24話 反帝国組織
「どうやら、彼はランスロット分国の反帝国組織の人間だったみたいだな」
アイリスシティにある、帝国警察署。
警察署の刑事から事情聴取を終えたフランクが、アカツキとエミリーに言った。ケネス人である彼の方が留学生である二人よりも話しやすいだろうということで、代表する形で事情聴取を受けていたのだ。
「ランスロット分国っていうと……」
「ああ、西方大陸にある帝国の属国だな」
フランクが答える。
知識の中からその名を引っ張り出す。
「確か、元はゲルマン王国って国だったよね」
そうだ、と頷いてからフランクが続ける。
「相当に治安の悪い国だって事は聞いてたけどな。まさか、本国にまで反帝国組織の人間がまぎれこんでいるとはな」
ここで、エミリーが疑問符を浮かべる。
「あれ? でもランスロット分国は三等分国じゃなかった?」
三等分国、というのはケネス帝国の分国の格付けだ。
治安の良い国を、一等分国。それなりの国を二等分国。そして、治安が安定しない国を三等分国と区分する。
一等分国にもなれば、本国人との差こそあるもの、本国とはさほど変わらない生活環境が与えられるが、三等分国ともなれば生活に大きな制限がつくことになる。
「そうだ。確か、国外に出る事すら禁止されているはずだ。つまり、あの犯人は」
「密入国者、て事?」
「そういう事だろうな」
フランクが頷く。
「それに加え、実力者であるブルガリア公爵の殺害未遂までやっちまった以上、重罪になるのは間違いないな」
「そうか……」
この国では、皇帝はもちろん上級貴族に対しての犯罪行為は平民や下級貴族に対する罰則とは比べ物にならないほどだ。
未遂に終わったとはいえ、有力貴族であるブルガリア公爵を殺害しようとしたのだ。
もしかすれば、死刑という事もあるのかもしれない。
そうなれば、
(間接的とはいえ、人を殺してしまう事になるのか――)
アカツキも、戦場にいた事がある。
だからといって、他者の命をまるで気にしないほど図太くなかった。
「閣下を救ってくださった帝国学園の方ですね」
ふと、気がつくと一人の騎士甲冑に身を包んだ男が立っていた。
……見覚えがある。
確か、あのブルガリア公爵の傍にいた騎士の一人だ。
「そうですが……」
この国の出身者であるフランクが答えて方がいいのであろうと判断したらしい、代表する形で答える。
「申し遅れました。私、ブルガリア公爵にお使えする親衛騎士隊隊長のバーンズと申します」
騎士――バーンズが優雅に一礼してみせる。
「それはどうもご丁寧に……」
フランクが礼を返す。
それに習う形で、アカツキとエミリーも一礼してみせた。
「閣下は今回命をお救大変ご喜びです。是非ともお礼を差し上げたいと考えているとの事です」
「お礼……ですか」
その言葉に一同は息を飲む。
別に、謝礼が目当てでブルガリア公爵の命を助けたわけではない。ただ、目の前で人を殺そうとしている人がいたから止めた。
ただそれだけの事なのだ。
フランクがアカツキ、そしてエミリーへと視線を動かしてから再び口を開いた。
「えっと。バーンズ隊長、でしたよね?」
「はい。その通りです」
「好意を無にするようで申し訳ありませんが、自分達は謝礼目当てで助けたわけではありません」
その言葉に、バーンズは眉をひそめ、
「しかし、そうはいわれましても……。閣下のお命を救ってくださった以上、何らかの謝礼を受け取ってくださらねば体面にも関わりますし……」
「そう言われても……」
でしたら、とバーンズが言う。
「金銭や宝玉の類でなくてもよいのですよ。閣下の権限内の事でしたら、大抵の便宜を図る事ができますよ」
バーンズの言葉に、フランクはアカツキへと近づき、小声で尋ねる。
「……どうする?」
「どうするって言われてもな……」
確かに、何でもいいから言わないと相手も引き下がりそうにない。
何か要求した方がいいだろうか。
「だったら……」
ごにょごにょと、アカツキはフランクに耳打ちする。
それを聞き、フランクは頷いた。
「分かった」
そして、再びバーンズと向き直る。
「決まりましたか?」
「はい」
「それは結構。それで何をご希望ですか?」
「でしたら。アルトゥス博物館への入館許可をいただけますか?」
アルトゥス博物館。
ケネス帝国初代皇帝アルトゥスの名のつく博物館だ。
帝国の歴史、学術資料、美術品の類が大量に保管されている。
だが、貴重な資料が多いため、有力者の推薦がない限り入館すらできない。
「アルトゥス博物館、ですか」
バーンズは頷くと、それでは許可をとってきますと下がっていった。
そして、すぐに戻ってきた。
「公爵閣下は喜んで入館許可を出すそうです。こちらがその推薦状になります」
数枚の紙が3人の前に差し出された。
そこには、『アルトゥス博物館の入館を認めるに足る人格の持ち主である』といった内容の事が書かれてあった。
「ありがとうございます」
フランクが受け取る。
それでは、とバーンズが引き下がった。
警察署から出ると、既に夕暮れになっていた。
「どうする? せっかく推薦状貰ったんだし、今日中にでも博物館によってから帰る?」
「時間的には微妙だな。門限に間に合わないかもしれない」
「いーんじゃない? 最悪門限破っちゃっても仕方ないし」
「いや、よくはないだろ……」
エミリーの言葉にアカツキも苦笑する。
だが、早々に切り上げれば門限にも間にあうだろう。
そう考え、結論は出た。
博物館は、幸いな事にアイリスシティにある。
さほど時間がかからずに到着した。
ブルガリア公爵からの推薦状を見せると、いとも簡単に入館できた。
「思ったより簡単に入れたな」
「そうだね」
アカツキ達は雑談を交わしながら、入口付近に掲げられた旗に足を止めた。
「これは……」
それは、奇妙なマークの書かれた旗だった。
中央には白い丸があり、それを囲うように十色の線が向けられている。
「それは、ケネス帝国の国旗だな。初代皇帝のアルトゥス陛下が、側近の騎士達と白い円卓を用いて会議をした事に由来すると言われている帝国の国旗だ」
後ろからフランクが解説してくれる。
そういえばこの国はそんな国旗だったな、とアカツキは資料を読んでいた時の事を思い出す。
「……あれ?」
ふと、疑問に思う。
「どうかしたか?」
「いや、この国旗のマーク……。前にどこかで見た事があった気がするんだが」
「前にっていつだ?」
「この国に来る前。いや、子供の頃から見た事があるような……」
うーん、とアカツキは考え込む。
思い出せない。
どこかで見た事があるきがするのだが……。
「まあ、考えていても仕方ないか。中に入ろう、フランク、エミリー」
「そうだな」
「分かった」
フランクも頷き、アルトゥス博物館の中へと入っていった。




