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地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


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幕間:根を張る場所

朝、モレルは鳥の声で目を覚ました。


薄暗い部屋で身を起こし、窓の外に広がる畑を見る。町にいた頃、窓から見えたのは向かいの建物や通りを歩く人々だった。ここでは、少し身を乗り出せば、昨日植えたばかりの植物が見える。


「……よし」


寝具を片づけ、外へ出ようとしたところで足を止めた。


ライアスには、食べ物のこともちゃんと考えるように言われていた。


「そうだった。朝ご飯」


昨日の残りのパンと保存食で簡単に朝食を済ませ、外へ出る。朝の空気はまだ冷たかった。


昨日、ライアスを見送った後、畑の一角に研究用の植物を植えた。家に近い場所と少し離れた場所に分け、日当たりや土の乾き方の違いを比べるつもりだった。


モレルは最初の株を覗き込んだ。葉の色も茎の状態も悪くない。土の表面には、昨日の水分がまだ残っていた。


「うん。こっちは大丈夫そうだね」


次の株は葉先が少し下がっている。根元の土も乾いていた。


「水がいるな」


モレルは手をかざし、空気中の水分を集め始めた。《水魔法適性》はあるものの、集められるのはほんの少しだけだ。


正直、水を汲んでくる方が早い。それでも、小さな植物を湿らせる程度なら役に立つ。


しばらく集中すると、指先に小さな水の粒が現れた。しかし、いつもより集まりが遅く、量も少ない。


「おかしいな……今日は乾いてるのかな?」


空は晴れていて、確かに空気も乾いているように感じる。


集めた水を葉の根元へ落とすと、土に小さな染みができただけだった。


「これじゃ足りないな」


モレルは家の脇から桶を取り、水場へ向かった。


◇


水場への道は、ライアスに教えてもらっていた。村では畑へ向かう人や、家の前で道具を手入れする人の姿が見える。


途中、男に声をかけられた。


「おう、学者さん。もう仕事か?」


「おはようございます。畑の植物に水をやろうと思いまして」


「朝から熱心だな。水場はわかるのか?」


「ええ。ライアス君に教えてもらいました」


「そうか。何かわからんことがあったら聞きな」


礼を言って別れる。町では研究の話をすると不思議そうな顔をされることが多かったが、この村では畑に水をやると言えば、それで納得されるらしい。


水場で桶を満たして戻る途中、モレルは道端の小さな草に気づいた。細い茎から伸びた葉が地面に沿って広がっている。アルネ周辺で見かける種類に似ていたが、葉先の形が少し違う。


桶を置いてしゃがみ込み、鞄から記録用の紙を取り出す。葉の形と見つけた場所を描き、根元の土にも触れた。畑の端より柔らかく、少し湿っている。


「水かな。それとも土か……」


日当たりも違う。考え始めると確かめたいことが増えていく。


「……帰ってからにしよう」


記録をやめ、紙を鞄にしまい桶を持ち上げる。草の場所は覚えた。次に来る時は採取用の道具を持ってこよう。


◇


家へ戻ると、乾いていた株から順に水をやった。土の状態を確かめながら量を変え、ほかの株も見て回る。


「やっぱりこっちの方が早いな」


水魔法とは比べものにならない量が、土へゆっくり染み込んでいく。植えたばかりで何が適しているかはまだわからないが、何日か様子を見て変化を比べるつもりだった。


水やりを終えて家へ戻り、箱から記録用の紙を取り出す。ライアスと相談して窓際に置いた棚には、採取道具や紙が並んでいた。


机に紙を広げ、植えた種類や場所、土の状態、朝に気づいた葉の様子を書き込む。


ふと窓の外を見る。少し歩けば、先ほどの草が生えている道がある。ここなら採取した植物を同じ場所で観察でき、畑も一定の条件で調べられる。


町では部屋や植物を育てる場所を確保するだけでも苦労した。ここを借りられたことはありがたかった。


「……助かったなあ」


土が乾きやすい場所や水が溜まりやすい場所まで、ライアスはよく知っている。帰ってきたら、畑で毎年最初に草が伸びる場所を聞いてみようと、紙の端に書き足した。


◇


記録を整理した後、昨日採った植物を机に並べた。アルネ周辺のものとリンの村で見つけたものはよく似ているが、同じ種類かはまだわからない。


片方は葉が少し広がり、もう片方は上を向いている。採取場所や植え替えた時の状態が違うため、傷みの差かもしれなかった。


モレルは角度を変え、葉の裏まで見比べる。しばらく考えた後、紙に書き込んだ。


まだ違いがあると決めるには早い。数日後に同じ姿になるか、逆に差が広がるかを見なければならない。


「もう少し見てみないとな」


鉢を戻すと、指先に土がついた。布で拭い、机の上に落ちた土も片づける。ライアスが長く使ってきた机を、研究道具で傷めるわけにもいかない。


◇


昼が近づき、モレルは再び畑へ出た。朝より日が高くなり、家の影にも光が届いている。


研究用の株を見て回った後、隣の空いた畑へ目を向ける。去年までライアスが作物を育てていた場所だ。野菜を作る話は出ているものの、豆にするか芋にするか、まだ決まっていない。


ライアスは最初は一種類がよいと言っていた。食べるためなら、まず収穫できるものを選ぶべきだろう。それでも、種類による育ち方の違いは気になった。


「……まあ、それは後で考えよう」


モレルは研究用の株へ戻った。葉が少し下がっているものに気づき、手をかざしかけてやめる。


「……いや、汲んだ方が早いな」


桶は家の脇にある。今日見つけた草や畑の土について、まだ確かめたいことは多い。水を汲んだら、朝と同じ場所をもう一度見てみよう。


その前に、昼飯も食べなくてはならない。


「……先にご飯かな」


モレルは家を見て、桶を持ったまま笑った。


「またライアス君に言われちゃうからね」


水を汲みに行くのは、昼飯を食べてからでもよさそうだった。

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