20話 友人
「いいですか、言語は力です。集中して、強力な炎を出すイメージをしっかりとしてから魔力を送り込んでください!」
「分かった」
シャノンの言葉が、明朝の広場に響きわたる。
「炎よ!」
アカツキの言語と共に、手から炎が放たれたる。
それは、火とは威力が格段に違う。炎系統の魔法だ。
「見事です。もう、炎は完全にマスターしましたね」
それを見ながら、ぱちぱちとシャノンは拍手をする。
「毎朝訓練をしてきたかいがありました」
「いや、シャノンの方こそ毎日付き合ってくれて感謝するよ」
シャノンからタオルを受け取りながらアカツキは答える。
「いえ、なかなか貴方も筋がいいので教えがいがあります」
シャノンがそう言って微笑む。
現在は、まだ太陽が昇ってさほどたってない時間帯。
あのスクールバトルロイヤル以降、この時間帯にシャノンと訓練をしている。
当初は魔法だけでなくそれ以外にも、剣技の方も少し習っていたのだが、型からして全く違うためあまり参考にならず、今ではほとんど魔法の訓練のみとなっていた。
まあその甲斐あってか、火よりも威力の高い、炎をマスターできていた。
「……そういえば、シャノンって東方に来たことがあるんだっけ?」
訓練を終えた雑談中、以前に聞いた会話を思い出して訪ねてみた。
「はい」
シャノンは頷く。
「それっていつぐらいの話?」
「かなり前ですね。もう10年近く経ちます」
「それはまた、随分と前だね」
10年も前であれば、自分は何をしていただろうか。
ほとんど思い出す事はできない。
「それで、東方といっても広いけどどの辺り?」
「む……それは」
「話しにくい事?」
「ええ、まあ」
「なら仕方ないか」
あまり言いたくない事なのだろう。
ならば無理に聞いても仕方ないと思い、話を引っ込めた。
「ところで、今日はここまでにする?」
「ええ、そうしましょう」
ふう、とアカツキは息をつく。
シャノンも一息をつき、休むように広場の方へと移動した。
この日は休日だ。
平日と違い、昼間に訓練をする事も可能だ。
休日の訓練は週によってやったりやらなかったりだ。
今日はどうするのか、シャノンに訪ねようとした時、
「……実を言うとですね」
ぼそり、とシャノンが口を開いた。
「私はイズル皇国にいた時期もあるのですよ」
「……え?」
衝突なシャノンの発言に、アカツキはあんぐりと口を開いた。
「まあ、私はその、色々と家庭の事情がありまして。親の都合で東方大陸を旅していました。ゾンシン本国や、その周辺国にいた時期もそれなりに長いですが、イズル皇国にも2年ほど滞在していました」
「それは……」
アカツキは即座に次の言葉が出てこないでいるが、シャノンがその間にも言葉を続ける。
「まあ、その間にいい思い出も悪い思い出も色々とありましてね。イズル皇国には何だかんだで思い入れがあるわけですよ」
「そうなんだ……」
思わぬシャノンの告白にアカツキは驚く。
「もしかして、学園に入学した初日から俺に妙に注目してくれていたのはそれが理由?」
「はい。イズル人である貴方が留学生としてこの学園に来る事を知っていたので興味を持っていました」
「じゃあ、初日の時から何か注目されてるように感じたのは俺の勘違いじゃなかったのか……」
「そうですね。不快に感じていたのなら、ごめんなさい」
「あ、いや……」
別に不快ではない。
むしろ、学園で首席入学というシャノンのような優秀な生徒に注目してもらえて嬉しいぐらいだ。
アカツキはそう思った。
しかし、口に出すのは何となく照れくささった。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「そ、そういえば、イズルの商人から、届けられたものがあったんだ」
アカツキは荷物から、白い塊を取り出した。
「それは、お餅ですか?」
「そうだよ。イズルにいた事があるのなれば食べた事もあったんじゃない?」
「そうですね。元旦などにはよく口にしました」
「じゃ、じゃあさ。一緒に食べない」
「いいのですか?」
「もちろんだよ。じゃ、早速焼くとするか」
まずは、魔法で火を起こした。
そして、金網の上に餅を2つ乗せた。
「……」
「……」
再び沈黙が訪れる。
だが、その間にアカツキの考えもまとまっていった。
「でもさ」
「? 何です?」
「きっかけが何であれ、シャノンが俺に注目してくれたのは嬉しいし、それがきっかけで友達になれたのは良かったな、と思ってるよ」
「? 友達、ですか。私が?」
アカツキの発言に、シャノンは首をかしげる。
「違った? 少なくとも俺はシャノンの事は友人だと思ってたんだけど。俺の思い上がりかな?」
そのアカツキの言葉に、シャノンは慌てた様子で首を振り、
「い、いえ。むしろ嬉しいです。そ、その。友人と面と向かって言ってくれた人はその、
はじめてだったものですから。ちょっと驚いただけです」
照れているためか、頬が紅い。
「いえ。そうですね。友達、ですか。いい響きですね」
「じゃあ、改めて君とは友人同士って事でいいかな?」
「もちろんです。アカツキ。貴方がそう言ってくれるのなら、私は貴方の友人です」
そう言って、シャノンはにっこりと微笑んだ。
「こちらこそ。君の方こそ俺の友人だよ」
アカツキも笑い返した。
場が和やかな雰囲気へと変わった。
その間に、金網の上に乗った餅もぷくりと膨らんだ。
「お、焼けた焼けた」
そう言って片方の餅を手にとり、シャノンに渡す。
水魔法で火を消す事も忘れない。
「こっちをどうぞ」
「ありがとうございます」
アカツキから渡された餅を皿にのせる。
アカツキも、自分の分を自分の皿にのせた。
「うむ。やはりお餅はいいですね」
熱そうに餅をつかみながら、シャノンは餅を口に運ぶ。
「いただきましょう」
「じゃあ、俺も」
アカツキも餅を口に運ぶ。
気持ちのよい噛み心地だ。甘さが腔内に染み込んでくる。
「改めてよろしく、シャノン」
「こちらこそ」
こうして、二人は互いの親交を深めた。




