第13話:もう一度、町へ
翌朝になっても、昨日考えたことは頭に残っていた。
畑を見る。
家の中を片づける。
いつものように飯を作る。
村にいれば、金はほとんど減らない。
それは間違いない。
ただ、増えもしないのだ。
残っている金だけで、この先ずっと暮らせるわけでもなかった。
だったら、やっぱり働くしかない。
問題は、どう働くかだ。
前回と同じように一週間町へ行って、宿代と飯代を払って、必要なものを買って帰ってきたらほとんど残っていない。
それだけでは、今度は足りない。
やっぱりもう一度行ってみるか。
たぶん今決断したのではない。
気持ちはすでに町に向いていたと思う。
昨日考えた時か。
村に戻った時か。
もしかしたら町を出る前からか。
どこか認めたくなかった、町でもっと働きたいという気持ちに、理由がほしかっただけかもしれない。
目標をまた決めた。
今度は、とりあえず働くためじゃなく、ちゃんと金が残る働き方を探す。
自分の欲求を認めて町へ行こう。
今回は、一週間で帰るとは決めない。
上手くいかなければ帰ればいい。
家も畑もここにある。
そう決めてから、少し長く空けても困らないように準備を始めた。
◇
まず、残っている作物を見る。
保存してある食料も確認した。
帰ってきた時に何もないのは困る。
長い間保存できるものを残し、ある程度の食料を持っていく。
町へ行けば食べ物は買える。
ただし、買えば金が減る。
前回それはよく分かった。
だから持っていけるものは少し持っていくことにした。
持っていくほど飯代を減らせるのは確かだが、その分荷物が重くなる。
町まで一日近く歩くことを考えて、ほどほどでやめておく。
家の中も見て回る。
火の始末。
窓や戸をしっかりと閉める。
前回より長く空けるかもしれないと思うと、今までなら気にしなかったところまで目についた。
いつ帰ってくるかは、まだ決めていない。
金が残る働き方が見つかれば、冬の間は町にいてもいいかもしれない。
見つからなければ帰ってくればいい。
最後に、直したばかりの道具を何本か見た。
せっかく直したのに、しばらく使わないことになるかもしれない。
「まあ、腐るものでもないか」
元の場所へ戻し、畑ももう一度確認しておこう。
一日かけて準備を終えた。
明日の朝、出発することにする。
◇
前に町へ向かった時と同じように、まだ暗いうちに村を出た。
一週間分と決めていないので、前回よりも荷物が少し多い。
歩き始めてしばらくすると、荷物の重みで肩が痛くなってきた。
「……少し多かったかも」
そう感じたものの、今さら戻ることはしたくない。
村からの荒れた道を抜け、街道に合流する。
後ろから荷車が近づいてくる音がして、あらかじめ道の端へ寄った。
荷車が通り過ぎる時、車輪の音が耳に入る。
ごろごろと鳴って、そのまま遠ざかっていった。
変な音はしない。
荷車が通ると耳を澄まして聞いてしまう。
次にすれ違った荷車でも同じだった。
全部の荷車を気にしていても仕方がないと思いつつ、どうしても聞いてしまう。
「変な癖にならないようにしなきゃな……」
昼を過ぎた頃、道端で休んだ。
持ってきたものを食べ、水を飲む。
町へ着けば宿代がかかる。
今日の飯を一回でも買わずに済んだと思えば、その分は残る。
少し得をした気分になる。
休憩を終えて、また歩き出す。
夕方が近づく頃には、見覚えのある外壁が見えてきた。
前回は、町が見えた時にやっと着いたと思っただけだった。
今回の目的地はもう少し先だ。
宿を探す前に、まずギルドを目指す。
◇
相変わらず大きめの入口からギルドの中に入る。
中は前と変わらなかった。
数日しか経っていないのだから当然か。
入口を入ってすぐの受付には列ができている。
その向こう、奥の壁際にある掲示板の前にも今日も人がいた。
武器を持った人間もいれば、何も持っていない人間もいる。
最初に来た時は、その一つ一つが気になったものだが、今は、とりあえず掲示板に何が残っているかの方が気になる。
受付の前を通り、奥へ向かおうとしたところで、
「あ、ライアスさん」
声がした。
セラだった。
受付に座ったままこちらを見ている。
「こんにちは」
「こんにちは。もう戻ってきたんですね」
「はい」
返事をしてから気付いた。
名前を呼ばれた。
前にも呼ばれていたのだから、おかしいことではないのだが。
ただ、最初にこの町へ来た時、俺の名前を知っている人間はいなかった。
今は、扉を開けて受付の前を通るだけで呼ばれるようになった。
それだけのことではあるが、少し嬉しく感じる。
「村の方は大丈夫だったんですか?」
「特には。畑も家もそのままでした」
「今回はまた一週間くらいですか?」
「いや」
少し考える。
「まだ決めてないです」
「そうなんですね」
セラは微笑みながらも、それ以上は聞かなかった。
細かく聞かれても俺も決めていないので答えられないから助かった。
一週間と決めているわけではないが、どちらにせよまた働きに来たのは確かだ。
「何か仕事ありますか?」
「ありますよ」
その答えも前と同じだった。
セラが奥の掲示板の方を見る。
依頼の受け方はもう分かっている。
貼られている依頼の全部が分かるわけではない。
でも、清掃なら何をするのか知っている。
荷運びがどれくらい疲れるかも分かる。
町の外へ出る依頼なら、場所を確認した方がいい。
夜の見張りなら、ずっと耳を澄ませ続けない方がいい。
一週間分だけだったが、何も知らなかった時よりは随分とましだ。
セラの受付を離れ、そのまま奥へ進む。
掲示板の前には紙が何枚も並んでいる。
前回は、どれを見てもよく分からなかった。
今度は一枚目から読む必要はなさそうだった。
まず、今からでも受けられそうなものを探す。
その次に、報酬を見る。
町にいるだけで金がかかる。
今回は、それを忘れないようにしたい。
何枚か見比べる。
清掃。
荷運び。
店の手伝い。
できそうなものはいくつかある。
ただ、前と同じ仕事を繰り返すだけでは、今回ここへ来た意味があまりない。
もう少し金が残る仕事。
できれば、この耳が役に立つ仕事。
そう思って見てみるが、依頼書を読んだだけでは、どれがそれなのかまでは分からない。
後ろから足音が近づいてきた。
すぐ近くで止まる。
振り返る。
何度か対応してもらった強面の男が、掲示板の近くまで来ていた。
「耳がいいやつ」
一瞬、そのまま周りを見る。
「……俺ですか?」
「他に誰がいる」
そう言われても、耳がいいやつと呼ばれたのは初めてだ。
男の手には、一枚の依頼書があった。
「仕事探してるんだろ?」
「はい」
男が持っていた紙を軽く上げる。
「だったら、お前こういうのはどうだ?」
俺は掲示板から離れ、男の方へ向き直った。




