18話 打ち上げ
「……というわけで、優勝者はアカツキ君の班です!」
ぱちぱち、と中庭のパーティ会場に盛大な拍手が起こる。
スクールバトルロイヤル終結後、この戦いに参加していた生徒達が中庭に集められ、学園主催の打ち上げ会が催されていた。
この戦いで、途中退場した面々の顔もある。
怪我をしたものも中にはいるが、学園の優れた治癒魔術師の力によって、そのほとんどが完治していた。
生徒達は、学園の料理人達の作り上げた料理や酒が出され、生徒達がほどよい気分になっている。
そんな中で、優勝者であるアカツキ班のメンバー。アカツキ、フランク、エミリー、シャノンに学園長から祝福の言葉と共に優勝と金色のメダルが渡されていた。
学園長や学園幹部達の、簡単な労いの言葉の後は無礼講となった。
激戦の後、疲れがたまっているであろう学生達だが、若さのためか、疲れをほとんど感じていないらしい。
料理に舌鼓を打ちつながら談笑を始めた。
「まずは乾杯」
アカツキ達もその例に漏れず、テーブルの上で談笑中だった。
「乾杯、と」
飲み物の入ったグラスをアカツキ達は合わせる。
「やったよッ! 私達の優勝だあッ!!」
上機嫌なのはエミリーだ。
優勝という最上の結果にこの少女のテンションは高い。
「とはいえ、オレ達はレオ相手に一分しかもたなかったからな。ろくに勝利に貢献できずに申し訳ないぜ」
フランクの言葉に、シャノンが答える。
「いえ、貴方達二人が1分も粘ったからこそ、レオはアカツキにとどめをさすよりも先に私とシュタールが間に合ったのです。十分に誇れる戦果です」
シャノンの言葉に二人は照れたように頬をかく。
「うーん、でも留学生が2人もいるこの班が優勝しちゃったせいで、他の生徒達から余計な恨みを買いそうだけど大丈夫かな? ……もしかしたら準優勝ぐらいの方が良かったかも」
エミリーの言葉に、アカツキもいくらか不安になる。
「それは確かに不安だな……」
妬みという感情は、人である以上当然ついてまわるう。それは、この帝国学園といえども例外ではない。
……まあ、今からそんな事を気にしても仕方ないか。
アカツキはそう考え、空気を変えるように言った。
「それにしてもやはり、キャロルの魔人は強かったな。学園次席入学というのは伊達じゃないか」
「魔人の方だけじゃないさ。キャロルも強かったよ」
「確かに。一対一、いえ魔人を含めた二対二の戦いにおいては学園では、いえ少なくとも一年で負けるはずがないなどと自惚れていました。私もまだまだ未熟です」
「そんな事ないさ。シャノンは十分強かったよ」
実際、シャノンはジョスリンとその魔人を引き分けるという大きな功績をあげていた。キャロルやその魔人・レオも確かに強かったが、シャノンとその魔人・シュタールも強かった。
「そう言っていただけると幸いです」
シャノンが悔しげに唇を噛んだ。
「やあ、楽しそうだね」
そう言って近づいてきたのはキャロルだ。
「キャロル……!?」
つい先程まで話題にしていた少年の登場に、アカツキ達は驚く。
「どうしてここに?」
「……あ、いや、その、君たちの班に混ぜてもらおうと思ってさ」
「混ぜてもらおうって……お前の班の連中はどうしたんだ?」
フランクがそう聞くと、複雑そうな表情をキャロルは浮かべ、
「いや……実はそこから逃げてきたんだ」
「逃げてきた?」
キャロルの言葉に、フランクは怪訝そうな顔をする。
「どうも酒癖が悪いらしくてね……やたらと絡んでくるんだ」
ああ、とアカツキはキャロルに同情する。
ジョスリンとの付き合いは短いが、相当にきつそうな性格であることはわずかなやりとりから分かる。
そのジョスリンに酒が入っている状態なのだ。
正直どんな状態なのか確かめたくない。
「それに、僕はあまりお酒は飲めないんだ。それなのにやたらと進められるし……」
げんなりした表情をキャロルは浮かべる。
確かに顔にあどけなさを残す目の前の少年が酒に強そうには見えない。
「まあ、そういうわけだからさ。せっかくの打ち上げで一人で過ごすのも寂しいし。君たちの班に混ぜてよ」
「いや、俺は別に構わないけど……」
「オレも構わないぜ」
「私も問題ありません」
「ま、いいわよ」
他の三人もキャロルの同伴を認めた。
キャロルを加えた五人で再び談笑を始める。
「そういえば、キャロルの魔人はどうしたの? 見当たらないけど」
ふと思いついたようにエミリーが問うた。
「今更ですね。私の魔人もいないでしょうに」
シャノンの指摘に今更のようにアカツキも気づく。
確かに、先程まで影のようにシャノンに従っていたシュタールの姿が消えている。
「あくまでこれは学生の打ち上げ会ですのでね。彼は遠慮して部屋に戻っています」
「僕のレオも同様だよ」
シャノンとキャロルが答える。
「そうか。彼も勝利の立役者なのに何だか寂しいな……。そうだ、ここの料理で持ってい
こうか?」
「いえ、好意には感謝しますが、シュタールはあまり贅沢な食事を好みません。常に計算された食事をとっておりますので持って行っても嫌がられるだけでしょう」
「うん、僕のレオもあまり間食とかはしないからね。持って行ってもありがた迷惑だと思うよ」
シャノンとキャロルの言葉にアカツキもそうか、と引き下がるしかない。
嫌がっているところに無理に押し付けるわけにはいかない。
「まあ、ここはオレ達だけで楽しむとしようぜ」
ここで、フランクが4人を見回し、
「……それそろ一杯やろう。普段の食事じゃこういうのは出ないからな」
そう言ってガラス製の容器を机の上におくと、そこに紅い液体を注ぎ始めた。
「えっとこれは何?」
とくとくとつがれる紅い液体を指差してアカツキは訊ねた。
「何って……酒だが?」
何を当たり前の事を、とでも言いたげな顔を浮かべるがやがて思い出したように、
「そういえばお前はこの国の人間じゃないんだっけ。普通にケネス語を喋ってるから忘れてたぜ。あまり外国人って感じがしないんだよな」
はは、とフランクは苦笑する。
「酒ってこれがか?」
目の前に置かれた紅い液体を眺めてアカツキが訊ねた。
アカツキの知っている「酒」とは、米から作り出す白い液体の飲み物だ。目の前の飲み物とはどうやっても一致しない。
「西方では、こういう葡萄で作った酒を飲む場合が多いんだ。これは赤ワインと言ってこのグラスで飲むんだ」
「へえ。確かに赤いな」
注がれた液体を好奇の目で眺める。
「そういえば、お前は酒を飲んでも大丈夫なのか?」
国によっては飲酒を禁じる宗教もある。それを懸念しての発言だろう。
「特に制限はされてないよ。元服といって成人の儀式の際には飲む必要があるしね」
「そうか。じゃ、お前らの方はどうだ?」
エミリーとシャノンとキャロルの方を向いて訊ねた。
「私はパス」
エミリーが手元で手を左右に振った。
「お酒は苦手なんだ。私は。実家じゃあ、21歳まで飲むなって言われてるし」
「ま、それなら仕方ないか。シャノンは?」
「いただきましょう」
シャノンは頷く。
「僕はいいよ。さっきも言ったけどお酒は苦手だし」
キャロルは拒否した。
それを見て、フランクは分かったと頷き、シャノンのグラスにのみ酒を注いだ。
「それではいただきましょう」
シャノンはグラスに注がれたワインを口元へと運び、一気に飲み干した。
「まあまあの味ですね」
シャノンが感想を口にする。
それを見て、アカツキもワインの注がれたグラスを持ち上げる。
ごくり、と喉にワインが流し込まれる。
「これが西方の酒か……」
「味はどうだ?」
「イズル製の酒と比べると少し甘酸っぱいな」
アカツキは正直な感想を口にする。
「口に合わないか? だったら他の飲み物を持ってくるけど……」
「いや。これでいいよ」
そう言ってアカツキはグラスに残ったワインを流し込んだ。
「そういえば、ドナルドは?」
アカツキはこの場で見かけない男子生徒の事を不意に思い出して訊ねた。
「ああ、あの帝国元帥の息子ならばまだ医務室のようですよ?」
シャノンがそれに答える。
「医務室? そういえば怪我をしてたっけ?」
キャロル達との戦闘で怪我をしていた事をアカツキは思い出す。
「まあ、肉体的な怪我よりも精神的な方が大きいみたいだけど」
フランクが会話に割り込んだ。
「精神的な?」
「そ。どうもプライドの高い御仁のようだからな。今回の戦いも優勝間違いなしだーって取り巻きっぽい連中に言いまくってたみたいでな。ところが実際の戦いじゃあ、シャノンやキャロル達にボロ負けだ。とても合わせる顔がないんだろ」
そう言ってから、ごくりとワインを口に流す。
「まあ、あまり好感の持てない相手でしたがね」
シャノンがドナルドの事を思い出したのか、不快そうな色が瞳に浮かぶ。
「それに、ざまあみろと思っている生徒も多いみたいだしね。あたしもあんまりいい印象ないしね」
エミリーはそう言って菓子を口に運ぶ。
女生徒二人の評価は辛辣だ。
ドナルドの評判は、確かによくない。帝国元帥の息子という肩書きによって、傲慢に振舞っており、わずか数日の付き合いとはいえクラスでの評価は低い。
もっとも、肩書きが肩書きだけにヘンリーのように取り入ろうと目論む生徒もいたが。
「でも、人の不幸をあざ笑うのはよくないと思うよ。今回の件で彼だって面子をずたずたにされて傷ついていると思うし」
そのアカツキの言葉にシャノンとエミリーは意外そうに目を丸くする。
「……そうだね。確かに悪く言いすぎたかもしれないね」
やや反省したかのようにエミリーは軽く頭を下げた。
「そうですね、確かに、このような陰口のような真似を……軽率でした」
シャノンの方もばつが悪そうに頬のあたりを指でかいた。
少し妙な空気になりかけている。
――ここは話題を変えるか。
そう思って、アカツキは口を動かした。
「ところで、今更言うのも何だけどさ。スクールバトルロイヤルって本当に大丈夫だっのかな?」
「どういう意味?」
「いや、だってさ。いくら優秀な治癒魔術師が学園に大勢いるって言ってもさ。入学したばかりの新入生達に戦わせるなんて危険がかなり大きいと思ってさ。この学校にはドナルドみたいな軍の幹部の子供もいれば、ジョスリンみたいな有力商人の子供もいる。もし死ぬような怪我でもしたら、何か問題に発展しちゃわないかと思ってさ」
「言われてみれば……」
「確かにそうかもしれないけど……」
エミリーとフランクがアカツキの言葉に頷く。
「だから、そこまでしてこんな戦いをする意味って何かあったのかなと」
「アカツキ、それは――」
と、シャノンが何か言いかけた時、
「ほほ、意味ならちゃんとあるのですよ」
不意に、背後から声がかけられる。
現れたのは、白髪の老人。学園の幹部格の講師に与えられるはずの、高価なローブを身に纏い、長い杖で歩行する老人だ。
――?
この老人は誰だっただろうかと一瞬記憶を探る。
――確か、入学式の時にもどこかで見た気がする。
記憶の中の名前と、目の前の老人の顔が一致するのとほぼ同時に、
「ふぇ、フェアフィールド学園長!!」
フランクが叫ぶのが先だった。
「が、学園長!?」
周りの生徒達が驚きの声をあげる。
「ほほ、今年の新入生は元気があって結構」
学園長の白い眉が上下する。
どうやら笑っているらしい。
「は、はあ……」
思わう大物の登場に、アカツキは反応に困る。
アカツキも、祖国であるイズルに在住していた頃には歴史を築き上げてきた英雄豪傑達と謁見した事もある。
が、それらと比べても全く見劣りしないだけの威圧感を目の前の老人は持っていた。
「君はイズル皇国からの留学生であるアカツキ君でしたね。そちらの君はシエル王国か
らの留学生のエミリーさん」
「は、はい……」
名前を呼ばれたエミリーも慌てて頷く。
「入学式の時にも挨拶をしていましたが、改めて入学おめでとう。貴方達が我が校でよき学園生活を送れる事を祈りましょう」
「あ、ありがとうございます」
「それから、君たちも。フランク君にキャロル君、それにシャノンさんですね。あなた方はいずれも入学式で優秀な成績を収めていたのでよく覚えていますよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
三人も慌てて頭を下げる。
「ふむ。それで、何故このような行事を、との質問でしたな?」
「は、はい……」
その言葉にアカツキは緊張する。
先程の発言を学園批判だと叱責を受けるのではないかと少し身構える。
「ほほ、そうかしこまる必要はありません。ちょっとした事でも疑問につっこみたくなるのが若い者として当然の現象。そしてそれが許されるのは、学生の特権です」
学園長の顔も声色も穏やかだ。
怒っている様子はまるでない。
「質問は自由です。しかし、残念ながらその質問に答えることはできません」
「そうですか……」
「ですが、じきに貴方達はその答えを知ることになるでしょう」
「どういうことですか?」
学園長の回答にアカツキは疑問符を浮かべる。
「ふむ。 ……それはですね」
「?」
「おそらく、1年。いえ、もしかしたら半年ぐらいですかね」
「半年後に何かあるのですか?」
「それはその時のお楽しみというものですよ。アカツキ君」
ふふふ、と学園長は笑う。
「それでは、私はこれで失礼しますが、引き続き宴を楽しみなさい」
そう言って学園長はこの場から離れていった。
後に残されたのは、アカツキ達生徒のみ。
「行っちゃった……」
「何だったんだ?」
フランクとエミリーが去っていった学園長を呆然と見つめる。
(あれがこの学園の長で、帝国のかつての重鎮。フェアフィールド学園長か……)
帝国学園学園長フェアフィールド。
一介の学校の長というだけではない。
現在の皇帝の親友であり、同時に多くの国政にも携わったと言われる大物だ。アカツキもある程度の情報を手に入れていた。
現在でも帝国皇帝の相談役のような役割をしているとも聞く。
大物中の大物だ。
(それにしても半年後、か)
先程の言葉を思い出す。
半年後にこの大会の意味が分かる。学園長はそう言っていた。
いったいどういう事なのだろうか。
(まあ、今考えても仕方のない事か)
情報不足だ。結論は出て来ない。
アカツキはそう思い、宴の続きを楽しみはじめた。
今回の話で第一部が終わります。
次の話から第二部となります。
第二部の話はある程度創ってあるので、これまでよりか更新が早くできると思います。
第一部・第二部では世界観や登場人物の説明なども兼ねているので「退屈だ」などと思う人も多いでしょうが、飽きずに読んでくだされば幸いです。
それでは。




