第5話:町の外の仕事
次の日も、朝からギルドへ向かった。
安宿には連泊する旨を伝え、先に宿代は払ってきた。
当日の宿を先に確保しておく。
しばらく町で過ごすなら、拠点は確保しておいた方がいいと思った。
荷物を置いて身軽に動けるというのも理由の一つだ。
ギルドに到着する。
俺はもう冒険者だ。
昨日よりは躊躇わずに入れる。
受付の前にはすでに何人か並んでいて、掲示板の前にも人がいた。
昨日は何が書いてあるのか分からず眺めていたが、今日は最初から自分が受けられそうなものを探す。
荷運び。
店の手伝い。
清掃。
届け物。
昨日と似たようなものも多い。
その中の一つに、町の外での採取依頼があった。
指定されたものを集めて持ち帰る。
依頼の紙を読む限り、それほど遠くまで行く必要はないらしい。
少し迷う。
町の中の仕事でもいい。
昨日の掃除は大変だったが、危ないことは何もなかった。
それでも、せっかく一週間ここにいる。
同じような仕事ばかり選ぶ必要もない。
俺は採取依頼の紙を持って受付へ行く。
今日はセラはいなかった。
ちょっと強面の男が座っている受付に向かう。
セラ以外に受け付けてもらうのは初めてだ。
「これ、受けられますか」
紙と冒険者証を渡す。
男は俺と紙を見比べた。
「問題ない」
それから、紙の端を指で叩いた。
「ただし、書いてある範囲からは出るなよ」
「範囲?」
「採る場所だ。町を出て道沿いに進めば分かる。そこから先には行くな」
「何かあるんですか」
「魔物が出ることもある」
少し間が空いた。
「出るんですか」
「町の近くまで来ることもある。だから見つけたら戻れ。戦おうとするな」
「分かりました」
戦う気はない。
そもそも、どうやって戦えばいいのかも分からない。
村で少しだけ狩りをしたことはあるが、あれは動物だ。
魔物と呼ばれる存在とは勝手が違うだろう。
知らないままでいるより、知っておいた方が安全だと思い聞いてみる。
「動物の狩りはしたことがあるんですが、魔物と動物って何が違うんですか」
男は少し考えた。
「一番分かりやすいのは、魔力をどう使って生きてるかだな」
「魔力?」
「ああ。狩りをする時だったり、身を守る時だったり。そういう生きるための部分で魔力をはっきり使ってるやつを、だいたい魔物って呼んでる」
「じゃあ、完全に別の生き物ってわけじゃない?」
「そういう分け方じゃないな。人間がそう呼び分けてるだけだ」
思っていたより曖昧だった。
動物と魔物で、最初から何かがきっぱり分かれているわけではないらしい。
「見れば分かります?」
「知ってるやつならな。知らないやつを見つけたら、近づく前に戻ってこい」
「分かりました」
結局、それが一番大事らしい。
魔物かどうかを自分で確かめに行く必要はない。
「あと、採取に夢中になって奥へ入るな。目当てのものが見つからなかったら、その日は諦めろ」
「はい」
念を押される。
俺は紙と冒険者証を返してもらい、採取場所と採ってくるものをもう一度確認した。
◇
町の門を出ると、空気が少し違っていた。
町から見て、村とは逆の方向。
今までは村と町を行き来するだけだったので、こちら側の門から外に出たことはないし、町を越えたこともなかった。
別に何か特別な匂いがするわけではない。
だが、村と町を繋ぐ道とはまた違った空気を感じた。
少し歩くだけで、《聴力強化》を持つ俺の耳からも人の声が減っていった。
荷車の音も、店の呼び声も遠くなる。
道沿いを進んでいく。
前の方には、武器を持った何人かの冒険者がいた。
剣。槍。弓。
鎧。盾。兜。
昨日までの俺なら、たぶんああいう連中を冒険者だと思っていた。
その少し後ろを、籠を持った俺が歩いている。
同じ冒険者らしい。
変な感じだ。
彼らは途中で道を外れ、そのまま森の方へ入っていった。
村の近くの森とは違う、少し張り詰めた雰囲気を感じる森だ。
彼らはあの装備でこのあと何と戦うのだろう。
これまで見てきた中で一番と言えるぐらい強そうに見えた。
俺は森には入らない。
◇
言われた場所まで行き、依頼に書かれていたものを探す。
採取そのものは難しくなかった。
見つける。
しゃがむ。
採る。
土を軽く払って籠へ入れる。
それを繰り返す。
村でも畑の周りや林へ入ることはある。
だから、こういう作業自体はそれほど珍しくはない。
違うのは、ここが自分の知っている土地ではないことだった。
どこまで行けば何があるのか分からない。
どの辺りなら安全なのかも知らない。
だから俺はギルドで言われた道から離れすぎないようにする。
少し先に目的のものが多く生えている場所が見えても、そこが範囲の外なら行かない。
一度、近くの茂みで何かが動いた気がする。
手が止まる。
耳を澄ます。
がさ。
もう一度。
小さい。
しばらく待っていると、草の間から鳥が飛び立った。
思わず息を吐く。
「びっくりさせるなよ」
鳥に言っても仕方がない。
昨日、《聴力強化》で鼠を見つけた。
今日もこの耳があれば、魔物が近づいてきた時に先に気づけるのかもしれない。
そう考えかけて、やめる。
本当に分かるかどうかは知らない。
鳥と魔物が同じ音を立てるとも限らない。
聞こえるから安全、とはならないだろう。
採取を続ける。
途中で何度か籠の中を確認した。
まだ少ない。
もう少し。
少しずつ増えていく。
日が高くなった頃には、依頼に必要な量が十分集まっていた。
念のため数え直す。
足りている。
これ以上採っても仕方がない。
俺は籠を持ち上げ立ち上がる。
町へ戻ろう。
◇
町へ戻る途中、行きに見かけた冒険者たちはいなかった。
まだ奥にいるのかもしれない。
何をしているのかは分からない。
強い魔物を探して討伐するのか。
別の仕事なのか。
まさかあの装備で採取ということもないだろう。
いや、森深くの採取であればあり得るのか。
まあ考えても分からないが、そうこうしているうちに町の門が見えてくる。
何もなかった。
魔物にも会わなかった。
危ない目にも遭わなかった。
採るものを採って、戻ってきただけだ。
ギルドで報告をすると、採ったものを確認された。
量を数えられる。
問題なかったらしい。
今回の依頼は完了。
報酬を受け取る。
昨日ほど何度も数えたりはしなかった。
一度だけ確認して、財布へ入れる。
少しずつ増えている。
「町の外はどうでした?」
横から声がした。
見ると、セラだった。
「思ったより普通でした」
「普通?」
「採るものを採って、帰ってきただけです」
「それでいいんですよ」
あっさりそう言われた。
「何も起きない方がいいですから」
「そうですね」
本当にその通りだ。
セラは受付の方に戻っていった。
冒険者になって二日目。
昨日は倉庫を掃除した。
今日は町の外で草を採った。
今のところ、剣を持つ必要はなさそうだった。
それなら、それでいい。
まだ夕方までは少し時間がある。
朝から歩き回って腹も減った。
まず何か食べよう。
そのあと、もう一度掲示板でも見ればいい。
そう考えてギルドを出る。
村側では聞いたことがなかったが、町の外には魔物がいる。
少なくとも、ギルドの人はそう言っていた。
でも今日は一匹も見なかった。
安全に仕事を終えられた。
そのせいだろうか。
魔物のことよりも、このあと何を食べるかの方が気になり始めていた。




