第8話:気になる音
次の日に受けたのは、店の倉庫を片づける仕事だった。
今度は一人ではない。
俺を入れて四人の冒険者が同じ依頼を受けている。
他の冒険者と一緒に働くのは初めてのことだ。
依頼内容は、店の奥に積まれている箱や棚を動かして使っていないものをまとめること。
昨日の棚卸しよりは分かりやすい。
箱を持つ。
運ぶ。
他の場所に置く。
まずはそれだけだ。
「おーい、そっち持ってくれー」
「はい」
箱の反対側に回り、木箱の端を持ち上げる。
結構重い。
一人なら無理だが、二人なら何とかなる重さ。
だが、重いものは重い。
「せーの」
合わせて持ち上げ、壁際へ運び床へ下ろす。
次。
今度は棚だった。
見た目よりは軽いがそれでも重い。
二人で少し浮かせて、そのまま横へずらしていく。
ぎ、と木が鳴った。
俺は気になって足を止める。
「どうしたんだ?」
向かい側の男が聞いた。
「今、変な音しませんでした?」
「音?」
「この棚から」
男が棚を見る。
「まあ、動かしてるんだから鳴るだろ」
「そうなんですけど」
もう一度、少しだけ動かす。
ぎ。
さっきと同じ音。
ただ木が擦れる音にも聞こえる。
でも、その後にもう一つ。
き、と短い音が混じった。
俺は棚の横を見る。
「ちょっと待ってください」
「何だよ」
「一回下ろしましょう」
「置き場までもう少しだぞ?」
「そうですけど、一回下ろしてください」
少し怪訝な顔をされたが、男は従ってくれた。
二人でいったん床に下ろす。
近くで作業していた残りの二人もこっちを見ている。
「何かあったのか?」
「まだちょっとわかりません」
言いながら俺は棚の下を見る。
特に何もない。
横も見る。
次に後ろ。
見た目では分からない。
「どこが気になるんだ?」
「ここら辺から音がしたんです」
棚の側面を軽く押してみる。
き。
また鳴った。
「これです」
「……今の?」
「はい」
男たちが顔を見合わせる。
一人が棚へ近づき、横から覗き込んだ。
「あ」
「何かあった?」
「留め具、浮いてるな」
指で示された場所を見る。
棚板を支えている金具の一つが、少しだけ外れかけていた。
上には箱がいくつか乗っている。
「これ、このまま動かしてたら外れてたかもな」
そう言いながら、男が箱を一つ下ろす。
他の二人も手伝う。
全部下ろしてから棚を確認すると、金具の根元が少し歪んでいた。
「ちょっと危なかったな」
「そうですね」
棚が壊れるほどだったのかは分からない。
そのまま動かしても何も起きなかったかもしれない。
ただ、気になった。
それだけだ。
「よく分かったな」
一緒に棚を運んでいた男が言う。
「音がしたので」
「したか?」
「しましたよ」
「俺には分からなかったけどな」
男が首を傾げる。
そう言われて、少しだけ黙る。
《聴力強化》。
たぶん、それだ。
「俺、耳がいいらしいんで」
「らしいって何だよ」
「最近知ったんです」
男が笑った。
「変なやつだな」
「自分でもそう思います」
言いながら、下ろした棚を持ち直す。
話していても片づかない。
棚は店の人間に伝えて、その場では使わないことになった。
別の棚を動かすが、今度は何も鳴らない。
箱を運ぶ。
空いた場所を箒で掃く。
次の箱をまた動かす。
途中で何度か音がして、そのたびに一瞬気になった。
でも全部が全部、止めて確かめるようなものではない。
木が擦れる音。
床板が鳴る音。
荷物の中身が揺れる音。
さっきの音とは違っている。
◇
仕事が終わる頃には、腕がかなり重くなっていた。
結局、変な音がしたのは最初の棚だけだった。
特別何かすごいことをした感じはない。
棚が壊れる前に気付けただけだ。
倉庫での仕事が終わったので、ギルドへ戻り報告する。
今回はセラではなかった。
強面の男に、棚の留め具が外れかけていたことも伝える。
「そのまま運んで壊れてたら、危なかったな」
「はい」
「弁償しろってクレームが来なくて良かったぜ」
こちら側のせいにされる可能性もあったらしい。
報酬を受け取る。
これで今日の仕事は終わりだ。
ギルドを出ようとしたところで、後ろから声がした。
「ライアスさん」
振り返る。
セラだった。
掲示板の方からこちらに歩いてきた。
「今日、何かあったんですか?」
「棚の留め具が外れかけていました」
「よく分かりましたね」
「音がしたので」
「音?」
「はい」
セラが少しだけ首を傾げる。
「他の人にも聞こえたんですか?」
「いや」
答えてから、一度考える。
「たぶん、俺だけです」
「やっぱり耳が良いんですね」
それだけだった。
何か言われるかと思ったが、セラはそれ以上聞かなかった。
ギルドの外へ出る。
町は今日も騒がしい。
荷車の車輪の音。
通りを歩く人の声。
店の戸を閉める音。
聞こえてくる音は多い。
そのほとんどは、聞こえていても気にならない。
でも、さっきの棚の音は気になった。
鼠の時もそうだった。
小鳥の時も。
聞こえた音が全部気になるわけじゃない。
じゃあ、何が違うんだろうな。
答えは分からない。
次にまた何か気になる音がしたら、少しだけ意識して聞いてみようと思った。




