いつまでも男子寮に留まる愚を説き、活動の本拠を移動するように言ったのだ。


「前にたまたま見つけてね。静かで人がほとんど来ない場所だから、隠れて一人静かに読書したりするのに都合が良かったんだ」


 そう言ってキャロルはあはは、と笑う。

 実際、アカツキ達が誰も知らなかったように、この教会は実に地味な場所にあった。元は、学生のディオス教教徒が気軽に祈りを捧げる事ができるために、男子寮と女子寮の近くにある森に建てたものらしい。


 現在は、別の場所に移転しているらしいが、取り壊されてはいないようであり、建物

として最低限の機能は残っている。

 それに、周りは掘で囲まれており、入口からしか入る事ができないようになっていた。だが、出る場合には外からでは分からない裏口から出る事ができる。

 さらに、周辺から来る人間は二階から監視する事ができ、いざという時には逃走も簡単だろう。

 ちなみに、今はグリフィスがその二階におり、誰か近づいて来る者がいないか監視していた。


「いや、実にいい場所だと思うよ。さすがはキャロルだ」


 アカツキは、この地を活動の拠点に選んだキャロルの判断を褒めた。

 ありがとう、とキャロルは顔を綻ばせたがすぐに真面目なものに変えた。


「でも、問題はこれからだよ」


 こくり、とアカツキも頷く。


「アカツキ、キャロル」


 後ろからの声に振り向く。


「フランク、何かいいものあった?」


「駄目だ。武器になりそうなものはない」


 この教会内で何か使えるものはないかと探索していたフランクが戻ってきたのだ。

 どうやら収穫はなかったらしい。


「まあ、仕方ないか」


 アカツキもあまり期待していなかったため、落胆はしていなかった。

 むしろ当然か、という思いの方が強い。


「まあ、武器ならこれがあるしいいか」


 アカツキの手にあるのは魔導銃だ。

 あのスクールバトルロイヤルで使用し、破壊されたものだ。

 現在では修理が完了し、再びアカツキの手にある。


 とはいえ、弾薬の補充が難しい今の状況では使いどころに苦労するかもしれないが。


「キャロル様」


 今度はレオだ。

 彼女は、地下にある食料庫を見にいったらしい。


「地下に備蓄してある食料の確認、完了しました」


「ご苦労。それで、どれくらい持ちそうだい?」


「キャロル様、アカツキ様、フランク様、グリフィス様。それに私の5人で1日三食とすれば、四日は持ちます。食べつなぐために節約すれば6日は可能かと」


「ありがとう。それだけあれば十分だね」


 キャロルが笑みを浮かべた。


「食料って……何でそんなものがあるんだ?」


 既に放棄された教会である。

 そこに食料がある事を、フランクは怪訝に思ったらしく、疑問を口にした。


「あ、いや、その……」


 ここで言いづらそうにキャロルが口をつぐんだ。


「どうかしたのか?」


「あ、いや、その……。ここで読書するための、間食用に僕が持ち込んでいたんだ」


 はは、とキャロルが苦笑する。


「先生達に見つかったら怒られちゃうから、内緒に頼むよ」


 キャロルの言葉に、アカツキは思わず笑った。


「はは、こんな状況なのに先生に怒られる心配かよ」


 フランクもつられてくすくすと笑っている。


「何だよ、こんな時だからこそ言っておく必要があるんじゃないか。事件が片付いてからだと忘れちゃうかもしれないからね」


 むっ、とキャロルも頬をふくらませた。

 その言葉にアカツキもくすりとする。


 キャロルは既に事件を解決する前提で話している。

 思ったよりもこの少年は大物なのかもしれない。


 いずれにせよ、キャロルの言葉で場の雰囲気が和んだ。

 学園が占拠されているという状況にも関わらず、アカツキ達は落ち着きを取り戻せている。


 いい傾向だ、とアカツキは思う。

 下手に焦っていると、ろくに考えがまとまらない。

 結果、どうしようもない愚策を名案と思い込み、とんでもない暴走をしてしまうからだ。


 意図しての事かは分からないが、アカツキはキャロルに感謝した。


「……さて」


 こほん、と咳払いしてキャロルは話題を変える。


「これから、学園を解放するための作戦を考えていこう」


「キャロル様」


 ここで、レオがキャロルに話しかけた。


「何? レオ」


「皆で話し合うのでは、グリフィス様をお連れした方がよろしいのでは? 見張りは私が代わりますので」


「そう? それもそうだね」


 レオの提案に、キャロルも従う。

 アカツキも特に反対する様子はない。


「それじゃあ、話し合いの結果は後でレオにも話すから、今はグリフィスと見張りの交替を頼むよ」


 キャロルの言葉に従い、レオは二階へと向かう。

 しばらくして、グリフィスが代わりに姿を現した。


「それじゃあ、これからの方針を決めていこうか」


 キャロルの言葉に、皆は頷く。


「まずは、情報収集。この五人のうち一人は見張り。二人は休息。残りの二人は情報収集のために、外を探索。暫くはこのローテーションで回していこう」


「情報収集というが、具体的にどうすればいい?」


 グリフィスが訊ねた。


「そうだね。まず欲しいのは、現在の捕縛されている生徒達の詳細情報。魔導炉の制御室の見張りの人数が知りたいかな」


 それと、とキャロルは言葉を続ける。


「外の様子もできれば知りたいかな。帝国軍――あるいは、帝国警察がどういった対応をしているのかも気になるしね」


「分かった」


 アカツキは頷く。


「方針に異存はない」


 グリフィスもだ。


「その方向で行くとするか」


 フランクも頷く。


 一通り見渡し、キャロルはふう、と小さく息を吐いた。


「それじゃあ、一息入れるために食事にしよう」


 そして、先程の話に出てきたキャロルがこの教会に備蓄しておいたという食料が配られた。

 読書中につまめるもので、なおかつ保存が聞くものという事だけあって、質素な感じのする携帯食料だった。

 どうやら、キャッシュマン商会の魔導携帯食料らしい。


 朝食をまだとっていなかったせいか、それがやたらと美味に感じられた。

 備え付けの食器から、水を注ぐ。


「本当なら、紅茶かコーヒーでも用意したかったんだけど、あまり時間をかけていられないからね」


「いや、構わないよ」


 何せ、贅沢は言ってられないのだ。

 それに、緊張のしっぱなしで水分もとってこなかったせいか、何の味もない単なる水でも携帯粗食料同様にやたらと美味しく感じる。


「ところで」


 水を半分ほど飲んでから、アカツキは訊ねた。


「レオさんには持っていかなくていいのか?」


 二階で見張りをしているであろうレオの事が気になり、アカツキは訊ねた。

 すると、キャロルはちょっと複雑そうな顔になり、


「レオは誰かと一緒に食事をするのを嫌がるからね。後で僕が持っていくよ」


 そう言って苦笑した。

 そうか、とアカツキは頷いた後、


「ところで、最初はどういう組み合わせで外に出るんだ?」


「そうだね……」


 しばらく考えこんだ後、キャロルは答える。


「レオは僕たちの中で最大戦力だけど、それだけに見張りとして残したい気もするからね。休憩中のところを襲われてしまわれたら最悪だしね」


 そう言ってキャロルは続ける。


「じゃあ、僕が最初は行くよ。これからの方針を決めたのは僕だしね。発案者がいかな

きゃね」


「なら、俺もついていくよ」


 アカツキも立ち上がる。


「いいの?」


「ああ、どの道、誰かが行く必要があるんだろ?」


「じゃあ、オレはグリフィスとか」


「そうなるな」


 フランクの言葉にグリフィスは頷く。


「じゃ、よろしく頼むよ」


「うむ」


 グリフィスも頷く。


「さて……」


 アカツキは水を全て飲み込んで容器を置いた。

 携帯食料の方は既に食べ終わっている。


「そろそろ行くとしようか」

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