17話 決戦(後)
シャノン達が戦闘をはじめたのと同じ頃、アカツキ達はキャロルと対峙している。
「さて……。あっちの二人はシャノン達に任せておけばいいのかな?」
「そうだね。俺達は……」
フランクの言葉にアカツキは頷きながら、キャロルの方を見つめ、
「彼らと戦おう」
キャロルの前に、キャロルの魔人・レオが出る。
「レオ、気をつけて」
その近くからキャロルが言った。
それは、何に対しての「気をつけて」なのだろうか。
自分達の実力を評価して「気をつけて戦え」という意味なのだろうか。それとも、実力差がありすぎるから、「怪我をさせないように気をつけろ」という意味で言ったのだろうか。
アカツキはそんな事を思った。
「ふふ、試験勉強の時は世話になったけど、手加減はしないよ!」
エミリーの言葉にキャロルはそういえば、と思い出したように、
「そういえば君は試験大丈夫だったの? 数日前の勉強会の時は相当にまずそうだったけど」
キャロルの言葉にエミリーは「うっ」と黙り込み、
「さ、三割はできたと思う、かな……」
エミリーの声が小さくなる。
(それは相当にまずいのでは?)
アカツキは内心で突っ込む。
確か、前期授業の最後の学科試験では四割を割った成績をとった者には補習等のペナルティが課せられるはずだ。
数日前の試験はあくまで入学時の実力考査であり、成績に影響しないとはいえアカツキはこのクラスメイトの少女の未来に不安を感じた。
「そ、そう……」
キャロルもそれ以上の追求はやめたようだ。
「も、もう! 学科試験は今関係ないでしょ! そんな事より勝負よ、キャロル!」
「まあ、そうだね。クラスメイトとはいえこうやって敵同士で出会ったんだ。正々堂々と戦おう」
キャロルがそう言って前に出る。
が、そのさらに前にレオが進み出る。
「ですが、キャロル様は魔人使い。そして、キャロル様の魔人である私も戦います。異存はありませんね? キャロル様のご学友達」
「もちろん。こちらも魔人使いのシャノンがいるんです。どうこういう気はありませんよ」
アカツキがレオにそう答える。
「そうですか。ご理解に感謝を」
そう言って、レオも戦闘態勢をとる。
戦闘がはじまる。
ごくり、とアカツキは生唾を飲み込む。
そして、戦闘開始を告げる合図をフランクとエミリーに送る。
「じゃあまずは――ッ!」
早速、フランクが攻撃魔法を唱えようとした直後だった。
攻撃魔法を仕掛けようとしたフランクの前に、レオが移動したかと思うと、次の瞬間にはフランクが悲鳴をあげて倒れ伏した。
(一撃――!?)
ほとんど一瞬の出来事だ。
フランクを一撃でレオは悶絶させたのだ。
(強い――)
あまりの力量にアカツキは唖然とする。
倒れたフランクはぴくりとも動かない。
「ご安心を。急所は外してあります」
それに対し、レオは冷静な口調だ。
「次は貴方を」
続いて、こちらへと攻撃の矛先を転ずるべく向かってくる。
「むッ!」
だが、それはエミリーによって防がれた。
「あなたの相手はあたしッ!」
驚くべきことに、エミリーの剣をただの素足によって防いでいた。おそらくは、魔力で何らかの強化はされているのだろうが、それを考慮しても凄まじい。
「そうですが。では」
レオは一歩下がる。
そして、今度はエミリーへと攻撃を仕掛ける。
レオの動きは素早い。
いや、素早いなどという言葉で言い表せるレベルではない。
エミリーも奮戦しているが、それでも防戦一方。勝敗が決まるのも時間の問題だろう。それなりにある戦闘経験からアカツキは推測する。
だが、その『時間』をできる限り伸ばす。
(この戦い――何も勝つ必要はない)
アカツキは、戦いが始まる前から既に方針を決めていた。
キャロルとレオの実力の詳細は分からない。だが、魔人という存在が規格外の強さを持つ事は既に分かっているし、次席入学のキャロルも相当な実力者である事も予測がついた。
3対2で数の優位があるとはいえ――現時点では2対2になってしまったが――あてにできない。
この二人と戦って勝てるのはシャノンとシュタールだけだろう。
だが、この二人はジョスリン達と戦闘中だ。
だから、この三人で戦うしかない。しかし、この三人ではキャロル達には勝てない。
となれば、とるべき戦法は――。
(何とかこの戦いを長引かせる――ッ!)
自分も、目の前のキャロル相手に時間を稼ぐ。
そして、ジョスリン達を撃破した後にシャノン達もこちらの戦闘に加わる。
そうすれば、形勢は逆転だ。
無論、シャノン達がジョスリン達に敗れれば、その瞬間にこの策は崩壊する。
(でも、シャノンがジョスリンに勝つ前提じゃないと策は立てられい。シャノンの勝利を信じるしかない、か)
アカツキはそう考えながら、戦闘を始める。
「キャロル、行くよ!」
「そう簡単に勝てせはしないよ!」
アカツキが風魔法を唱える。
威力こそ小さいが、アカツキがもっとも早く詠唱できる魔法だ。
「風の盾よ《ウェントゥス・スクートゥム》!」
しかし、キャロルの魔法によって風の盾ができあがり、簡単に防がれる。
威力が小さすぎたのだ。
(やっぱり、これくらいの攻撃じゃ防がれるか)
アカツキは内心で軽く嘆息する。
アカツキの魔導銃は故障したまま。
こちらが使えるのは初歩的な攻撃魔法のみ。
(けど、それでもモロにくらえば――いける!)
攻撃力の高い、炎系統の魔法をキャロルへと向ける。
(やった――ッ!)
タイミングは完璧だ。
決まった!
が、そう思ったのも一瞬だ。
キャロルを包みこむように、水の障壁ができあがる。
じゅっ、とアカツキの放った火系統の魔法は一瞬で消えてしまった。
「うん。威力こそ小さいけど、攻撃のタイミングは悪くなかったよ」
キャロルが感心したように呟く。
「もしかして、自動魔法かな?」
「よく知っているね」
かすかに驚いたかのような表情をキャロルは浮かべる。
自動魔法。
術者の意思とは無関係に、一定の条件を満たす事によって発動する魔法だ。おそらく、キャロルの近くに炎が近づけば自然と発動するように術式が組まれていたのだろう。
「ちなみに、氷系統の魔法攻撃だったら、炎の障壁が出来るようになってるんだけどね」
「奇襲の対策も万全だってわけか……」
「そういう事」
そうは言いつつも、キャロルに自慢する様子はない。こちらを見下す様子もない。
(さすがは次席入学、か)
明らかに、
そう認めざるをえない。
現時点での力量は明らかにキャロルが上だ。
単なる知識量や使える魔法の数だけではない。単純な戦闘でもだ。
(あくまで現時点で、の話だ)
いずれ追いつく。
いや、抜かす。
そうアカツキは決意する。
だが、その前にこの戦闘だ。
ここからどうするべきか……と考えた時、
「キャロル様」
不意に、背後から声がしたかと思うとアカツキは組み伏せられていた。
「――ッ!」
上を見上げる。
そこにいたのは、キャロルの魔人・レオ。
……まるで反応できなかった。
「貴女がここにいるという事は……」
アカツキはそう言いかけ、同時にレオの片手に握られている二つの魔石を見る。
フランクとエミリーに持たせていた魔石はそれぞれ1つずつ。それが彼女の手にあるという事は――。
「申し訳ありませんが、貴方のご学友は既に無効化ずみです」
その言葉に、視線をレオ達が先程まで戦っていた方へと向ける。
地面に倒れているフランクとエミリーの姿が視界に映る。
「ご安心を。気絶しているだけです」
レオの言葉にそうか、とアカツキは安心する。
だが、予想できた事とはいえやはりあの二人は負けてしまったのか。
となれば、この魔人とキャロルに対抗するには自分一人の力量ではまず不可能、か。
元々、フランクとエミリーが時間を稼いでいる間にキャロルを撃破。ジョスリンを倒して合流する予定のシャノンの為に少しでも戦力を削る方針だった。
(俺も時間稼ぎに徹するべきだったか)
正直、キャロルの実技の方の実力を侮っていた。
キャロルは華奢な体つきや、中性的な顔立ちからあまり強そうな印象を与えない。
決して甘く見たわけではないが、それでも勉強はできても実力はそこまで高くないと目の前の少年を過小評価していたのかもしれない。
「ごめんね、アカツキ」
キャロルが申し訳なさそうに謝る。
「水よ(アクア)、束縛せよ(オブリガーティオ)」
キャロルの言葉と共に、水の縄ができあがり、アカツキは体を拘束される。
「拘束魔法か? そんなのも使えるのか」
「まあね。でも、それほど難しいものじゃないよ」
キャロルが頷く。
「だったら今度教えてくれないかな?」
その言葉に、キャロルは驚いたように目を見開き、
「負けたばかりだっていうのに、そんな発言が出てくるなんてタフだね君」
「こう見えても向上意欲は旺盛なんだよ、俺は」
「そうかもね」
ふふ、とキャロルも笑う。
「で、教えてくれるの?」
「いいよ。これくらいいつでも教えるさ。でも――」
「でも?」
「まずは、この戦いを終えてからだね」
そう言うのとほぼ同時に、こちらに誰かが近づいてくる気配を感じる。
直後、一人の少女と男性が現れた。
「シャノン・アヴァロン……」
キャロルが目の前の少女の名を呟く。
「ということは、ジョスリンさんを倒したのか」
「はい」
シャノンの返事は短い。
「なかなかの強敵でした。さすがは次席入学の貴方の相方だけあります」
「まあ、相方といっても無理矢理組まされたんだけどね」
そう言ってキャロルは頬のあたりを軽くかく。
どうやら、ジョスリンの事は苦手のようだ。
「それに、首席入学の貴女が言ったって皮肉に聞こえるよシャノンさん。 ……それで、すぐに始める気かな?」
「無論」
シャノンはキャロルの言葉に頷くと、
「ですが、その前に……」
片手の杖を軽く振るう。
さほど強い拘束ではなかったらしく、アカツキを縛っていた水の縄は簡単にほどけた。
「さて、あなたはそこで見ていてください。私がキャロルを倒して彼の持つ魔石を奪えばその瞬間に我々の優勝が決まります」
「そう簡単にはいかせないよ」
キャロルの言葉に、レオがまず前に出る。
そして、シュタールがシャノンの前に出た。
「それでは――」
「はじめましょう!」
その言葉と共に、レオが奔る。
神速の一撃。
ほとんど視界では認識できない一撃が、シュタールへと叩き込まれる。
が、あまり効いている様子はない。
続いての攻撃もレオのもの。
やはり速い。
シュタールは、ただ防御に徹するだけ。
ただひたすらに、レオの一撃を受け続けていた。
昨日の戦闘でも見たように、シュタールの相当に耐久力は高いようだ。レオの攻撃を何度受けてもまるで倒れる様子はない。
だが、シュタールもレオの猛攻の前に反撃に転じることができない。
(凄い……。これじゃ、俺が介入することなんてまるでできない)
拘束を解かれたものの、アカツキは唖然としてその光景を眺めるほかなかった。
一方、シャノンとキャロルの間でも戦端が開かれた。
「炎よ(フラムヤ)!」
シャノンの炎攻撃が、キャロルを襲う。
しかし、先程同様、自動魔法が発動し、シャノンの炎による攻撃を水の障壁によって文字通りの意味で消してしまった。
「む……面倒なものを」
シャノンがいったん距離をとる。
だが、そこにキャロルが攻撃を開始する。
「水の矢!(アクア・サギッタ)」
水でできた矢による集中攻撃。
とにかく水の矢が多い。シャノンも回避を諦め、防御体制をとることによってダメージを軽減しようする。
「くっ――」
だが、それでもいくらかはダメージを受けてしまったらしい。
そのシャノンに対し、キャロルは次の攻撃に移る。
再び、水の矢を放ち始める。
どうやら、キャロルは長距離攻撃の方が得意のようだ。
シャノンもそのことに気づいたらしく、今度は距離をつめようとする。
キャロルも簡単に近づかせない。
「水の鞭よ(アクア・フラッゲルム)!」
水でできた鞭が、シャノンの体を振り払う。
その鞭を受け、キャロルから離されつつも、シャノンは呪文を唱える。
「炎よ(フラムヤ)!」
だが、先程同様の自動魔法によって、水の障壁ができあがる。
いとも簡単に防がれた。
(シャノンが不利?)
しかし、シャノンの方は息は荒く、白い肌を流れる汗の量も多い。
だが、そこまで追い詰められているようには思えない。
(いや、何か策があるのか?)
一気にシャノンが駆け出した。
「炎よ(フラムマ)・燃やす(フラムモー)・大きな(マーグヌム)・竜よ(ドラコ)!」
「す、言語の、四重!?」
シャノンの繰り出した魔法に、アカツキは驚く。
だが、驚いたのはキャロルも同じだったらしい。
目の前の魔法の威力を悟ったらしく、即座に防御魔法を用意する。
「水の(アクア)・究極の(スプレームス)・防御の(デーフェーンシオー)・盾よ(スクートゥム)!」
(キャロルも四重の言語を!?)
先程よりも強力な防御魔法だ。
さすがは次席入学。こんな魔法まで使えるとは。
アカツキがシャノンとキャロルの実力の高さに驚いている間も、時間は止まってはくれない。
キャロルの水の障壁を、シャノンの炎の竜が突破せんと迫る。
だが、キャロルの障壁も強固だ。突破はさせないとばかりにキャロルの障壁は耐え続ける。
時間にしてはほんの数秒。
だが、アカツキにはやたらと長く感じられた。
――そして、結果が出た。
「ああ、疲れ、た……」
がくり、とキャロルが膝をつく。
「私も、限界、です……」
剣を杖変わりにすることによって辛うじて体が崩れることを防いでいる。
二人とも、高度な魔法を使うことにより、魔力のほとんどを使ってしまったらしい。ほとんど同時に魔力が切れたらしく、激しくぶつかりあった水と炎の魔法は既に霧散してしまっていた。
同時に、近くで戦闘を続けていたレオとシュタールの体の動きが鈍る。
「予想以上に魔力を使ってしまいましたね。これでは……」
「これ以上の戦闘は……」
魔人は、魔人使いから多大な魔力を供給することによって超人じみた力を発揮している。
だが、今の攻防でその大半の魔力をシャノンは使ってしまった。
それはキャロルも同様だ。魔力のほとんどを消費した状態だ。
魔力を供給しなければ、魔人の力は大幅に下がってしまう。
「まだやりますか?」
「やめておくよ。ただの殴り合いで痛い思いするのは嫌だしね。 ……レオ、ここまでにしよう」
魔力がなくなってしまえば、魔人使いも只人とそう変わらない。
キャロルの言葉に、レオはシュタールとの戦闘を中止する。
このまま戦闘を続けるという選択肢も確かにあっただろう。だが、単純な肉弾戦になってしまえば、体術で勝るシャノンが圧倒的に有利だ。
「はい、これ」
そう言って、懐から袋を取り出す。
その中から、ジャラジャラと魔石が出てきた。
「これが僕の班の持っている魔石だよ」
その数は7個。
アカツキ達の持っている数と足せば12個。
これで、全ての魔石が揃ったことになる。
「じゃあ、これで……」
「そう、君たちの班の優勝だよ」
この瞬間、アカツキの班の優勝が決まったのである。




