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地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


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第40話:土の仕事

第40話:土の仕事


翌朝、ギルドへ行くと、掲示板の前がいつもより騒がしかった。


冒険者たちが依頼票を見ながら話し、受付職員が紙を貼り直している。セラも別の冒険者と何か確認していた。


空いている場所から掲示板を覗く。


町の外の道で土砂崩れ。


昨日、エルナが言っていた場所だろうか。


依頼内容は、崩れた場所の確認と通路の確保、それから現地でできる範囲の復旧作業だった。討伐ではないし、俺でも受けられる仕事だ。


「これ、参加できます?」


セラが依頼票を見る。


「はい。現地で人手が欲しいそうです。土を運んだり、石をどけたりする作業もありますから」


「じゃあ、これにします」


「分かりました。ただし、危ない場所へ勝手に入らないでくださいね。昨日から少しずつ崩れているみたいなので」


「少しずつ?」


「一度に全部崩れたわけではないそうです。今朝も小さな崩れがあったと連絡が来ています」


魔物がいるわけではない。


それでも、まだ動いている場所へ近づくのは少し怖かった。


依頼を受け、外へ向かう人たちに混ざる。その中には、昨日聞いた通り《緑の風》の四人もいた。


フェンが俺を見つける。


「あ、棒の人っす」


「名前あるんですけど」


「知ってるっすよ。ライアス」


「じゃあ名前で呼んでください」


「棒の方が早いっす」


横でガイルが笑った。


エルナも俺に気づき、小さく頭を下げる。


「昨日ぶりです」


「昨日言ってた仕事、これだったんですね」


「はい。たぶん」


エルナは少し笑い、道の先へ目を向けた。


◇


崩れた場所までは、アルネから歩いてそれほど遠くなかった。


途中までは普通の道だったが、近づくにつれて荷車の跡が減り、道端に待機する人の姿が見えてきた。


片側が斜面になった道だった。


上から流れてきた土と石が道の半分ほどを塞ぎ、反対側の端も少し削れている。人なら通れるが、荷車同士がすれ違うのは無理そうだった。


道脇では、すでに何人かが作業していた。


依頼主らしい男が、集まった冒険者たちへ説明する。


「でかい石は道の外へ。土は全部どけなくていい。低いところに回して均す。上の斜面には勝手に登るな。まだ落ちてくるかもしれん」


最後の言葉で、何人かが斜面を見る。


俺も目を向けた。


土がむき出しになり、大小の石や折れた枝が混ざっている。見ただけでは、どこが危ないのかまでは分からなかった。


「ライアス」


ガイルに呼ばれる。


「お前はこっち手伝ってくれ。土運ぶぞ」


「はい」


籠を受け取る。


棒は背中に回したまま、道を塞ぐ石や枝を片づけ始めた。


◇


仕事は単純だった。


石を拾って籠へ入れ、運ぶ。枝を集める。大きな石は何人かで動かす。


デインが一人で抱えようとして、ガイルに止められていた。


「いけるって」


「道まで一緒に壊すな」


「ガハハ、そりゃ困るな!」


結局二人で運んでいた。


俺も何度も往復する。


防具のせいで少し暑いが、石や枝を扱っていると、服だけの時より気が楽だった。棒も背中に回してしまえば邪魔にはならない。


斜面側では、エルナがしゃがんで土へ手を向けていた。


しばらく見ていると、道に広がった土の一部がゆっくり動いた。


一気に持ち上がるわけではない。


崩れた土が少しずつ寄り、道の低いところへ集まっていく。


「おお……」


思わず声が出る。


エルナがこちらを向いた。


「何ですか?」


「昨日聞いたやつだなと思って」


「昨日?」


「道を直す仕事にも使うって」


「ああ」


エルナは少し笑い、また土へ目を戻した。


「こういうのはやりやすいです。土が多いので」


昨日の言葉を思い出す。


土なら、ありますから。


今は確かに、目の前にいくらでもあった。


エルナが寄せた土を、別の冒険者たちが鍬のような道具で広げていく。その上を何人かで踏み、平らにしてから次へ進む。


魔法を使えば全部終わる、というものではないらしい。


それでも、離れたところの土を何度も籠で運ぶ必要がないだけで、かなり違った。


「そこ、もうちょい右に欲しい!」


声が飛ぶ。エルナが手を動かす。土が寄る。


「行きすぎ!」


「……すみません」


今度は少し戻る。


「そこそこ!」


エルナが小さく息を吐いた。


近くで見ていると、昨日聞いたほど簡単には見えなかった。


◇


しばらくして、斜面の近くで作業していた男が大きめの石へ手を伸ばした。


その時、上の方から小さな音がした。


ころ。


続けて、ぱらぱらと軽い音が落ちてくる。


顔を上げる。小石が二つ、土の表面を転がっていた。


「ちょっと待って」


男が手を止める。


「何だ?」


「今、上から石が落ちました」


何人かが斜面を見る。


フェンが少し離れた位置から上を窺う。


「どの辺っすか?」


「あそこです。出っ張ってる石の左」


指を差す。


見た目には、さっきとほとんど変わらない。


それでも耳を澄ますと、ときどき細かな音がする。


土がさらさら落ちる音。小石が何かへ当たる音。


風に揺れた枝の音とは少し違う。


「まだ何か落ちてます」


ガイルが斜面を見る。


「一回離れるか」


近くにいた人たちが下がる。


しばらく待つ。


何も起きない。


聞き間違いだったかと思い始めた時、さっき指した辺りの土が一筋だけ崩れた。


小さな石がいくつか転がり、道へ落ちる。


量は多くない。


それでも、少し前まで男が立っていた辺りまで届いた。


「……そこは触らん方がいいな」


依頼主が言う。ガイルも頷いた。


「他からやろう」


危ない場所が全部わかるわけではないが、たまたま、落ち始めた音が聞こえただけだった。


でも、それで一度手を止められた。大きな問題にならなくて良かった。


◇


斜面から離れたところでは、作業がそのまま続いた。


水が流れたらしく、道の端には泥になった場所もある。そこへ乾いた土を入れ、石を混ぜて、人が踏んで固めていく。


俺も籠を運ぶ。


途中で足を取られそうになった時だけ、背中の棒を外して地面へ突いた。


「おっと」


少し沈んだが、体を支えるくらいには使えた。


近くにいたフェンが見る。


「杖になってるっすね」


「今日はそっちの方が役に立ってます」


「武器じゃなかったんすか?」


「武器です」


そこは譲らない。


ぬかるみを抜けると、また背中へ戻した。


◇


昼を過ぎる頃には、道が狭くなっていた場所もかなり広くなっていた。


道を塞いでいた大きな石は端へ寄せられ、低かった場所には土が入っている。


依頼主が何人かを連れて端から端まで歩き、足元を確かめた。


「この辺、もう一回踏んでくれ」


言われた場所を数人で踏み固める。


別の場所ではエルナが土を少し足し、デインとガイルが大きめの石を動かしていた。


フェンは斜面側を見ながら、何度か上を確認している。


俺は土を運びながら、ときどきそちらの音にも気を向けた。


さっきのような音はしない。


だからといって安全だと言えるわけではない。


何も聞こえない時は、何も言わなかった。


◇


最後に小さな荷車を一台通すことになった。


依頼主が手綱を引き、冒険者たちが左右から様子を見る。


車輪が新しく土を入れた場所を通る。


少し沈んだ。


「止めろ」


すぐに声が飛ぶ。


荷車を戻し、その場所へもう少し土と石を入れた。


今度はエルナも近くまで来て、地面を見ながら少しだけ土を寄せる。


「これくらい?」


依頼主が足で踏む。


「もう少しだな」


また土を足す。踏む。


今度は沈まない。


もう一度荷車を通す。


ゆっくりだったが、最後まで抜けた。


誰かが小さく拍手した。


デインだった。


「通ったな!」


「一本通っただけだ」


ガイルが言う。


「十分だろ!」


その声につられて、何人か笑った。


大げさなことではない。


道一本を、少し通れるようにしただけだった。


それでも朝来た時とは空気が違っていた。


◇


作業が終わる頃には、靴も防具も土だらけになっていた。


エルナの服も同じだった。


「魔法使っても汚れるんですね」


「何だと思ってたんですか?」


「もっと離れたところから綺麗にやるのかと」


「無理です」


昨日より返事が早い。


そこへフェンが入ってくる。


「エルナ、朝からずっと土触ってたっすよ」


「触った方が分かるので」


「昨日も同じこと言ってました」


俺が言うと、エルナがこちらを見る。


「言った通りだったでしょ?」


「確かに」


乾いた土や水を含んだ土。それから石の多いところ。


昨日までなら、どれもまとめて同じものとして見ていた気がする。


今日一日働いただけで細かな違いまで分かるようになったわけではない。


それでも、エルナが何を見ているのかは少しだけ想像できるようになった。


依頼主が道を一度見回して頷く。


「今日はここまででいい。斜面の方は様子を見る」


完全に直ったわけではないし、まだまだ危ない場所も残っている。


それでも、人と小さな荷車が通れるだけの幅はできた。


帰る準備をしていると、エルナが俺の背中を見る。


「今日は棒、あまり使いませんでしたね」


「杖として役に立ちました」


「それは便利ですね」


「武器のはずなんですけどね」


エルナが笑った。


町へ戻ったら、防具も手袋も洗わないといけない。棒にも少し泥が付いている。


面倒だなと思いながら、みんなと一緒に歩き出す。


足元には、まだ土が続いていた。

40話まで読んでいただき、ありがとうございます。


少しずつですが、物語も進んできました。


ライアスの生活も、最初の頃とは少しずつ変わってきています。


まだまだ続きますので、引き続きゆっくりとお付き合いいただけたら嬉しいです。


次回はまた幕間を挟みます。


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