第26話:指名依頼
今日もギルドへ。
いつものように掲示板へ向かおうとしたところでセラに呼び止められた。
「ライアスさん、ちょうどよかったです」
「何かありました?」
「ありました。というより、来てもらえてよかったです」
セラが受付の下から一枚の依頼票を出す。
受け取って見ると、場所に見覚えがあった。
「これ、ダンさんのところですね」
木工所の名前が書いてある。
「はい。向こうから、ライアスさんに来てもらいたいって」
「俺に?」
思わず聞き返した。
前にも同じ木工所から仕事が出たことはある。
でも今回は最初から俺が来てほしいと書かれているらしい。
「指名ってことですか?」
「今回はちゃんと指名依頼ですね」
今回は、というところが少し気になった。
「前のは違ったんですか? 一応、『耳のいいやつ』みたいな希望があったって聞きましたけど」
「ほとんど指名でしたけど、依頼票には名前は書いてませんでしたから」
「違いが細かいですね」
「ギルドの決まりなので」
そういうものらしい。
特別な仕事というわけではない。工房で完成した品や材料を移動させる手伝いで、一日仕事。
報酬も普段の日雇いと大きくは変わらなかった。
商隊の仕事をした後だと少なく見える。
ただ、今日は魔物が出る予定もない。
それにわざわざ俺を指名してくれた依頼だ。
嬉しくないわけがない。
◇
木工所へ行くと、ダンは奥から板を抱えて出てきたところだった。
俺を見ると、そのまま顎を上げる。
「来たか」
「俺を頼んだって聞きました」
「ああ」
板を置き、今度は俺の手を見る。
「それ、買ったのか」
「これですか?」
厚手の手袋を見せる。
商隊の仕事から戻った日に買ったものだ。
「前はしてなかっただろ」
「この前、借りて使ったら便利だったので買いました」
「なら今日はちょうどいい」
工房の脇には、板材や完成した木箱がいくつもまとめられていた。
今日の仕事は、それを奥の置き場へ移したり、出荷する分をまとめたりするらしい。
「前に来た時みたいに、木は叩くんですか?」
「今日は叩かなくていい」
「そうですか」
少し残念なような、そうでもないような。
「よし。じゃあ運べ」
「はい」
耳を使わない、普通の仕事だった。
◇
板材を何枚かまとめて運ぶ。
手袋があると、木の端を持っても手のひらが痛くなりにくい。
次は縄でまとめられた細い木材を運んだ。
縄を掴んで持ち上げても、素手よりずっと楽だった。
「これ、結構いいな」
「今さら気づいたのか」
近くにいたダンに聞かれていた。
「買ったの昨日です」
「なら早いな」
どっちなんだろう。
午前中はそんな調子で、材料を移していった。
少し大きな束は二人で持つ。
俺が片方を持ち、もう一人の職人が反対側を持ったところで、小さな音がした。
そのまま持ち上げようとして、耳を澄ますともう一度聞こえた。
今度は少し近い気がする。
「ちょっと待ってください」
職人が動きを止める。
「どうした?」
「何か切れたような音がしました」
「切れた?」
荷物を一度下ろし、音がした辺りを見る。
確信はなかったが、板をまとめている縄を触ってみる。
一本だけ、木の角に当たっているところが毛羽立っていた。
「これかな?」
さらに少しずらすと、縄の一部が細くなっている。
「たぶんこれじゃないですかね?」
職人も覗き込む。
「ああ、こりゃ駄目だな」
そこでダンが来て、縄をつまみ引っ張る。
「替えた方がいいな」
「まだ持てそうですけど」
俺が言うと、ダンはこちらを見る。
「持てるのと、持っていいのは別だ」
どこかで聞いたことがあるような言い方だった。
傷んだ縄を外し、新しいものに替える。
結び直してからもう一度持ち上げると、今度は何も聞こえなかった。
「このまま運んだら切れてました?」
「すぐ切れたかは知らん」
ダンはそれだけ言って、束の端を確認する。
「途中で切れりゃ、拾って結び直す手間が増えた。それだけで十分面倒くせえ」
すぐ切れるとは限らない。
でも、途中で切れれば仕事が増える。
そう言われると、今のうちに替えておく理由は俺にもわかった。
「音、聞こえたのか?」
「糸が切れたような音がしたので」
「やっぱりお前呼んで正解だったな」
そう言って、ダンはもう次の束を見ていた。
俺は少しだけその場に残った。
前にもこの工房で、音が違う木を見つけたことがある。
今回は縄だった。
魔物がどこから来るのか聞くより、こういう方がずっとわかりやすい。
少なくとも、怖くはない。
「ライアス」
「あ、はい」
「まだ終わってないぞ」
「はい。今行きます」
考えている間にも仕事は続くらしい。
◇
午後も材料を運び、出荷する木箱をまとめた。
自分の手袋は最後まで役に立った。
少し汚れたが、借り物ではないので気にする必要はない。汚れても洗えばいい。
仕事が終わり、ダンから完了の確認をもらってギルドへ戻った。
報酬を受け取る。
金額はいつもの日雇いと同じくらいだった。
この前の商隊仕事と比べると、少なく感じてしまう。
「やっぱりあれ、結構高かったんだな」
つい口にすると、セラが笑った。
「町の外まで行って、一泊して、魔物と遭遇した仕事と比べないでください」
「そうですよね」
今日は木を運んだ。
途中で縄が傷んでいるのを見つけた。
ちゃんと一日仕事をした。
ただ、魔物は出ていない。
そう考えると、このくらいの報酬なのもわかる気がした。
「そういえば、ダンさんから定期的にお願いするかもしれないって言われてますよ」
「また俺を?」
「頼む仕事があれば、そうなるでしょうね」
自分から掲示板を見て仕事を探すようになって、まだそれほど長くない。
そのうちの一つが、俺を指名してくれるようになったらしい。
少し変な感じがした。
「じゃあ、また頼まれたら行きます」
「伝えておきますね」
今日はもう仕事を探す必要もない。
ギルドを出ながら手袋を見る。
少し木屑がついていた。
昨日買ったばかりなのに、もうちゃんと使った感じがする。
悪くない。




