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ケネス帝国争乱記  作者: 藍上男
第一部 学園編
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14話 強敵

 アカツキ達が行った先は、すでに燃えていた。


 木が燃えていた。

 木の下に落ちた葉っぱが燃えていた。

 草むらが燃えていた。


「うわ……」


 その凄まじさにアカツキの顔が思わずひきつる。


「これは……」


 エミリーもその光景に思わず目をそむけた。


「どうやら、炎系統の魔法攻撃のようですね。私も好んで使いますのでよくわかります」


 シャノンは冷静に周りの光景を見ている。


「焼け跡は、こちらの方が激しいようです。おそらく、こちらは火元となった発生源

でしょう」


 シャノンの歩いく先の方が、言葉通りに火の燃え具合が激しい。

 おそらく、シャノンの言っている事は間違っていないだろう。


「じゃあ、この先で……」


「はい。おそらく戦闘がありましたね」


 シャノンの言葉にエミリーとフランクの顔もしきしまる。


(敵がこの先に……)


 アカツキも戦闘態勢をとり、魔導銃に魔弾を装填する。

 今日の戦いが始まったのを感じ、戦闘態勢をとった。


「敵がいるかもしれません。警戒は緩めないで」


「分かっている」 


 シャノンの言葉にアカツキは頷く。


 火元に一歩近づく。

 二歩近づく。

 三歩近づく……と、誰かが倒れているのが見えた。


「ドナルド!?」


 そこにいたのはドナルドだ。

 しかも、同じくドナルドに付き従っていたヘンリーも倒れている。

 それに、他の生徒もだ。その生徒の名前は知らないが、確か同じクラスで見かけた記憶があった。


「く……」


 こちらの事に気がついたのかドナルドは睨みつけるようにこちらを見る。


「いったい、これは……」


 ドナルドに話しかけようとしたアカツキだが、その時、頬にぽつりと何かがあたった。


「水……?」


 エミリーが呟いた直後、巨大な水の塊が空から降ってきた。

 それで周りに燃えていた炎が消えてしまった。ほとんど一瞬の出来事だ。


「う、うわ!?」


「敵襲?」


 なんなんだ一体、と思いながらもアカツキ達は周りを警戒する。

 だが、水が落ちてきて以降、攻撃が来る様子はない。


「……?」


 怪訝そうに周りを警戒すると、近くから誰か近づいてくる気配がある。



「あ〜あ、こういう事されると困るんですけどね〜。森全体が燃えてしまったらどうするんですかね〜」



 そこから現れたのは、学園教師・カトリーナだ。

 片手には杖を持っている。


「えっと、先生?」


「どうしてここに?」


 怪訝そうな顔をフランクとエミリーが浮かべる。


「あ〜、それはですね〜」


 相変わらず間延びした声でカトリーナは話す。


「この子達は〜、残念ながら負けちゃいました〜。だから、この子達を治療のために運びま〜す」


 その言葉に、屈辱のためかドナルドが悔しげに下唇を噛んだ。

 それに構わず、ドナルドとヘンリーに浮遊魔法をかけたようだ。二人の体が宙に浮きあがるのが分かる。


「じゃあ、さっきこの辺りの木が燃えていたのは?」


「あ〜、それは対戦相手の子達がやっちゃった事で〜す。全く、戦闘エリアでは好きに戦ってもいいと言ってもこんな風に小火騒ぎを起こされては困りますね〜」


 やれやれ、とカトリーナは肩をすくめる。


「そ、そうですか……」


「ま、こういう事は想定の範囲内ですけど〜。だから私達が待機しているわけなんですから〜」


 ……先程の水魔法は先生のものか。


 アカツキは内心で納得する。この辺り一帯に広がりかけていた火を一瞬で消してしまうとは。

 さすがはこの帝国学園で教師をつとめるだけのことはある。


 そんな風に感心しているアカツキの前で、カトリーナはぶつぶつと文句を言う。


「全く。今年の子はちょっとやんちゃすぎますね〜。後始末もせずに逃げちゃうなんて。森全体に広がったらどうする気だったんですか〜。後でちょっとお説教しといた方がいいですかね〜」


 どうやら、ドナルドの対戦相手は既にこの場から立ち去ったようだ。

 それを知り、アカツキは軽く安堵した。


「では〜、私はここで〜。貴方達は引き続き頑張ってくださいね〜」


「あ、あの……」


 浮遊魔法で二人を浮かべたまま立ち去ろうとしたカトリーナをアカツキが呼び止めた。


「なんですか〜」


 怪訝そうにカトリーナが振り向く。


「カトリーヌを倒した相手について教えてくれませんか?」


 この戦い、当然ながら教師は中立だ。

 もし答えてくれなくてもいい。駄目元の質問だった。


「駄目で〜す」


 即答だ。

 そして、ある意味予想通りである。


「公平であるべき私達教師陣が言っていいことではありませ〜ん。残念ですが〜」


 やはり駄目か。

 だが、ただで引き下がるわけにはいかない。


「えっと、それではドナルドに尋ねるというのは駄目ですか?」


「別に構いませんよ〜」


 ……よし。これだけなら大丈夫か。言質はとった。


 内心でアカツキは喝采した。


「でも、ドナルド君が話せばの話ですけどね〜」


 ……むぅ。


 アカツキは心の中で思わず唸る。

 確かにそれもそうか。

 ドナルドがはなさなければ話になららない。


 ぎろり、とこちらをドナルドが睨む。


「……何の用だ?」


 憤怒と屈辱の混じった瞳でこちらを睨む。


「えっと。ドナルド、で良かったっけ?」


「……東方人如きが私を呼び捨てにするな」


 アカツキの姿を見たドナルドが、侮蔑の色も露に吐き捨てた。


 ……東方人如きって。


 西方の人間の中に、東方や南方の人間に差別意識を持つ人間がいる事は知っていたが、面と向かって言われるとやはりショックだった。

 ドナルドのように名家の生まれでプライドも高い人間にとっては特にそうなのだろう。


「その言葉は感心しませんね」


 シャノンが横から口を挟んだ。


「この学園では、生徒は皆平等が基本方針です。生まれや親が何であれ、アカツキよりも貴方の方が格上という事はないはずですが?」


「シャノン……」


 ドナルドの視線がシャノンの方へと移る。

 そこには、侮蔑の色の代わりに怒りの色が強く浮かぶ。


「それとも、あなたは単に西方人であるという事やグレン・ブラウン将軍の息子ということだけが自慢の人間ですか?」


 代わりに、シャノンの瞳に侮蔑の色が浮かぶ。


「貴様……」


 体を起こしながら、ドナルドは剣を握り締める。

 シャノンは冷笑したまま武器を構えようともしない。


「しゃ、シャノン……」


 フランクが、嗜めるようにシャノンを止める。

 何せ、ドナルドを論破するためにここに来たのではない。情報を引き出すためだ。怒らせてしまっても意味はない。


「シャノン、落ち着いて」


 アカツキはシャノンを嗜めた。

 確かに、東方人だという事で見下した物言いをしたドナルドに反論してくれたのは嬉しいが、それよりも今大事なのは情報を聞き出すことだ。


「……む。確かに、私も言いすぎました。すみません」


 シャノンが軽く頭を下げる。

 しかし、その謝罪はドナルドに対してというよりも、アカツキ達に対するもののようだ。


 だが、ドナルドはそれを自分のものに対する謝罪だと判断したらしく、いくらか機嫌をよくしたらしい。


「それにしても、ドナルドってかなり強かったよな?」


 フランクが口を挟んだ。

 急に会話に割り込まれてドナルドは少し驚いたようだが、彼も褒め言葉には弱いらしくかすかに笑みを浮かべる。


「……まあな」


 そこに、フランクが続けて尋ねる。


「でも、そのドナルドを倒したって事は相手は相当に強いんだろう?」


「ふん。当然だ。でなければ、このドナルド・ブラウンが不覚をとるものか」


「へえ……じゃあ、相手は相当に名のある相手なんだよな?」


「そうだ。相手はキャロル・レモンにジョスリン・キャッシュマン……どちらも、魔人使い。いかに私といえどもこれでは勝ち目は乏しい」


 吐き捨てるような口調だ。


「相手は魔人使いだったのか」


「その通りだ。しかも相手は2人。これでは勝てるはずがあるまい」


 吐き捨てるようにドナルドは言う。

 その口調には怒りの色が強い。


 ……確かにそれはそうかも。

 アカツキははじめてドナルドに同意した。

 魔人使いなんて存在は一人でも反則的な存在なのだ。シャノンの傍に控えるシュタールを眺めながらそう思う。


 それが二人。どう考えても対峙した時点で詰んでいる。


「えっと、じゃあ話は変わるけど、こちらに倒れているのは?」


 アカツキは、倒れているヘンリーとは違う生徒を見て訊ねた。


「そいつは私達の班の者ではない。キャロル・レモンやジョスリン・キャッシュマンの班の者だ。戦闘中に巻き添えを食らってそのまま。 ……ふん、柔な奴だ」


 ドナルドが吐き捨てるように言う。


「そうか」


 つまり、キャロル班の人間か。


 ……これで、必要な情報は聞き出せた。

 相手は、キャロル・レモンとジョスリン・キャッシュマン。

 シャノンを破ったキャロルやジョスリンの班が相手と見て間違いないだろう。そして、優勝候補だったシャノン班とドナルド班を破った今、この戦いの優勝最有力候補といえよう。ドナルドとの戦いで、一人退場者を出したとはいえ、まともに戦って勝つのは相当に厳しい相手だろう。


 だが、勝とう。

 せっかくの戦いだ。

 勝ったところで報奨のない戦いとはいえ、せっかくの学園行事だ。是非とも優勝しておきたい。

 そして、最高の形で学園生活をはじめよう。


 アカツキはそう決意した。

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