16話 決戦(前)
キャロル達がいたのは、少し開けた広場だった。
ただ草むらが広がり、昼寝でもすれば気持ちがよさそうな場所だ。
……とはいえ、既に日が傾いている今の時間に昼寝などする気にはなれないだろうな。
アカツキはそんな事を思った。
「来たようですわね」
目の前にいたのは、女子生徒。
彼女がジョスリンだろう。傍らには、しきしまった筋肉の男が立っている。おそらくこちらがジョスリンの魔人だろう。
シュタールと比べると、いささか背が小さい。
だが、その存在そのものが放つ圧倒的なカリスマともいうべきものはシュタールと同じだった。
「君たちがここまで残っているとは意外だったよ」
素直に驚きの表情を浮かべている男子生徒・キャロル。
その後ろには彼の魔人・レオも控えている。
「運が良かったんだよ。たまたまシャノンが一緒の班に入ってくれたりしてさ」
はは、とアカツキは苦笑する。
「逃げずに来るとはいい度胸ですわね。今度こそあなたに引導を渡して差し上げますわッ! シャノン・アヴァロン!」
ジョスリンの方は、アカツキやエミリーの事など眼中にない様子だ。
びしっ、とシャノンの方だけを指で差す。
「アカツキ。彼女は私をご指名のようですし、彼女の相手は私がします」
シャノンの言葉にアカツキも頷く。
「分かった。じゃあ、シャノンは彼女と。彼女の魔人の相手は――」
「俺がしよう」
シャノンの魔人・シュタールが出てくる。
「分かった。じゃあ、シュタールさんが彼女の魔人の相手をお願い」
アカツキの言葉と同時に、シュタールが前へと出る。
「では、俺の相手はアンタという事でいいんだな?」
その言葉に、ジョスリンの魔人と思しき男も頷く。
「そのようだな。儂がお主の相手をしよう」
「では、私がシャノンの相手という事でよろしいですわね」
呵呵とジョスリンの魔人が笑う。古風な喋り方をするが、年寄りめいた話方をするが、外見は若そうだ。
一方のジョスリンもいつでも戦いに入れるように杖をとりだす。
「モーリス。貴方はシャノンの魔人の相手をしてやりなさい」
「呵呵。承知した。では行くとするか」
モーリスと呼ばれた魔人がそう言うと、モーリスがアカツキの視界から消えた。
「――ッ!」
次の瞬間にはシュタールのいた草むらが沈んでいた。
それが、モーリスの蹴りによるものだと気づくのに暫く時間がかかった。
その背後にシュタールがいる。
どうやら、一瞬でモーリスの蹴りをかわしたらしい。
「むッ!」
続いて、再びモーリスの蹴りがシュタールを襲う。
シュタールが防ぐ。
先程、大穴を開けた強烈な蹴りだが、シュタールの肉体は傷一つない。
表情にも変化はなく、いともたやすくジョスリンの魔人を弾いた。
「相手はパワータイプ。耐久型のシュタールよりも、単純な攻撃力では上のようですね」
こんな中でもシャノンは冷静だ。
的確に、敵の力量を分析している。
だが、アカツキにとってはただ敵もシュタールも強いとしかうつらない。
強い。
やはり、魔人は桁違いだ。
そこらの魔獣などよりも強い。
「これは……」
「すごい……」
「二人とも強すぎるよ……」
アカツキ達3人は唖然として魔人二人の戦闘を見守る。
冷静なのはシャノンだけだ。
「では、私はジョスリンを。申し訳ありませんが、貴方達はキャロルとその魔人をお願いします」
「わ、分かった」
言うが早いか、シャノンは既に炎魔法をジョスリンに向かって放っていた。
それをジョスリンは魔法の障壁で防ぐ。
二人の間で戦闘がはじまった。
……なるほど、思ったよりも強いですね。
ジョスリンと戦いながら、シャノンはそう思う。
予想通り、ジョスリンの得意とする系統は炎だった。
ドナルドと戦いの舞台になった、森の様子を見た時の推測通りで間違いはないと思っていたがやはり的中していた。
シャノンの炎による魔法攻撃を、ジョスリンも炎による盾で防ぐ。
「この程度では、私を倒せませんわよ! 火の矢!」
火でできた矢がこちらにむかってくる。
が、シャノンはいとも簡単にそれを払う。
「やはり、少しはやる様ですわね」
「それはどうも」
そう言いながらも、炎系統の魔法攻撃をシャノンは繰り出す。
ジョスリンもそれを防ぐ。
一歩。
距離を詰め、再び魔法攻撃を繰り出す。
ジョスリンがそれを防ぐ。
さらに近づく。
そして、魔法攻撃を繰り出し、ジョスリンがそれを防ぐ。
「はッ!」
シャノンは跳躍し、今度は一気に距離を詰めた。
そして、剣を振り上げ、ジョスリンへと振り下ろした。
が、ジョスリンの反応も早い。
自身の杖で、その剣を受け止めた。
この杖も、何らかの魔法がかかっているようで、切り裂く事も叩き壊す事も用意ではない様子だ。
再び剣を繰り出すが、ジョスリンはその杖で防ぐ。
予想以上に耐久力の高い杖に、シャノンは思わず内心で舌打ちする。
が、そう簡単にひかない。
シャノンは遠距離から攻撃するよりも、近距離で戦った方が強い。いったん距離をとるような真似をするよりも、このまま接近戦で押し切った方がいいと判断した。
シャノンが剣を繰り出す。
それをジョスリンが強化された杖でやり返す。
しばらくの間、二人の間で激しい剣戟が繰り広げられた後、ジョスリンが言った。
「思ったより、やりますわねッ!」
ですが、と剣と杖でやりあっている状態のままジョスリンが続ける。
「どうにも妙ですわ。さきほどあなたと戦った時と比べると、今の方がはるかに強いように感じますわ。もしかしてさっきは手を抜いてでもいたのですか?」
「……」
……意外と鋭いですね。
内心でシャノンは思わず感心した。
ジョスリンの言う通り、先程ジョスリン達と戦った時はある事情があって全力を出していない。
だが、その理由をジョスリンに告げる義理はない。
「ですが、どちらにせよ終わりですわ! ごらんなさい、私の切り札を……」
とん、と背後に跳躍するとジョスリンは高速で言語を唱える。
「炎よ・熱やす・鳥となれ!」
ジョスリンの目の前に、炎でつくられた鳥が現れる。
だいたい、ジョスリンの体を同じくらいの大きさだ。
それが、メラメラと燃えていた。
「三重ですか、やりますね」
魔術師としての力量は、単純な力量はいくつ言語を重ねて呪文を完成させるかによって決まる。
当然、重ねる事ができる言語の数が多ければ多いほど強力な魔術が完成する。
魔力量などは、才能によって決まってしまうが、多重言語による呪文を習得するためには、相当な努力が必要になってくる。
それを考えれば、目の前の相手・ジョスリンもそれだけの経験をつんでいるという事だろう。
だが。
「ではこちらも……」
ジョスリンの作り出した鳥がこちらを襲うのよりも早くシャノンは呪文を完成させる。
「炎よ・燃やす・大きな・竜よ!」
轟! と炎がたちのぼり、シャノンの目の前に巨大な炎でできた竜ができあがる。
炎の竜が、ジョスリンのつくりあげた炎の鳥とぶつかる。
直撃。
だが、竜の方が巨大だし、炎の勢いも凄まじい。炎の鳥をたちまち飲み込んでしまい、炎の竜はそのままジョスリンの前まで迫り――そして、止まった。
それを唖然とした様子でジョスリンが見つめる。
「す、言語の四重……まさか、わたくしと同学年でそんな芸当ができるなんて……」
目の前の光景を愕然と見つめるジョスリンを、シャノンはじっと見つめ、
「まだ、やりますか?」
そう訊ねた。
ゆっくりとジョスリンは首を横に振った。
一方、シュタールもシャノンの魔人・モーリスを圧倒していた。
単純なパワーではモーリスはシュタールに勝る。が、しかし耐久で勝るシュタールはその利点を生かし、モーリスの攻撃の威力を殺し、致命打を避けた。
一方、シュタールの攻撃は威力こそモーリスと比べれば小さいものの確実にモーリスの体へとダメージを与えていく。
モーリスの体が揺らぐ。
そのモーリスに、シュタールは思い切り拳を叩きつける。
「むッ!」
その一撃は効いたらしく、モーリスの顔に苦痛の色が浮かぶ。
「やりおるのッ!」
ぶん! と凄まじい威力の拳がモーリスから繰り出されるが受け止め、シュタールは先程とは別の手でモーリスを殴りつけた。
シュタールの拳がモーリスに命中する。
その威力は凄まじかった。
ぐらり、とモーリスの体が揺れる。
「っ……」
かすかなうめき声を残してモーリスの体が崩れ去った。
シュタールは腰を下ろすと、モーリスの意識が失われている事を確かめる。もしかしたら、気絶した振りをして攻撃の機会を狙っているだけという可能性もあったからだ。
そして、確かに意識がない事を確認し、改めて勝利を確信した。
「ふう……」
軽く息をつく。
「どうやら、そちらも終わったようですね」
シュタールの主人であるシャノンが声をかけた。
「ああ。それなりの実力はあったようだが、俺の敵ではないな」
シュタールの顔には余裕の色が強い。
ジョスリン・モーリス組は撃破。残るは、キャロルとその魔人・レオのみだ。




