↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/58

第39話:土の話

新しい防具を買ってから数日。


着始めた頃に気になっていた肩の擦れは、留め方を変えるとだいぶましになった。棒の革紐とも、今のところ喧嘩していない。


その日は昼過ぎに仕事が終わった。


朝から町の中で荷物を運んでいたので、腹が減っている。


ギルドで報告を済ませ、以前セラに教えてもらった食事処へ向かった。


安くて、量もそこそこある。何度か来るうちに、すっかり覚えてしまった。


店へ入ると、空いている席を探すより先に、見覚えのある顔が目に入った。


「あ」


向こうも気づいた。


《緑の風》のエルナだった。


一人で食事をしている。


商隊の仕事では何日か一緒にいたが、ガイルたちがいないところで会うのは初めてだった。


「こんにちは」


声をかけると、エルナが少しだけ姿勢を正した。


「……こんにちは」


「一人なんですか?」


言ってから、当たり前のことを聞いた気がした。


エルナも少し困ったような顔をする。


「はい。今日はみんな別々なので」


会話が途切れた。


別に隣へ座らなければいけないわけでもない。そう思って空いている席を探していると、エルナが向かい側の椅子を指した。


「……よかったら、ここ空いてますので」


「いいんですか?」


「はい」


ありがたく座ることにした。


◇


今日の料理は肉と豆を煮たものだった。前にも食べたことがある。


注文すると、エルナが俺の背中へ目を向けた。


「それ……棒? 武器なんですか?」


やっぱり目立つらしい。


「はい」


「前は持ってませんでしたよね」


「ベルドへ行った時は、何も持ってなかったです」


猪に遭ったことと、その時に拾った枝を使ったことを簡単に話す。


エルナは何度か頷いた。


「それで棒を?」


「剣とかも触ってみたんですけど、俺にはこっちの方が分かりやすくて」


「……珍しいですね」


「やっぱり?」


「少なくとも、あまり見ません」


武器屋にもなかったので、そうなのだろう。


「でも、いいと思います。自分が使いやすいものの方が」


「まだ全然使えてないですけどね」


「最初はみんなそうだと思います」


そう言われると、少し安心する。


料理が運ばれてきたので、しばらく食べた。


エルナは、話さない時間をあまり気にしないらしい。俺も無理に話題を探さなくていいので、思っていたより気楽だった。


◇


半分ほど食べたところで、商隊の時のことを思い出した。


魔物に遭った時、エルナは土を動かしていた。あの時は戦っている最中で、どうやっているのか考える余裕がなかった。


「そういえば、聞いてもいいですか?」


エルナが匙を止める。


「何ですか?」


「《土魔法適性》って、土がないところだと使えないんですか?」


エルナが少し考えた。


変な質問だっただろうか。


「土がないところ……?」


「石の床だけの建物とか」


「ああ」


ようやく意味が伝わったらしい。


「普通の土がある方が使いやすいです」


「やっぱりそうなんですね」


「でも、土って大体どこにでもありますから」


言われてみれば確かにそうだ。


町の中にも道の脇には土があるし、建物の外へ出ればもっとある。町の外なら言うまでもない。


「砂でもいいんですか?」


「はい。砂とか、粘土っぽいものでも。全部同じではないですけど」


「同じじゃない?」


「動かしやすさが違うというか……」


そこまでは、いつものエルナらしく少し言葉を探していた。


けれど、匙の先で皿の端を軽く指しながら説明し始めると、急に言葉が止まらなくなった。


「乾いた砂は崩れやすいし、濡れた土はまとまりやすいです。粘土っぽいところは形を保たせやすいですけど、その分ちょっと重い感じがして。あと同じ土でも、石が多いと――」


そこでエルナが口を閉じた。


俺を見る。


「……すみません」


「何がです?」


「喋りすぎました」


「いや、分かりやすかったです」


さっきまで言葉を選んでいたのに、土の話になった途端、別人みたいに滑らかだった。


エルナは少しだけ視線を逸らした。


「こういう話なら、割と……」


「得意なんですね」


「たぶん」


本人も小さく笑った。


商隊で見た時は、必要なことだけ話す静かな人という印象だった。


でも、話すことがないのではなく、話したいものがはっきりしている人なのかもしれない。


「石は?」


そう聞くと、今度はすぐに答えが返ってきた。


「石もできます」


「やっぱり動かせるんですね」


「でも、私はあまり大きいのは無理です。普通の土の方が扱いやすいので」


「できる人もいる?」


「上手い人なら。岩とか、石で作った物まで扱える人もいるって聞きます」


そこまで言って、エルナは自分で少し笑った。


「また長くなりそうですね」


「別にいいですよ」


「食べながらする話ではないかもしれません」


「俺は聞いてるだけなので」


「それ、ずるいです」


初めて少し強い言い方をされた。


怒っているわけではないらしい。むしろ、さっきまでより楽しそうだった。


◇


「でも便利ですね」


「便利?」


「戦う時だけじゃなくて、穴を埋めたりとかできそうですし」


エルナが顔を上げる。


「できますよ。道を直す仕事とか、畑の水路を作る時に呼ばれることもあります」


「冒険者の仕事で?」


「はい。魔物を倒す仕事ばかりじゃないですから」


その言葉には聞き覚えがあった。


《緑の風》と一緒にいた時にも、冒険者は普通の仕事をすると聞いた。


魔法も同じらしい。戦うところを先に見たせいで、俺が勝手に戦うものだと思っていただけなのかもしれない。


◇


食事を終える頃には、店の客が少し増えていた。


エルナが水を飲みながら言う。


「ライアスさん、最近よく町の外に出てるんですよね」


「はい。手紙を届ける仕事が多いです」


「ガイルが言ってました。最近ギルドで見かけたって」


「ガイルさんが?」


「はい。棒を背負ってたって」


やっぱり棒だった。


「それで覚えられてるんだ……」


エルナが少し笑った。


商隊の時より、表情が分かりやすい気がする。


一人だからなのか、それともさっき土の話をしたせいなのかは分からない。


「《緑の風》は最近何してるんです?」


「色々です。明日は町の外へ行きます」


「護衛ですか?」


「いえ。道を見に行く仕事です」


「道?」


「少し崩れたところがあるみたいで。雨の後から危ないって話が出てるらしいです」


そういえば何日か前に雨が降った。


長く続いたわけではないが、町の外の道なら影響が残っていてもおかしくない。


「直すんですか?」


「まず見てからだと思います。直せるところなら、そのまま少しやるかもしれません」


「じゃあ、さっき言ってたやつですね」


エルナが一瞬きょとんとしてから、頷いた。


「……そうですね」


それから、少しだけ嬉しそうに続ける。


「土なら、ありますから」


その言い方が妙に印象に残った。


◇


店を出るところで、エルナとは別れた。


「じゃあ、また」


「はい。また」


数歩進んだところで、後ろから声がした。


「ライアスさん」


振り返る。


エルナがまだ店の前に立っていた。


「今度、土の違いを見るなら、実際に触った方が分かりやすいと思います」


「俺が土を?」


「はい。聞くだけよりはきっと」


言ってから、本人が少し困ったような顔をした。


「……別に、今すぐじゃなくていいですけど」


「分かりました。是非今度お願いします」


そう答えると、エルナは小さく頷いて、今度こそ歩き出した。


商隊で一緒だった時より、少しだけ話しやすくなった気がする。


背中の棒が歩くたびに少し揺れる。


腹も満たせたし、今日は思っていたより長く話して、色々と知ることができた。


今日、あの店を選んだのは正解だったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。