11話 仲間
結局、オークは二体ともシュタールが倒した。
さすがにいくらか苦戦はしたものの、それでも学年の首席入学・シャノンの相棒の魔人・シュタールというだけの事はあってとにかく強かった。
しかし、その代償としてドナルドとヘンリーの二人には離脱を許してしまったが。
「さて、落ち着いたところでいくらか話をしたいのですがね」
半壊状態となっていた小屋の中で、シャノンが口を開いた。
小屋の屋根の部分も所々破損しており、最早雨風を凌ぐことすらできそうにない。
「何を、かな」
奇跡的に無事だった椅子に座り、アカツキが訪ね返した。
「貴方はイズル出身の留学生の方でしたよね? 確か名前が――」
「アカツキ。アカツキ・ハットリだよ」
シャノンが名前を思い出すのより早くアカツキは答えた。
「そうでしたね。気に触ったら失礼」
そう言って優雅に一礼してみせる。
西方風の一例ではあったが、東方出身のアカツキにも高貴さを感じさせる優雅な一礼だった。
「ではアカツキ。少し話したいのですが……」
「待った!」
後ろから待ったがかかる。
振り向くと、エミリーが不満そうな顔でこちらを睨みつけている。
「ちょっと! 何でアカツキとだけ話してるの!? こっちには私達もいるのよ!」
「おや、そうでしたね。これは失礼」
軽く謝罪しながら、シャノンはエミリーとフランクの方に顔を向ける。
「シエル国留学生のエミリーと」
「本国出身のフランクだ。よろしく」
「シャノン・アヴァロンです。改めてよろしくお願いします」
むー、とまだ怒っているエミリーを無視し、シャノンはこちらに向き直す。
……それにしても何故だろうか。
彼女とははじめてあった気がしない。アカツキは奇妙な感覚に襲われていた。
それだけではない。なぜか、彼女もこちらの事を気にしているかのような気がする。
入学式の時も、こちらの方を見ていた気がするし、数日前に会った時も話しかけられたりもした。
(自信過剰か。第一、彼女とはこの学園ではじめて会ったはず。知り合いのはずがない)
アカツキはそう考えた。
「では、話を戻しますが、先程は魔導銃での援護。ありがとうございました。おかげで助かりました」
「い、いや。こちらこそ助けてくれてありがとう。あのままだったらやられていたよ」
いえ、とシャノンは答え、
「いかに、勝つためならあらゆる手段が許されるこのスクールバトルロイヤルといえどもあのようなやり方は好きではありませんので助太刀したまでです」
魔物を操って襲わせた挙句に、その漁夫の利を狙う。
そのやり方はどうやら彼女の美学に反するらしい。先程の戦闘からも不満の色が強く浮かんでいるように感じた。
「それでもありがとう。おかげで助かったよ」
アカツキはそう言って頭を下げる。
それに続くように、フランクも軽く頭を下げた。
「オレからも礼を言うよ。助かった」
「助けられたのは事実だしね――ありがとう」
エミリーも続いて礼を言った。
「そう言っていただけると私としても提案がしやすい」
「提案?」
「ええ、少し言いづらいのですが……」
シャノンは顎に手を当てて暫く考えていたが、
「実は、私の班は私以外の全員が全滅してしまいまして」
「は?」
シャノンの発言に、アカツキは思わず目を点にする。
「全滅?」
「はい。事実上、戦闘不能な怪我をおってしまいました。現在は学園の医療魔術師のところです」
ここでシャノンの顔にはじめて苦悶の色が浮かぶ。
「私にも油断がありしました。彼らがあんなにも強いとは……」
「彼ら?」
「はい。キャロル・レモンとジョスリン・キャッシュマンです」
「キャロルは知ってるけど、ジョスリンって?」
アカツキの疑問に、フランクが答えた。
「ジョスリンも確か入学試験では上位で合格したはずの女子生徒だよ。実技ではシャノンに。学科ではキャロルに負けてたけど」
「しかも、キャッシュマン商会っていう有力商人の娘らしいね」
フランクの言葉をエミリーがつなげた。
「ああ、確かキャッシュマン商会ってと言えば携帯魔導食料の販売で大儲けしたところだな」
携帯魔導食料は、魔導技術によって長時間の保存を可能とした携帯食料だ。
味の方はいまいちだが、肉や野菜のように腐ってしまう心配がないため、長期の保存が可能なすぐれものだ。冒険家なども好んで買うが、それ以外にも軍事的にも利用できる。
何せ、食料の確保は遠征において必須とも言える要素だ。
そのため、年中行事のように大規模遠征を行うケネス帝国ではとぶように売れた。その結果、キャッシュマン商会は膨大な利益を貪り、現在ではケネス帝国屈指の巨大商会へと変貌していた。
「しかも、あのジョスリン嬢は学年でも数少ない魔人使いだ」
背後に立つシュタールが補足するように言った。
「魔人使い――」
「ええ。それも強力な魔人でした。私の班にもそれなりの実力者がいたのですが、いともたやすく一蹴されてしまいました」
当時の事を思い出したのか、シャノンは悔しげに唇を噛む。
「そこで、提案なのですが――私も貴方達の班に入れていただけませんか?」
「は?」
唐突な提案にアカツキは思わず口を開けた。
「どういう意味?」
「そのままの意味です。私の班は班長の私を除いて全滅してしまいましたので、あなた達の班に入れていただけないでしょうか?」
「い、いや……でもそんな事許されるのか?」
「許されます」
シャノンが今回のスクールバトルロイヤルについてルール説明の書かれた用紙をとりだして言った。
「この戦い、最低3人、最高5人の班を作って戦う事がルールとなっています。そして、最後に残った班が優勝。ですので、私1人が――魔人であるシュタールは生徒ではないため班員に含まれませんし――加わったところで何も問題はありません」
「――むぅ」
アカツキが唸るようにルールを読み直す。
確かに、『最初に決めた班で最後まで戦う』『中途で他の班に合流する事はできない』などというルールはどこにも書かれていない。
『全ての魔石を集めた班が優勝』『班の人数は3人から5人まで』と書かれているだけだ。
「厚かましいお願いだとはわかっています。しかし、私はこう見えても負けず嫌いなのです。このまま退場したくはありません」
そう言って、懐からある物を取り出した。
「あなた達を信頼する証にこれを――」
「これはッ――!」
シャノンが差し出してきたのは、この戦いで奪い合うはずの魔石。
おそらく、シャノン班に配られたものだろう。
「私から言わせてもらえば、我が主一人でもじゅうぶんに戦えると思うのだがな。しかし、彼女が望むのであればやむをえまい」
「……シュタール。失礼ですよ」
シュタールの言葉を、シャノンが嗜めるようにおさえたが、先程の戦闘を見ているだけに、彼の言葉に嘘がない事をアカツキは十分に知っていた。
……確かにさっきの戦闘はすごかった。
明らかに、只人の戦士や魔法使いよりかはるかに強い。帝国最強の代名詞ともいえる『魔人』というだけの事はある。
(――でも。逆に言えばこのシュタール相手に足止めができたっていうキャロルの魔人もそれだけの強さを持つのか)
ごくり、と生唾を飲み込み思考を続ける。
(それん、シャノン班の班員達を一蹴したっていうジョスリンという女子生徒の魔人もだ)
シャノン班の班員は、他の班と比べても高レベルの生徒達だった。
その生徒が数人がかりでも勝てなかったのだ。ジョスリンの魔人も相当に強いのだろう。
……そんな相手と戦うなら、魔人使いがいない俺達の陣営に勝ち目はない、か。
となればとるべき道は決まっている。
「フランク、エミリー」
だが、アカツキ達はチームだ。他の意見を無視するわけにはいかない。
後ろの二人を見る。
「判断はお前に任せるよ」
「あたしも任せた。頭使うの苦手だしね」
二人の回答に、アカツキは黙って頷く。
「分かった。その話、受ける事にするよ」
「ありがとうございます」
シャノンは軽く一礼した。
シュタールも主に習うように軽く礼をする。
「それじゃあ、うちの班はシャノン、いやシュタールさんをいれて5人って事でいいね」
「異論はない」
「あたしはこの女あまり好きじゃないけど、まあアカツキとフランクが決めたならいいよ」
先程の事を根に持っているのかエミリーは少しむくれている。
「ではこれで私の加入を認めていただける、と言う事でいいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼むよ、シャノン」
「それでは、よろしくお願いします」
シャノンはそう言って、手を差し出した。
暫しの間のあと、それが握手を求めているのだと気づいた。
「こちらこそ」
アカツキはシャノンの手を握り返す。
白く細い少女の手だ。
アカツキは、その手をしっかりと握った。
「では、まずは早速の問題なんだけど――」
「新たな拠点決め、か」
アカツキの言葉にフランクが答える。
さきほどの戦闘で、この小屋は防衛機能がほとんどなくなっている。
雨風を凌ぐことすらできないのでは話にならない。
それに、結構な騒ぎを起こしてしまった。他の陣営に嗅ぎつけられる可能性は十分にありえる。
「ここはもう使えないよね?」
エミリーが呆れたように小屋の跡地を見る。
「そりゃそうだろ。まさか二度も拠点を変える必要があるとはね」
「そうぼやかないでいこう。他の拠点を見つけれればいいわけだし」
アカツキは慰めるようにフランクの肩を叩いた。
「それならば、私に場所の心当たりがあるのですが」
シャノンの口から提案で出た。
「へえ、どこ?」
「ここから三百メートルほど歩いた先にある、湖の湖畔にある建物です。本来は、釣りを楽しむ生徒達のために釣り道具一式が置いてある小屋なのですが、、このスクールバトルロイヤル中は解放されているそうです」
「なるほど。 ……じゃあ、そこにする?」
「特に不満はないな」
「このままじゃあ、寝ることすらできないしね」
フランクとエミリーも頷く。
「じゃあ、その小屋まで案内してくれよ、シャノン」
「分かりました」
こうして、5人はシャノンの案内により、新たな拠点を目指して歩き出した。




