第79話:置いてきたもの
アルネへ戻った頃には、もう夕方になっていた。
結局、今日は荷物をほとんど回収できなかった。しかも、回収するために借りた荷車まで置いてきてしまったので、何のために出かけたのかわからないような結果になっている。
「これ、報酬どうなるんだろうな」
ネイトがギルドの入口で呟いた。
「危険があったら中止していいって条件だっただろ。まずは報告してからだ」
ロルフに言われ、俺たちは中へ入った。
受付にはセラがいた。俺たちが四人揃っているのを見ると、依頼書を取り出す。
「お帰りなさい。荷物の回収はいかがでしたか?」
「途中までだな。残念だが、また林の方で何か動いていてな。撤収してきた」
ロルフがそう答えると、セラは手を止めた。
「魔物ですか?」
「姿は見ていない。ただ、林から複数の足音がしたそうだ。前の時と同じ辺りだし、無理はしなかった」
「そうでしたか……」
セラは俺の方を見た。
「ライアスさんが聞いたんですか?」
「はい。最初は遠かったんですけど、だんだん近づいてきて。結局、荷車を置いて逃げることになりました」
「それは大変でしたね。皆さんに怪我はありませんか?」
ロルフが全員を見回した。
「大丈夫だ。怪我はない」
「それならよかったです」
セラが記録を取り始めたところで、奥からギルドマスターが出てきた。
「またあの辺りか?」
「ああ。前に荷車が落ちていた場所だ」
ロルフが状況を説明する。
林から聞こえた音のこと。回収できた荷物は小箱が二つだけだったこと。帰り道でも音が近づいてきたため、回収用の荷車を置いて逃げたこと。
そして、俺が茂みに網を置いてきたことも話した。
「……網?」
ギルドマスターが俺を見た。
「お前、この前買ったやつか?」
「はい。あれです」
「それで、どうなった?」
「わかりません。ちゃんと広がらなかったですし、何かが引っかかったかどうかも見てないので」
「そうか」
ギルドマスターは少し考えてから、ロルフへ向き直った。
「荷車を置いた場所は覚えてるな?」
「ああ。街道の端だ。場所はわかる」
「なら、明日もう一度確認させよう。今度は警戒に回る人間を増やす。荷車だけじゃなく、あの辺りの様子も見てきてもらいたい」
「わかった。ただ、また危なそうなら引き返すぞ」
「それでいい。無理に討伐しろとは言わん」
ギルドマスターはそう答えると、近くにいた職員へ声をかけた。
どうやら、追加で同行する冒険者を探してくれるらしい。
俺はロルフの横で、そのやり取りを聞いていた。
……明日も行くのか。
正直、同じ場所へ何度も行きたいとは思わない。
でも、荷車も網も置いたままだ。
網は買ったばかりだったし、できれば持って帰りたい。
「あの、俺も明日行っていいですか?」
ロルフがこちらを見た。
「お前、また網を試すつもりじゃないだろうな」
「違いますよ。置いてきたのを回収できればと思って」
「それだけか?」
「……あと、どうなったのかはちょっと気になります」
そう答えると、ネイトが笑った。
「やっぱり気になるんじゃねえか」
「そりゃ、気にはなりますよ」
「まあ、俺も気になるけどな。あれで何か引っかかってたら面白いだろ」
リーザも少し笑ったが、ロルフは腕を組んで考えていた。
「一緒に来るなら、今度は勝手に動くなよ。それと、網の確認は周りが安全だとわかってからだ」
「はい。わかりました」
「なら、いいだろう」
ロルフは頷き、ネイトとリーザにも確認した。
二人とも異論はないらしい。
結局、明日も同じ四人で参加することになった。
報酬については、明日の確認も含めて改めて話すことになり、俺たちはギルドを後にした。
◇
翌朝、ギルドの前にはロルフたちのほかに、二人の冒険者が待っていた。
今回は荷物の回収だけでなく、周辺の安全を確認する仕事でもあるので、警戒する人数を増やしたらしい。
簡単に挨拶を済ませると、ロルフが今日の段取りを説明してくれた。
「まずは荷車を置いた場所まで行く。林の様子を見て、問題がなさそうなら回収する。その後、残りの荷物を運べるか判断する。危険があれば、荷物は諦めるぞ」
「了解」
「わかった」
俺も頷いた。
それから六人でギルドを出て、ベルド方面の街道へ向かった。
◇
以前の場所が近づくと、ロルフが歩く速度を落とした。
「この先だな」
俺も道の先を確かめた。
昨日、荷車を置いた場所まではまだ少し距離がある。林は相変わらず街道に沿って続いていて、木々の間から奥の様子を見通すことはできなかった。
耳を澄ませると、鳥の声や風に揺れる葉の音が聞こえてくる。
それに混じって、時々、何かが草を動かすような音もする。
ただ、昨日のように複数のものが走ってくる音は聞こえなかった。
「ライアス、何か気になるか?」
ロルフに尋ねられ、俺は首を傾げた。
「今のところは、よくわからないです。小さい音はいくつかしますけど」
「そうか。じゃあ、このまま慎重に進もう」
前を歩く冒険者の一人が、林の方を確かめながら進んでいく。
俺も道の先だけでなく、昨日音がしていた辺りへ時々耳を向けた。
しばらく歩いたところで、ネイトが前を指差した。
「お、あったぞ」
街道の端に、見覚えのある荷車が止まっていた。
昨日、俺たちが置いてきたものだ。
積んだ小箱も、そのまま残っているようだった。
「とりあえず、荷車は無事みたいだな」
ロルフが言った。
すぐに近づくのではなく、まず周囲を確認する。
追加で来た二人が林の方を警戒し、その間にネイトが荷車の状態を確かめた。
「車輪も問題なさそうだ。これなら動かせるぞ」
「よし。先にこいつを少し広いところへ移そう」
ロルフの指示で、荷車を動かす。
その間、俺は昨日網を置いた場所を探していた。
確か、この辺りだったと思うんだけど……。
茂みが続いているので、少し離れたところからでは見分けがつかない。
ただ、昨日は網の半分ほどが枝に引っかかっていた。
残っているなら、どこかに見えるはずだ。
そう思って目を凝らしていると、林の中から妙な音が聞こえた。
草を踏む音。
それに、何かが強く引っ張られて、枝がきしむような音が混じっている。
……ん?
俺は耳を澄ませた。
少し間を置いて、また同じ辺りから音がした。
昨日とは違い、移動している感じがしない。
何かが動いているのに、音のする場所がほとんど変わらない。
「ロルフさん、ちょっといいですか?」
「どうした?」
「あの辺りで何か動いてるみたいです。さっきから、ずっと同じ場所で」
俺が指差すと、ロルフはそちらへ目を向けた。
「昨日の場所か?」
「たぶん、そうです」
「網を置いた辺り?」
リーザに聞かれ、俺は頷いた。
「そうだと思います」
その時、茂みの奥で枝が大きく揺れた。
ガサガサッ、と草が擦れ、何かが地面を蹴るような音がする。
ロルフが剣へ手をかけた。
「全員、いったん離れろ」
俺たちは荷車から少し距離を取り、林の方へ向き直った。
追加で来た冒険者の一人が、横から様子を確かめに行く。
もちろん、茂みの中へは入らない。街道側から見える範囲を回り込むだけだ。
しばらくして、その男が足を止めた。
「……おい、何かいるぞ」
ロルフがすぐに近づいた。
俺も少し離れたところから、茂みの方を見る。
草が揺れている。
その奥に、茶色っぽいものが見えた。
……あれ?
「魔物だな」
ロルフが言った。
「一匹か?」
ネイトが尋ねると、林の奥を確認していた冒険者が答えた。
「見えてるのは一匹だ。ほかはわからん」
俺も耳を澄ませたが、近くで大きく動いているものは、その一匹以外にはわからなかった。
もちろん、林の奥まで安全だと判断できるわけじゃない。
ロルフは慎重に位置を変え、茂みの様子を確かめた。
そして、妙な声を出した。
「……ん?」
ネイトが横から覗き込む。
「どうした?」
「いや、あれ……」
ロルフが俺を振り返った。
「ライアス」
「はい?」
「あれ、お前の網じゃないか?」
「え?」
俺も茂みの方を見た。
茶色い身体の周りに、細い縄のようなものが見える。
最初は枝かと思ったが、よく見ると網目になっていた。
それが魔物の後脚へ絡まり、さらに木の枝へ引っかかっている。
魔物が身体を動かすたびに網が引っ張られ、枝が大きく揺れた。
……え?
「……引っかかってる?」
俺が呟くと、ネイトが横から顔を出した。
「おいおい、本当に引っかかってるじゃねえか!」
「……そうですね」
「お前、そんなに驚くのかよ」
いや、だって。
昨日は半分くらいしか広がらなかったし、ちゃんと使えるかどうかもわからなかったんだぞ。
それが、まさか本当に魔物に絡まっているなんて。
俺はもう一度、茂みの奥を見た。
四足の魔物は、何とか抜け出そうとしているらしい。
後脚を強く引くたびに、網が引っ張られている。網の一部はすでに切れていたが、別の部分が脚へ巻きつき、木の枝にも絡んでいた。
魔物が引っ張れば引っ張るほど、身体の向きが変わり、うまく脚を抜けなくなっているようだった。
ただ、じっとしているわけではない。
時々、後脚で地面を強く蹴り、身体ごと網を引きずろうとしている。
そのたびに枝がきしみ、網の縄が張った。
……これ、いつまで持つんだろう。
「近づくなよ」
ロルフが言った。
「まだ動けるし、網が切れたら飛び出してくるかもしれん」
「はい」
俺は少し後ろへ下がった。
実際、魔物の前脚は自由に動いているようだし、身体もかなり大きく揺れている。
一匹だからといって、安全なわけではなさそうだった。
「どうする?」
ネイトが尋ねた。
「このまま放っておくわけにもいかんだろうな。街道のすぐ脇だ」
ロルフはそう答えると、同行した二人へ目を向けた。
「周囲の警戒を頼めるか?」
「ああ。そっちは任せろ」
「わかった」
二人が位置を変え、林の方へ注意を向ける。
ロルフはネイトとリーザに声をかけ、魔物の動きを確かめ始めた。
俺は荷車の近くに残る。
こんな時こそ耳を使った方がいいのかもしれないが、目の前の魔物の音が大きく、林の奥で何が動いているのかまではよくわからなかった。
少なくとも、今は余計なことをしない方がよさそうだ。
「ネイト、正面には立つなよ」
ロルフが声をかけた。
「ああ。わかってる」
ネイトが横へ回ると、魔物はそちらへ身体を向けようとした。
その途端、後脚に絡まった網が強く引っ張られる。
枝が嫌な音を立てた。
「気をつけろ!」
ロルフの声が飛んだ。
魔物が前脚で地面を蹴り、身体を前へ出そうとする。
引っ張られた網の一部が切れ、身体が大きく動いた。
俺は思わず息を呑んだ。
けれど、後脚にはまだ縄が残っている。
動こうとした勢いで足を取られ、魔物は身体を傾けた。
そこへリーザが横から槍を突き出し、ロルフも剣を振るった。
魔物は何度か暴れたものの、やがて地面へ倒れ、そのまま動かなくなった。
すぐに近づこうとした俺を、ネイトが手で制した。
「まだ待て」
ロルフは剣を構えたまま、魔物の様子を確かめている。
動かないことを確かめてから、ようやく剣を下ろした。
「……よし」
ネイトが息を吐いた。
周囲を警戒していた二人も、しばらく林へ目を向けたままだった。
俺はその様子を見てから、ようやく肩の力を抜いた。
「こいつはどうする?」
ネイトが倒れた魔物を見た。
「そうだな。荷物を回収する前に、使えるものがあるかだけ確認するか」
ロルフがそう答えたところで、俺はふと気になった。
「これって、食べられる魔物ですか?」
「食えなくはないが、まずいぞ」
ネイトが答えた。
「そうなんですか?」
「肉が硬いんだよ。わざわざ持って帰って食う奴は、あんまりいねえな」
前に《緑の風》と一緒に魔物を倒した時は、肉を分けてもらって食べた。あれは普通に食べられたけど、魔物によって随分違うらしい。
そういえば、俺は目の前のこいつが何なのかも知らない。
「あの、これって何ていう魔物なんですか?」
「ラグルだ。知らなかったのか?」
ロルフが答えた。
「はい。そういえば、魔物の名前ってあまり知らないんですよね」
「こいつはこの辺じゃ珍しくもないぞ」
「そうなんですか」
ラグル、か。
今まで何度も魔物に遭遇してきたのに、どれが何という名前なのか、ほとんど気にしてこなかった。
「魔物っていうからには、何か魔力を使ってるんですよね。こいつは何が違うんですか?」
「ラグルなら、毛と皮が硬いな」
「魔力で硬くしてるんですか?」
「たぶんな」
「……たぶん?」
ロルフは魔物の背中へ目を向けた。
「何にどう魔力を使ってるかなんて、俺たちにはわからんからな。似たような狼と比べて、こいつの毛や皮が硬いのは確かだ。だから、そういう魔力の使い方をしてるんだろうって言われてる」
「じゃあ、本当にそれが魔力のせいなのかは、わからないんですね」
「そういうことだ。こいつが硬いのは間違いないけどな」
なるほど。
魔物の特徴として知られていることでも、全部がはっきりわかっているわけじゃないらしい。
「ちなみに、肉も硬いぞ」
ネイトが横から言った。
「それはさっき聞きましたよ」
「大事なことだからな」
ネイトが笑った。
「じゃあ、皮も使い道がないんですか?」
俺が尋ねると、ロルフは首を振った。
「いや、防具の材料にはなる。ただ、この辺じゃラグルなんてしょっちゅう見かけるからな。皮を剥いで持ち帰っても、大した金にはならん」
「そうなんですか。硬いなら、結構よさそうなのに」
「使えることと、高く売れることは別だからな」
「なるほど……」
「今回は荷物を取りに来たんだ。ほかの魔物がいるかもしれない場所で、わざわざ解体するほどじゃない」
「じゃあ、このまま置いていくんですね」
「ああ。討伐依頼でもないから、証明のために何か持ち帰る必要もない。倒したことは帰ってから報告しておこう」
俺は頷いた。
そういえば、前に食べた魔物の名前だって知らないままだ。
……魔物についても、もう少し知っておいた方がいいのかもしれない。
◇
魔物の処理はせず、絡まった網だけを外すことになった。
ただ、これがまた大変だった。
魔物の脚へ絡まった部分は、簡単にはほどけない。何本かの縄が強く締まっていて、木の枝にも複雑に引っかかっていた。
「これ、どうやってかかったんだろうな」
ネイトが呟いた。
「さあな。暴れてるうちに余計に絡まったんじゃないか?」
ロルフが答える。
俺も近くで網の状態を見ていたが、昨日どういう順番で絡まったのかまではわからなかった。
ただ、最初に茂みへかぶせた時とは随分違う形になっている。
網の端は木の枝へ何重にも引っかかり、途中の縄も何本か切れていた。
「ライアス、これ全部ほどくのは大変だぞ」
ネイトが言った。
「そうですよねえ……」
「切れてるところもあるし、もう使えないんじゃないか?」
せっかく買った網だけど、さすがにこのままでは使えそうにない。
それでも、全部捨ててしまうのはもったいなかった。
「持って帰って、直せるかどうか見てみます」
「そうか。じゃあ、切らずに外せそうなところは外してみるか」
「ありがとうございます」
ロルフたちに手伝ってもらい、何とか網を回収した。
完全に元の形へ戻すことはできず、途中でどうしても外れない部分は縄を切ることになった。
泥もついているし、草や小枝まで絡まっている。
……ひどい状態だな。
それでも、全部が駄目になったわけではなさそうだった。
俺は破れたところを確かめながら、できるだけ小さくまとめた。
「しかし、あれで本当に引っかかるとはなあ」
ネイトが感心したように言った。
「俺も、ちょっとびっくりしました」
「ちょっとどころじゃなかっただろ。さっき固まってたぞ」
「……そうでした?」
「そうだったぞ」
リーザが笑った。
「でも、よく思いついたよね。茂みに網をかぶせるなんて」
「いや、あの時は逃げることしか考えてなかったんですけど」
「だから、そのために何かしようとしたんでしょ?」
「まあ、そうですね」
そう言われると、確かにそうなのかもしれない。
ただ、昨日の俺は、魔物を捕まえようと思ったわけではなかった。追いかけてきた時に、少しでも動きにくくなればいい。
それくらいのつもりだったんだ。
「ライアス」
ロルフが声をかけてきた。
「はい」
「今回は確かに網に引っかかっていた。でも、いつ引っかかったのかも、ほかにいたやつらがどこへ行ったのかもわからん」
「はい」
「これが使えるかどうかは、もう少し考えた方がいいだろうな」
「そうですね」
ロルフはそれ以上、網について何も言わなかった。
代わりに、街道の方を見た。
「さて、そろそろ仕事に戻るか」
「おう」
ネイトが立ち上がる。
俺も網を抱え直し、荷車の方へ戻った。
◇
その後は、予定していた荷物の回収を続けた。
もう一度周辺を確認してから、壊れた荷車が落ちていた斜面へ向かう。
今回は追加の二人が警戒を引き受けてくれるので、俺たち四人は荷物を運ぶ作業に集中できた。
ただ、大きく壊れた箱や、持ち上げるのが難しいものまでは無理に運ばない。
持ち帰れるものを選び、借りた荷車へ積んでいく。
昨日よりは作業が進んだが、全部を回収できたわけではなかった。
「これくらいだな」
ロルフが荷台を見た。
「これ以上積むと、今度は帰りが大変そうだ」
「そうですね」
俺も頷いた。
荷台には小箱や袋がいくつか積まれている。
その隅には、俺の網も置いてあった。
最初に買った時のようにきれいに畳めてはいない。小枝が引っかかっているところもあるし、切れた縄が何本か飛び出している。
「……一回でこれか」
思わず呟くと、ネイトが笑った。
「一匹引っかかったんだから、上出来じゃねえか?」
「そうですかね」
「少なくとも、何の役にも立たなかったわけじゃないだろ」
……まあ、それはそうだ。
網を置いた場所へ魔物が来なければ、何も起きなかったはずだ。今回はたまたま引っかかってくれた。
それに、昨日すぐに追いかけてこなかった理由が網のおかげなのかどうかもわからない。
でも、あの網に魔物が引っかかっていたのは確かだ。
俺は荷車の隅にある網を見た。
……もう少し丈夫だったらな。
そう思ったところで、今度は別のことが気になった。
丈夫な縄に替えたら、もっと重くなるんじゃないだろうか。今だって持ち歩くのに苦労しているのに、これ以上重くなったら困る。
それに、全部を丈夫にする必要があるんだろうか。
……うーん。
考え始めると、またわからなくなってきた。
「ライアス、そろそろ行くぞ」
ロルフに呼ばれ、俺は顔を上げた。
「はい!」
ネイトが荷車を引き始める。
俺もその横へ並び、車輪が道の端へ寄りすぎないようにしながら歩いた。
今日はちゃんと荷物を持って帰れそうだ。
それに、網も取り戻せた。
……まあ、修理は必要そうだけど。
俺は荷台の隅をもう一度確かめてから、前を向いた。




