↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な《聴力強化》で、今日も飯を食う  作者: 話半分


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/52

第35話:同じ木なのに

翌日、棒を持ってギルドへ行った。


昨日よりは人にぶつけず歩けるようになったが、入口ではまだ少し気を使う。棒を縦にして中へ入ると、受付のセラが気づいた。


「できたんですね」


「できました」


「どうです?」


「町の中だと邪魔です」


「最初の感想がそれなんですか?」


「外で使う分には、たぶん大丈夫です」


セラが笑う。


棒を見せに来たわけではない。以前、武器の使い方を覚えたいと相談した時、初心者でも参加できる稽古があると聞いていた。


「前に、初心者でも参加できる稽古があるって言ってましたよね」


「武器の使い方を習いたいって話をした時ですね」


「これでも教えてもらえます?」


棒を持ち上げると、セラは一度見てから頷いた。


「聞いてみましょうか。今日は裏で何人か練習しているはずです」


「お願いします」


◇


ギルドの裏には、広くはない空き地があった。端には木を組んだ的がいくつか置かれ、表面には何度も叩かれた跡が残っている。


練習していた三人ほどのうち、一人にセラが声をかけた。ギルドマスターより少し若い男で、俺の棒を受け取ると、長さや重さを確かめるように持ち替えた。


「変わったの持ってきたな」


「棒です」


「見れば分かる。これを使うのか?」


「そのつもりです」


男は棒を返してくる。


「何ができる?」


「猪に一回当てました」


「それは、できるに入らねえな」


「やっぱり?」


「当てただけだろ」


「当てて逃げました」


「なおさらだ」


男が笑った。


それでも教えてはくれるらしい。最初に言われたのは、構えてみろ、だった。


両手で握ると、すぐに声が飛んだ。


「力入りすぎ」


「またですか」


「また?」


「昨日も言われました」


「なら直せ」


握る力を抜く。


「今度は抜きすぎだ。落とすぞ」


「どっちですか」


「その間だよ」


棒なら剣より簡単だと思っていたが、持つだけでもまだこれだった。


◇


最初は、棒を前へ突き出す動きだった。


大きく振りかぶらず、足を動かしながら前へ出す。言われた通りにしたつもりだったが、先端は的の横を通った。


「外れました」


「見りゃ分かる」


もう一度やると当たったが、勢いをつけすぎて体まで前へ流れた。三回目は力を入れすぎ、棒が的に当たった瞬間、手のひらへ衝撃が返ってくる。


「痛っ」


「的と力比べしてどうすんだ」


「強くやった方がいいのかと」


「当たらなきゃ意味ねえし、当たって自分が崩れても意味ねえよ」


猪の時は、近づかせたくなくて前へ出した。それだけで何とかなったから、もっと単純だと思っていた。


実際には、足の位置も握り方も、棒を出す方向も気にしなければならない。


次は横へ払う動きだった。


今度は的に当たったが、棒が流れすぎて戻すのに時間がかかった。


「それだと二回目来たら間に合わねえぞ」


「猪の時は二回来ました」


「よく無事だったな」


「俺もそう思います」


何度か繰り返すうち、棒に振られることは減ってきた。上手くなったというより、どう動かすと自分が崩れるのか分かってきた、くらいだった。


◇


何度目かに横から棒を当てると、乾いた音がした。


もう一度振ると、今度は鈍い音が返ってくる。


「あれ?」


「どうした」


「今、音が違いませんでした?」


男が的を見る。


「当たった場所が違ったんだろ」


確かに、最初は中央に近く、今は端の方だった。


「そういうものですか」


「木なんだから場所で変わるだろ」


男は続けろと手で示した。


練習を再開しても、音が気になった。次は少し低く、その次は短く乾いて聞こえる。


強く当てれば大きく、弱ければ小さくなる。それだけではない気がした。


試しに、さっき乾いた音がした辺りを狙う。


外れた。


「……難しいな」


「何がだ」


「同じ場所に当てるのが」


「そっちかよ」


同じ場所へ同じくらいの強さで当てて音を比べたい。だが、その前に狙った場所へ当てる必要があった。


◇


少し休憩してからも、音のことは気になっていた。


的は何枚かの木材を組み合わせて作られている。叩かれ続けた場所はへこみ、端の方は比較的きれいに残っていた。


今度は強く振らず、確かめるように軽く当てる。


中央は乾いた音がし、少し下へずらすと低く聞こえた。端では短く鳴る。


「ここ、さっきと音違いますね」


近くで休んでいた別の冒険者が的を見る。


「そりゃ違うだろ。そこ傷んでるし」


「傷んでると違うんですか?」


「違うんじゃねえの?」


言われてみれば当然なのかもしれない。


木工所で働いていた時にも、叩く場所で音が違うことはあった。ただ、今は自分で棒を当てる場所を変えられる。


中央、少し横、さらに端。同じ的でも、場所を変えるたびに聞こえ方が違う。


何が違うのかは分からない。木の厚さか、傷み方か、組み方か。それとも俺の振り方が毎回違うだけかもしれない。


もう一度、さっきと同じ場所を狙う。


今度は少し外れた。


「まず当てる練習しないとな……」


音を比べるのは、その後らしい。


◇


練習が終わる頃には腕が重くなっていた。


棒を持って帰ろうとすると、最初に教えてくれた男が声をかけてくる。


「次来るなら、今日やった動きくらいは忘れんなよ」


「前に出すのと、払うのと、当てるの?」


「まずそれでいい。変なこと考える前にな」


「変なこと?」


「途中から的の音ばっか聞いてただろ」


見られていたらしい。


「ちょっと気になって」


「余裕あるな」


「全然ないです」


実際、腕は重く、手のひらも少し痛い。上手くなった実感もほとんどなかった。


帰る前に、許可をもらってもう一度だけ的の前へ立つ。


力を入れすぎないようにしながら、さっき当てた辺りを軽く叩く。乾いた音が返ってきた。少し位置をずらしてもう一度当てると、今度はそれより鈍く聞こえる。


理由はまだ分からないし、同じ強さで叩けているかも怪しい。


ただ、同じ木なのに聞こえ方が違う。


それが気になって、もう一度だけ棒を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。