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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第二部 学園編2
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27話 学園占拠

 帝国学園。

 中央塔の一階にある一室。


 ここは、この学園のあらゆる魔導具を維持するための魔導制御室がある。

 学園を守護するように張ってある結界や、各階を移動する昇降機(エレベーター)などは、この一室からの魔力供給によって成り立っているのだ。


 いわば、学園の心臓と言ってもいい場所だ。


「やれやれ、そろそろ今日の仕事も終わりか。引き継ぎが終わったら、酒でも飲んでから眠るか」


 この一室の警備責任者であるその警備員は、やっと一息つけるとばかり手を大きくのばす。

 夜勤の仕事が終わり、学園内部にある警備員用の宿舎に戻り、明朝の睡眠をとる。

 何という事はないいつもの日常を繰り返しだ。

 そして、それが今日も続くと信じて疑わない。


「そうですね。今日は、学園のお偉方もほとんどいませんし。のんびりと羽根を伸ばしましょう」


 部下の警備員も返す。


「そういえば、今日は学園長様の出張日だったか……。まあ、下っ端の俺には関係ないか……」


 そこまで言った時、不意に魔導制御室の扉が開かれた。


「動くなッ!」


 魔導銃を構えた男が脅すように叫んだ。

 続いて、数人の男達が部屋に乱入してくる。


「な、何だお前達は――」


 警備員は、怯えた様子で声を震わせる。


「我々は、フリーデン。ケネス帝国からの自由と解放を訴えるゲルマン王国の戦士である」


「フリーデン――」


 その名は、警備員も知っていた。

 ケネス帝国属領の1つ・ランスロット分国に存在するレジスタンスグループ。組織の規模こそ中堅程度だが、構成員は一騎当千の強者ばかりと評判だ。


 だが、その事を知っていても、いや知っているからこそひるんだ様子を見せるわけにはいかない。


「そのフリーデンが何のつもりだ」


「まずは学園長を呼んでもらおう」


「フェアフィールド学園長は出張中だ」


「知っている。定例会議で帝都にいるのだろう。ゆえに、我々が呼んでもらいたいのは学園長代行のホーキングだよ」


「ッ……」


 そう言って、魔導銃をつきつける。

 フリーデンのリーダー格の男が続ける。


「この魔導炉。制御が難しい装置らしいな」


「それがどうした……」


「ここで下手に魔力を注ぎ込めばこの学園。少なくとも中央塔の一帯は大爆発――という事態にもなりかねんと思うが」


「なッ――」


 警備員はその言葉に急に青ざめる。


「ば、馬鹿な。そんな事をすれば……お前たちも終わりだぞ」


「侮るなッ!」


 フリーデンのメンバーの一人が一喝した。


「祖国の解放のために、我らは命を捧げると決めたのだ。いまさら死など恐れはしないッ!」


 その勢いに気圧されたかのように、警備員がよろける。


「わ、分かった……ホーキング学園長代行を呼んでくる」


「待て。直接行くな。そこの非常事態用の連絡装置があるだろう。それで呼べ」


 確かにそのフリーデンのメンバーが言うように非常事態に備え、魔力を通して学園長室に直接、伝えるための連絡装置が置いてある。

 最も、非常事態といっても魔導炉の暴走といった事態の事だが。


 なぜそんな事まで知っているのか警備員は疑問に思うもおとなしく指示に従った。


 しばらく経つと、学園長代行のホーキングが駆けつけてきた。


 そこに、フリーデンのメンバーが魔導銃をつきつけた。


「動くな」


 驚愕、焦慮、動揺。

 様々な感情が一気に、ホーキングを襲ったようだ。

 ホーキングの顔色が、たちまちのうちに変わる。


「我々はフリーデン。ゲルマン王国の再興を目指す戦士である」


 そして、警備員にしたのと同じ説明をフリーデンのメンバーは行う。


「というわけだ。最悪の場合、ここの魔導炉を爆破する用意が我々にはある。そうされたくなければおとなしく要求に従っていただきたい」


「な、なんという事だ……」


 青ざめた様子でホーキングは唇を震わせた。

 だが、このホーキングは官僚肌の男であり、高い事務処理能力によって今の地位を築いており、荒事には弱くこのような事態の対処能力は低い。


「我々の要求が通れば無茶はしない」


「それが既に無茶だというのだ――」


 ホーキングはさらに顔を青ざめる。

 フリーデンが、帝国に何を要求するのか。

 そんな事をホーキングは知らない。


 だが、おそらくは帝国に逮捕されている組織幹部の釈放、あるいは生徒たちの身代金の要求。

 おそらくはそんな事だろう。

 

 しかし、要求の内容がたとえ1スレイプの要求だろうと、あるいは懲役刑1日の減刑であろうとも、関係はない。

 問題は、暴力という手段を持って抵抗しようとするような集団に帝国は容赦しないということだ。


「助けを求めるような愚かな真似はしないでいただきたい」


 無意識のうちに、逃げようとドアに近づいていたようだ。

 フリーデンメンバーの言葉に、ホーキングの体が硬直する。


「その場合、我々はこの魔導炉を爆破させます」


「ッ――」


「それが嫌ならば、おとなしく我々の指示に従っていただきたい」


「――」


 沈黙。

 脳味噌が凍ってしまったかのように思考が働かない。

 ホーキングの中では永遠とも思える時間が流れる。


 チクタク、と部屋の時計の針が進む音だけが響きわたる。


「そこらを歩いている生徒に、魔導銃の一発でもぶっぱなせば決心がつくのでは?」


 その沈黙に耐え切れなくなったのか、若いフリーデンのメンバーが乱暴な事を言い出した。


「ま、待て!」


 ホーキングが慌てて止める。


「生徒たちに手を出すような真似は……やめてくれ」


 こうなった以上、ホーキングは屈するほかなかった。

 その言葉に、フリーデンのリーダー格の男はにっこりと微笑んだ。


「その決意に、感謝します」






 薄暗い室内。

 そして、その一室。

 基本的に、何かしらの非行を働いた生徒を罰として送り込む懲罰室として使われる部屋だ。


 そこには、両手両足を鎖で拘束された茶髪の少女が一人座り込んでいた。

 だが、彼女は罰則でこの部屋に閉じ込められているのではない。


「はあ……随分と乱暴な人達ですね」


 シャノン・アヴァロン。 

 実技成績一位、学科試験も三位の女子生徒だ。


 彼女は、彼女の部屋を襲撃した一団によってこの部屋に閉じ込められていた。両手両足は塞がれているものの、その瞳に絶望の色に染まっていない。


 彼女の魔人であるシュタールは別室だ。

 瞬く間にシャノンを人質にとられたため、シュタールも抵抗できずにそのまま拘束されてしまっている。


「やれやれ、女であることをあまり意識したことはありませんが……それでもこの扱いはさすがに腹が立ちますね」


 呆れたように、現在の己の体を見る。

 学園の制服は無残に破られ、ほとんど裸同然の状態だ。


「それにしても、あの連中。私の持ち物を必死に探していましたね」


 シャノンは、侵入者達の行動を思い出し、思考を巡らす。

 この部屋に叩き込まれ、服を破かれはしたものの暴行はされなかった。服を破いたのも何か隠していないかを探しているからのように思えた。


(それに、帝国学園にいとも容易く忍び込んだ手際の良さ。ただの反帝国組織に過ぎないフリーデンができることではありませんね)


 両手を拘束された手錠を見る。 

 それは、ただの手錠ではなく特殊な魔法道具(マジックアイテム)の一種であり、体内から魔力の放出を防ぐ道具だ。


(これも、ただの反帝国組織が用意するには高価すぎる代物です)


 すると、彼らの目的は何なのだろうか。


「やはり、アレ(・・)関係なのでしょうか」


 シャノンには心当たりがあった。


「もしそうならば、どの陣営かは知りませんがフライングもいいところではありませんか」


 もし想像が正しければシャノンの持ち物を必死に探したというのも納得が行く。


 フリーデンはただの駒。

 それを操った黒幕。


 それはシャノンの想像が正しければ――。


「いいでしょう。このような卑劣な手段をとったことを後悔させてやりましょう」


 ぎり、と強く歯を噛み締めて怒りの色を瞳に浮かべた。







「リーダー」


「何だ?」


 学園長室。

 中央塔を占拠したフリーデンは、臨時の司令室として使っているこの部屋で、首領のハルトマンが、ヴォルフに話しかけられていた。


「あの連中……勝手に行動をしているようなのですが、よろしいのですか?」


「ああ、奴らのことか」


 いくらか不快そうな色を瞳に浮かべたものの、ハルトマンは興味なさげに言った。


「奴らなら放っておけ。奴らは協力者であって私の部下ではない。私の指示など聞かんさ」


「ですが……」


 ヴォルフが不満そうに続ける。


「どうも、勝手に女子生徒の一人を拘束したようなのですが……」


「その件か」


「ご存知だったのですか?」


「うむ。計画協力の条件に、一部の生徒を自分達で拘束する事を条件にしてきよった。おそらくその女子生徒とやらがそうなのだろう」


「そうですか……」


「生徒達がそれに感づいた様子は?」


「今のところないようです。その女子生徒を拘束する時も一人でいる時を狙ったようですし」


「そうか、ならば問題はあるまい。どの道、明日――いや、既に日付が変わっているから今日か――には生徒達全員が人質になるのだ」


「……そうですね」


 そう答えたものの、ヴォルフは納得した様子はない。


「リーダー」


「何だ?」


「あのような奴ら、信用してよろしかったのですか?」


「信用などしておらんさ」


 ハルトマンは吐き捨てるように答える。


「全く持って奴らは信用できん。だが、奴らの協力がなければこの学園の占拠など到底不可能――いや、ケネス本国に100人を超える構成員を送りこむ事すら不可能だった。違うか?」


「それは、そうですが……」


 ヴォルフは言いよどむ。

 確かに、あの『協力者』がいなければ今回の学園襲撃などは到底不可能だっただろう。

 それは紛れもない事実である。


 その事に関してはヴォルフも認めなければならない。

 だが、やはり不快なものは不快だ。


「朝食の席で他の生徒達をいっせいに人質にとる。お前もそれに備えて休んでおけ」

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